世界でもっとも高価なコマーシャル枠

昨日はスーパーボウル・サンデーでした。アメリカの国民的イベントともいえる、プロ・アメリカンフットボールの決勝戦。非常にアメリカらしいイベントなこともあって、スーパーボウルそのものについてはこのブログでも何度か過去の記事でもとりあげられています。

今日はそのスーパーボウルのテレビ中継中に放送されるTVコマーシャルについて書きたいと思います。

1億人以上の人々が観ると言われるスーパーボウル中継ですから、当然ながら試合の合間に放映されるコマーシャルの広告料もべらぼうに高いです。

正式なデータは公表されていないそうですが、去年の場合は30秒あたり350万ドル(2億7千万円くらい)ほどだったと言われています。つまり1秒あたり約12万ドル(920万円くらい)?!WOW!年々広告料は上がってきているので今年はさらに高かったはずです。

放映されるコマーシャルの数々は「もうひとつの決勝戦」とか「スーパーボウルで一番激しい戦いはコマーシャルだ」とか言われ、試合の内容と同時に後々まで人々の話題になるので、企業の努力も半端ではありません。当然ながらスーパーボウルだけのための広告を専門の広告エージェンシーに依頼して企画・撮影、使う俳優はハリウッド映画の有名俳優・女優、監督もハリウッドの大物監督を雇ったりするし、使うコストもちょっとした映画なみ。

大物監督といえば、1984年にアップル社が起用したのは「ブレードランナー」で有名なリドリー・スコット監督でした。このときのコマーシャルが話題になって、その後のスーパーボウル広告戦が加速したとも言えます。

 

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このコマーシャルはジョージ・オーウェルの小説「1984年」を映像化したもので、「ビッグ・ブラザー」と呼ばれる独裁的な権威が人々を監視する世の中になっている・・・というSFの物語に合わせ、巨大なスクリーンで演説をする独裁者、それに向かって若い女性アスリートがハンマーを投げつけ、破れるスクリーン、驚く人々・・・と非常にショッキング。

独裁者と黙々と行進する個性のない人々は青と黒の単調なカラーで描かれ、ビッグブルーと呼ばれていたIBM社を示唆していたようです。その中を力強く走り抜ける女性は唯一カラーで、その若々しく鍛え上げられた体がいかにも革命的なアップル・コンピュータのイメージです。

このコマーシャル、制作された当時はアップル社の重役たちに大不評だったとか・・・あのスティーブ・ジョブスが非常に気に入って強行突破で上映に至ったそうです。

さて、今年のスーパーボウル・コマーシャルの中から、私が紹介したいものはこちら。日本の自動車メーカー、ホンダのコマーシャルです。

 

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アラフォー世代以上の方なら、「フェリスはある朝突然に」という80年代の大ヒット映画を覚えているはず。

今年、ホンダはこの「フェリス・・・」の続編という設定で、フェリス役だったMatthew Broderickが出演する「大人版:フェリスはある朝突然に」とでもいうべきストーリーをコマーシャルにしました。

コマーシャルのタイトルは「フェリス・・・」の原題「Ferris Bueller’s Day Off」をもとにして「Matthew’s Day Off」。

Matthewが俳優としての自分自身を演じ、仮病を使って撮影をさぼってホンダCRVで素晴らしい一日を楽しむ、という内容です。

あの「フェリス・・・」を覚えている大人なら、誰でも懐かしくておかしくて思わず大笑いしてしまうポイントがたくさん。

また、最近のスーパーボウル・コマーシャルはインターネット、ソーシャルネットワークを戦略に取り込んでいて、わざとプレビューをスーパーボウル前にyoutubeで公開、話題が盛り上がったころに本番、というパターンも多いです。

せっかく楽しみにしているコマーシャルを事前に公開するなんて、という意見もあるのですが、これがなかなか頭のいい戦略で、実はあちこちのシーンに「イースターエッグ」が仕込んであるのです。

イースターエッグというのは、イースターの日にきれいな色を塗った卵を家や庭に隠し、それを子供たちが見つけるというゲームに使われる卵のこと。よく映画がDVD化されるとボーナスでついてくるコンテンツ(NG集、解説、予告編、などなど)の中に、どこにも説明はないのだけどある一ヶ所で「リモコンの右ボタンを押すとこの特別シーンが再生される」などと隠された仕掛けがあって、説明はされていないので口コミを頼るしかなく、ファンサイトなどではどの場所にどんな隠しコンテンツがあったか、で盛り上がったりするのです。この隠しコンテンツを「イースターエッグ」と呼びます。

ホンダのコマーシャルの場合、クリックしたら何かが始まるというタイプのイースターエッグではないのですが、たとえばある場面で背景のお店の中に飾られているマネキンが、「フェリス・・・」の中でMatthewが着ていたのと同じベストを着ている!といった、一度ポーズボタンを押して画面をとめないとわからないような仕掛けがあるのです。

すると、スーパーボウルで一回だけ流れるのではなく、事前にyoutubeで公開し、話題になり、「この場面のここにこんなものが写っている!」といったファン同士での口コミが広がることが重要になるのです。

そしてスーパーボウル当日、このコマーシャルが流れればいっそう盛り上がって「ほら、この場面だよ!」などと人々が情報を交換し、さらにスーパーボウルが終わってもイースターエッグを見つけたい人はyoutubeでコマーシャルを何度も何度も再生することになるのです。

「フェリス・・・」は私にとっても非常に懐かしい映画なので、このコマーシャルは個人的にもとても気に入りました。同じ世代の人ならわかる、という一体感も嬉しかったりします。あれから26年(!)もたっているのに、相変わらず少年のおもかげを残したMatthewもチャーミングです。

それから、撮影した場所がサンタモニカのビーチ中心であるところも、地元に住む私には親近感が持てました。

Matthewが遊んでいる遊園地はサンタモニカ・ビーチの桟橋の上に建てられたPacific Parkです。ここはアメリカ唯一、海の上に張り出した桟橋の上の遊園地で、ここの大きな観覧車はサンタモニカのシンボル。

私も観覧車に乗ったことがありますが、青い水平線が視界いっぱいに広がる景色は本当にさわやかで気持ちのいいものです。

開拓しなければならない中国市場をターゲットにしてチャイニーズ・ニューイヤーのシーンを盛り込んでいるところもなかなかクレバー。

しかし、若いときに大ヒットを飛ばしてしまった俳優はこのように何年もたったあとに続編のような作品にはあまり出たがらないものだと言われますが(やはり若いころの姿と比較されてしまうからでしょうか)、今回ホンダがMatthewを説得するのにもかなりの苦労があったという噂を聞いています。

1秒あたり約12万ドルという広告料とはまた別に、この大物俳優を起用しての制作費用、過去の大ヒット映画続編という権利に関するコストもあったことでしょう。どれほど莫大な金額だったのか、きっと私には一桁や二桁違ってもあまり実感できないような数字だったのに違いありません。

それだけ今年は気合が入っているというホンダの意気込みが伝わってきます。

アメリカでは韓国勢や復活してきたビッグスリーに押され気味の日本車メーカー勢ですが、震災の影響からも立ち直り、今年はぜひ巻き返しの第一歩を踏み出してほしい。そんな願いを込めてホンダのスーパーボウル・コマーシャルを取り上げてみました。 

世界でもっとも高価なコマーシャル枠” への6件のフィードバック

  1. 元の映画がシカゴで撮影されたものなので、ここシカゴでは、このCMが別の場所で撮影されたことを残念に思う人もいたようです。逆にサンタモニカの人たちはうれしかったんですね。

  2. フットボールの試合自体は見なくても、CMを見るためにテレビの前に座ってるという人もいて、すごいな~と思いますね。
    試合の前日には、日本の”NG集”みたいな、過去のコマーシャル特集番組もあるし、これはもう一つのイベントですよね。

  3. 今朝、Trader Joe’sで買い物していたら、「CMでどれが一番好きだった~?」「おばあちゃんが出てたやつ~」「あーあれ!?面白かったよねー!きゃー!」的会話が店員さんたちの間で交わされていました。
    スーパーボウルはゲームだけじゃなくて、いろんな楽しみがあるイベントですね(私はハーフタイムのショウが楽しみ)。

  4. INDさん、コメントありがとうございます!

    やはり人気映画は特別な思い入れがある人が多いので、シカゴの皆さんに限らず、「大好きな映画をコマーシャルに利用された」と気分を害する人もたくさんいるようです。実際youtubeのコメント欄を見ると「思い出の映画を汚しやがって、一生ホンダは買わねー!」みたいなコメントがけっこうありますね(笑)

    しかし企業にとっては、ネガティブでもポジティブでも大きな反響がある、ということが大事なので、そんなコメントも含めてビュー数が増えたことを歓迎していると思います。過去のヒット作を使うと決めた時点でリスクは計算済みでしょうね。

    撮影をLA近辺にしたのは、おそらく実際にCRVがもっとも売れている地域が南カリフォルニアだからではないかと私は推測しています。コマーシャルを作る際には綿密なマーケティング調査を行ってターゲットユーザーを絞り込み、限られた数分の中にどのシーンを入れるか、1秒、1秒が何人ものプロによって考え抜かれた結果なので、なんとなーくサンタモニカのビーチにしてみました、ということではないはずです。このへんはやはり、映画ではなく広告、あくまでビジネスだということですね。

  5. Erinaさん、ハーフタイムショーもすごいし、コマーシャルもすごいし、とにかくスーパーボウルは年々すごいことになってきてますよね。今年の視聴者はまた記録を塗り替えて多かったと今朝のニュースで聞きました。CMを見に行く!っていう人だっているものねー。もういっそのこと国民の休日として金曜か月曜を休みにしてほしいですね 笑

  6. Maki-Kさん、ゲームの勝敗とは別に「CMベスト10」「ワースト10」とか発表されてたりして、ほんとおもしろいですよね。ハーフタイムショー、マドンナかなり好評だったみたいで週明けの会社でもマドンナが良かった!って話があちこちで出てましたよー!

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