人気ドラマに見るアメリカの家族、今昔

今日は私のお気に入りのTVドラマ2つを通して、この50〜60年でアメリカの家族がどう変化してきたかを観察してみたいと思います。

まず、1960年代のNYを舞台に、当時の人々、生活、文化を厳密に再現している大人気ドラマ、「Mad Men」。

imdb.comより

Mad Menというのは当時広告代理店が密集していたMadison Avenueで働く広告マンたちのことで、ストーリーは広告業界を中心に展開するのですが、それとは別に社員たちの家族や当時の文化もドラマの大きな柱となっています。

最初の回の始まりから、非常に衝撃的です。「えええーーー!!60年代って、本当にこんなんだったの?!」と口をあんぐりあけて叫びそうになります。

まず、タバコ。

とにかくみんな吸っています。男も女も若者も老人も、そして妊婦も!赤ちゃんを抱っこしたお母さんも!みんなひっきりなしにタバコに火をつけます。どこでも。職場でも、病院でも、なんと患者を診察しながらドクターが吸ってます。

wellandgoodnyc.comより

そして、車。

誰もシートベルトしてません。お母さんが運転している車の後部座席から助手席へ、子供がふざけて乗り越えたりしています。

実際に第一回のタイトルは「Smoke Gets in Your Eyes(煙が目にしみる)」、制作者もまずタバコでガーンと衝撃を与えたかったのでしょう。そして次々に「60年代といえば、今とこんなに違ったんだよ」という例を描いて見せて、観る人に思わず「アメリカもここまで変わったんだなぁ」と深く考えさせる効果を生み出しています。

さて、そんなわけでパパもママもタバコを吸いまくる当時の家庭ですが、小さな子供たちはいつもテレビの前に寝転がって、大人たちの会話から断絶されています。

見た目はいわゆる古き良きアメリカの家族なのですが。amctv.comより

もちろん両親は子供を愛しているのですが、現代のアメリカでは「父と息子は友達同士」という感覚があるのに対し、60年代の家庭では、大人と子供はまったく対等な関係とはみなされていません。

なんというか、子供が家族の中心になっていないのです。わりとほっとかれています。

また、舞台となる広告会社にはゲイの社員がいて、彼はそれをひたすら隠します。カモフラージュの結婚をするものの幸せになれず苦しみます。

別の社員は子供ができなくて奥さんが養子をとりたいと言うのですが、そのことを恥ずかしく感じて人から隠そうとします。

この2点が次に紹介する現代版家族のドラマと非常に対照的なのです。

 

imdb.comより

さて、2012年のアメリカの家族が60年代とどれほど違うかよくわかるのが、いまどきのアメリカの家族をユーモアたっぷりに描くコメディ、「Modern Family」。題名もまさにそのまま「いまどきの家族」ですね。

現代を生きている誰もが「ああ、あるある、そういうこと」と大笑いしながら共感できて、最後はいつも「やっぱり家族っていいなぁ」と暖かい気持ちになれる、ハートフルなコメディです(なんかいつも暗くてみんな悩んでいるMad Menと大違い)。

ここに出てくる家族は・・・

 

yidio.comより

・メインとなる、できちゃった結婚の夫婦。子供は3人いるんだけどまだまだ若くてパパはiPadに大興奮だったり携帯メール(アメリカで言うテキスト)を若者風に書こうとして失敗したり。長女は16歳だけどメイクばっちり、24時間テキストしてます。しゃべりかたもいかにもいまどきの若者。

 

 

fanpop.comより

 

・メイン夫婦の奥さんの父親は×1で30くらい年下のセクシー美女と再婚。若い奥さんはコロンビアからの移民で連れ子の男の子がいる。

 

 

 

 

realcityny.comより

・メイン夫婦の奥さんの弟はゲイで、パートナーの男性と、韓国から養子縁組した赤ちゃんを育てている。

 

 

 

 

 

と、まさに現代のアメリカを代表する3家族。

この3家族が集まると、中心となるママは、自分と同じ年くらいの父親の再婚相手と衝突したり、彼女のアクセントのある英語がわからなかったり、自分の息子と父親の再婚相手の連れ子は同じ学校の同級生(でも間柄はおじさんと甥!)だし、弟がゲイであることを父親はいまだに完全に受け入れられずときに気まずくなったりするし、もうとにかくわけがわからなくなってくるのですが、それでもみんな「私たちは家族」という意識を持ってお互いを大切にして暮らしています。誰とも血がつながっていない韓国からやってきた赤ちゃんも、みんな当然のように「孫」「姪」としてとても可愛がります。

Mad Menで描かれていた「スーツを着たかっこいいお父さん、専業主婦の優しくてきれいなママ、きちんとした服の可愛い子供たち」という、いわゆる「伝統的な家族」からかなり逸脱した家族ばかり。

結婚前の妊娠、アダプション(養子縁組)、ゲイ・カップル、離婚・再婚、異なる人種間の結婚、という現代アメリカのテーマがぎっしりとつめこまれています。

ゲイであることをひた隠しにし、養子縁組に偏見を持っていたMad Menの登場人物と、なんと大きく違うことでしょう。

そして親子の関係が限りなく対等に近く、ともすると逆転しています。メインの夫婦の長女は最初のエピソードでまだ15歳なのにメイクばっちりで彼氏を家に連れてきます。パパは彼氏に「いかにまだまだ若くて対等に話せる父親だと思われるか」苦心して若者言葉で話そうとし、かつ「父親としての威厳は見せたい」と思って失敗してしまい、長女に「いい加減に私に恥をかかせるのはやめて!」と冷たく突き放されたりしています。

50年代とくらべるとだいぶ父親の威厳が弱まっていて、かわりに子供たちの存在がとても重視され、子供たちの精神状態などに配慮する両親の様子が描かれます。Mad Menのほうでは「子供をそんなふうに扱ったらあとで非行に走っちゃうよー」と言いたくなるようなシーンがとても多いのですが・・・

ちなみに、カリフォルニア大学サンディエゴ校の経済学者によると、1965年と2007年を比較して親が子供と過ごす時間は2倍近くに増えているらしい、とNY Timesの記事に書かれています。

これは、1965年のほうが専業主婦がずっと多かったことを考えると非常に興味深い数字です。当時の専業主婦よりも現代のワーキングマザーのほうが、子供と過ごす時間自体は多くなっているのです。

記事の分析によると、60年代の主婦が一番時間を使っていたのは「育児」ではなく「家事」。今のような便利な機械も少なく、時間がかかっていたので、子供は家の前で適当に遊ばせて家事に集中していたのではないか、とのこと。

この記事をとりあげたある女性ブロガーは、「母親から私が子供のころの絵本を譲り受けたら、どれもすごくきれいで傷ひとつなかった。私の2歳の息子は1日でぼろぼろにしてしまうのに。どうして?と聞いたら、母が子育てしていたころは子供が自分で読めるようになるまで本は触らせなかった、読み聞かせなんてしなかった、と・・・。現代では読み聞かせしないなんて子供の虐待にひとしいと言われるのに」とコメントしていました(虐待にひとしいっていうのは冗談です。読み聞かせが非常に重視されていることを冗談で強調しています)。

全世界的に子供の人権というものが重視されて体罰が批判されたり、子供の情操教育と成人してからの性格への影響などといった研究がされだしたのはごく最近のことなのですね。どうも60年代には「時間をかけてしっかり子供と関わることが大事」などとあまり強調されていなかったようです。

Modern Familyでは、当然ながら誰もタバコを吸っていません。子供たちはしっかりシートベルトをつけて後部座席に座ります。

ゲイ夫婦が子供をプリスクールに入学させるときのエピソードが非常に面白いです。

人気のあるプリスクールはすぐにいっぱいになってしまうので入学競争が激しいのですが、多様性を強調するプリスクールへの入学は、マイノリティであればあるほど有利になります。

ゲイ夫婦は「僕たちはゲイだし、子供はアジア人なんだから、きっとすごく有利だよ!」と自信たっぷり。しかし面接が終わってプリスクールを出るとき、すれ違ったのが、レズビアン夫婦とその養子。「しまった、これは手ごわそう!」と思った次の瞬間、女性の1人が車椅子に乗っているのに気がつきます。「レズビアン夫婦、海外からの養子、そしてハンディキャップ!負けたー!」とショックを受けるゲイ夫婦。

前述したようにゲイや養子が非常にオープンになってきただけでなく、こういう場面では有利でさえあるという、Mad Menワールドとの違いがここでも際立っています。

ちなみにこのドラマの舞台はLAなので、これは現代のアメリカらしい、というよりもLAらしい、と言ったほうがいいかもしれません・・・州によってはこのような現象はまだ当たり前とまではいかないでしょう。

大人になってから渡米した私は現代アメリカしか知らず、アメリカって昔からこういうところだったのかと多くの勘違いをしていたことが、Mad Menを観て初めてわかってきました。

私が今住むカリフォルニアはとくに喫煙に厳しい州で、レストランを中心に人がたくさん集まる場所、公共の場所はすべて禁煙です。建物全体が禁煙で、屋内に喫煙所というものはありません。また、そういう建物の入り口何メートルは禁煙などと決まっていたり、レストランの外の席とその周辺も禁煙です。さらにアパートの大家さんが禁煙と決めていたら、そのアパートはたとえ自分の自宅でも禁煙。アパートの敷地内も禁煙。そこに住んで喫煙したかったら、アパートを出てしばらく遠くまで歩いてから吸わなければなりません。

メディアでの喫煙シーンや広告もかなり規制されたので、いまや「タバコを吸っている」というイメージはマイナスでしかありません。自分をコントロールできない、不健康、未熟、教養がない・・・といったイメージです。

日本も最近はずいぶん喫煙者の肩身がせまいと聞きますが、私が渡米したころはまだまだそれほど厳しくなかったので、渡米して最初にアメリカに対して持ったイメージが「喫煙に厳しい」になってしまいました。それが50年前はこんな状態だったとは。

家族についても、日本と比べてアメリカでは男性がかなり家事や育児に参加する傾向があると思っていたのですが、これもアメリカではごく最近のことで、少し遡れば全然そんなことない。

こうして考えてみると、アメリカも日本も、家族のあり方や文化が数年のタイムラグで同じように変化しているのかもしれません。

ぜひ2つのドラマを見比べて皆さんの感想も聞かせてください。 

人気ドラマに見るアメリカの家族、今昔” への1件のフィードバック

  1. 一つの国の中でも、何が大切か、という価値観はこうやって変わっていくものですね。
    異文化間の違いもそうですが、ジェネレーション間の違いもなかなかやっかいで、特に子育ての常識なんて、一年代違ったら全然違いますもんね。これは日本だけでなくアメリカもありますね。笑

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