チアはスポーツではないが、チアリーダーはアスリートである

こんにちは

アメリカの大学の長い長い夏休みも終わり、8月下旬よりFallセメスターが始まりました。我がスピリットスクアッド(応援団)が応援活動を行うスポーツ(バレー、男女バスケ)も本格的にシーズンとなりました。

そして、気づいたら三十路ではなくなっていました。Nao(31)です。

今季はチームがSNS広報に力を入れているらしく、チームのメンバー紹介やお誕生日祝いなども毎回丁寧にやってくれます。

良かったらその他のメンバー紹介などもご覧ください。

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31歳の誕生日に練習前にロッカールームに入ったら、チームのメンバーにバースデーソングを歌ってもらってケーキまで貰うサプライズをしてもらいました。本当に、アジアの怪しいオッサンにも優しい子たちです。

 

今回は、「応援活動」と「競技」についてお話ししたいと思います。

 

【応援活動】

大抵どのアメリカの大学のアスレチックウェブサイトを見ても、「Sport」の欄にチアがあることはほぼありません。大体「Fans」みたいな謎のタブのところに「Spirit Squad」だの「Spirit Group」だのと分類されていることが多いです。それは結局、アスレチックチームではなく、第一に「学校の精神を高揚する集団=応援団」であるからです。これは大学に限らず、高校のチームにも当てはまります。

応援活動で、観衆を「リード(Lead)」するために、声援(Cheer)に加えて考え出された組体操やアクロバットなどの技術が発展してきたので、それを使って各チームで競技として戦ってみよう、というのが競技のチアリーディングの始まりです。

(規模・収益全米一のアラバマ大学フットボール)

 

つまり、競技としての側面もあるけど、厳密に言えばそもそもチアはスポーツではない、ということです。これはコーチもよく言っていました。

じゃあ応援しないチームは何なの?大会にすら出なかったらさらに何なの?

ということになりますが、この辺りの定義は非常に難しいところです。まあつまり、すごく曖昧な存在なんです。アメリカでも。アメリカには本当に多くのチアのチームがあります。ほとんどの高校、大学またはコミュニティカレッジに、チアのチームがあります。でもそれぞれ全てが競技的かと言えばそうではなく、みんなそこそこ上手いのに、大会には一度も出たことが無い、なんていう大学生もたくさんいます。やはり競技の世界で戦うのを夢見て、競技チームのある大学に入ってくる子もたくさんいます。

僕は大学では競技とパフォーマンスのみだったので、スポーツの定期的な応援活動は一切したことがありませんでした。アメリカのチアリーディングのルールでは、応援活動にも厳密にルールが規定されており、やっていい技、いけない技もハッキリ決められています。例えば、体育館(硬いフロア)では、「タンブリング(床運動)は捻ってはいけない」、「片手でトップの女子を持ち上げる場合は、必ずスポット(補助)がいなければいけない」「バスケットトス、2.5段ピラミッドは禁止」などなどです。芝生だとこれが大体全てオーケーになります。その絶対的な芝生の安全性への信頼はどこから来るんでしょうか。僕は大学1年の時飛田給のスタジアムの芝生で2.5段の上から落ちて尻打ち付けて悶絶しましたよ。

なので、大した技はやらないから楽なのかなと思えばそうではなく、タイムアウトの度に決められたピラミッドやスタンツ(組体操)、タンブリングを披露し、ゲームが再開すればメガホンとポンポンを持って観衆を扇動し続けなくてはなりません。毎回全員でサイドラインに立つわけではないのですが、たまにシフトが偏っていて週3、4回試合が入っているとかなりハードですね。部員たちは「フットボールが無いだけかなり楽」と言っていますが。ちなみに前の記事でも言いましたが、日本ではチアと言えば野球応援ですが、アメリカではチアは野球を応援しません。部員にこれを言ったら、「え?どこでやんの?あの狭いところで!?それはクレイジーだ!」と仰っていました。

ただ、応援して観客が盛り上がってくれると、「あーやってよかったな。。」と実感でき、応援こそチアの本質的な部分だなと感じます。お客さんが文字通りホームなのですごく暖かいのも大きいですね。ただあまり大きな声では言えませんが、夕方に自分たちの練習がある日曜の、昼のバレーがフルセットまで持ち込むと、「(おい!ふざ…

試合応援をしていると(特に男バス)、企業がかなり深くオペレーションに絡んでいるなと感じます。タイムアウトやハーフタイムには、協賛企業による観客参加型のイベントが行われたり(子供や大人のフリースロー対決や早着替えシュート対決など)、エントランスでTシャツやタオルを配布(企業広告付き)したり、「学生スポーツとビジネスが噛み合っている」と強く感じます。

昨今の日本のスポーツトラブルの結果、大学スポーツではアメリカのNCAAに倣い、「UNIVAS」というものが日本で設立されるようです。日本の学生スポーツの未来にも期待したいところですね。

 

【競技】

我がWSUも競技チームとして、「UCA」という協会(日本のチアリーディング協会の母体であった団体)が1月にフロリダ・ディズニーワールドで開催する全米大会に出場しています。出場の枠には、「ディビジョン」という「部門」のような分類がされています。これが日本人には非常に理解しづらい。

元々NCAAは、各大学のスポーツの規模によって「ディビジョン」をいくつかに分けています。男女含めて7つ以上の部活を持っている大学は「Division I」、4~6個で「Division II」、2~3で「Division III」になり、大会などはそのディビジョンの枠の中で戦うことになります。ディビジョンによって、アスリートに払われる奨学金の質にも差が出てきます。さらに複雑なのは、花形フットボールが含まれるとD1が多すぎるので、フットボールを階層分け(サブディビジョン)して、さらに分類しています。昔は1-Aとか1-AAとか言われてたんですが、現在はFBS、FCSなどと呼ぶそうです。

難しいですね。で、チアリーディングでは、UCAやもう一つのメジャーな協会NCAで、そのディビジョンに従って部門分けをしています。「D-IA」「D-I」「D-II」など。WSUは7つ以上部活がありますのでD1の大学なのですが、先述のようにフットボールが無いので「D-I」に出場することになります。D-Iで優勝常連の「モアヘッド州立大学」というとても強いチームがあるのですが、ここはフットボール部があるものの、FBS(1-A)ではないため、D-Iに所属しています。

えー、ちんぷんかんぷんですね。日本人がこれに詳しくなっても人生で1ミリの役にも立ちません。すぐに忘れて大丈夫です。

 

で、11月上旬に、地域の高校生のチアリーディング部による大会が行われました。WSUは例年その大会でゲストとしてデモ演技を披露しており、僕もその演技のメンバーに入ることができました。演技は、大会を見据えて、大会のような「1曲目・チアパート・2曲目」の構成をベースに、基本技を中心に「1曲目・チアパート」だけを準備しました。演技は男女混成部門で、男子9人女子7人編成。日本と違い、現在はトータッチなどのジャンプも、ダンスもUCAにはありません。

チアパートというのは日本では「コール」と呼ばれていますが、音楽無しで、声援とスタンツ・ピラミッドのみで構成されるパートです。メガホンやサインボード、ポンポンを持って、各校の試合応援の要素を評価するパートということですね。学校名やチーム名、スクールカラーをアピールします。

アメリカの公立高校に入ったことが無かったので(普通の留学生は入る機会無いですね)、同じ公立教員として、どんなもんなんだろうとドキドキワクワクしていました。もちろん教室などを見る時間はありませんでしたが、雰囲気はまさにハイスクールミュージカルの世界そのものでした。部員に聞いてみたら、私立も公立も、雰囲気はみんな大体こんな感じだそうです。近隣地域のみの大会なのに、そこそこの数のチームが集まっていました。東京都立高校には10チームも無いのでびっくりですね。

観客席は、高校生たちの家族やお友達で埋め尽くされていました。チームのレベルはというと、ルール上難易度の高いスタンツやバスケットトス、2.5段ピラミッドが禁止であるため、日本の高校生チームの方が圧倒的に技術は上です。ですが、前回の記事で書いたように、「チアジム」に通っている子も多くいるため、タンブリング(床運動)に関してはとんでもないバケモノがちらほらいました。男女率は、決して男子は多くはありません。やはり、男子は高校までは別のスポーツをやって、大学からチア、という子が多いようです。

(20歳前後の子たちとセルフィーして喜ぶおじさん)

デモ演技の披露は、大会のラストだったため、しばらく演技を鑑賞することができましたが、何より観客と、見ている他チームの盛り上がりが異常でした。知ってる曲好きな曲が流れると観客まで踊り出す、DA PUMPの「USA」のアレ、あれ未だに元ネタのアメリカでは流行ってるんですが、あれを振付に入れてるチームが現れると会場悲鳴で揺れます。やはり盛り上がり方を知ってるというか、幼い時からみんなこういう空気で育ってきてることが大きいのかなと感じました。各チーム、やはりコーチはコーチで、教員では無いようです。なんとなくですが、アメリカに来て、「正規非正規」「フルタイムパートタイム」の垣根が日本ほど高くない?のか、「正規以外は全てバイト扱い」みたいな厳しい見方が日本ほど無い?からか、仕事の掛け持ちや転職が当たり前の世界だからか、コーチという生業が成立しているのかなとも思いました。日本が教員ワンオペから抜け出す未来はまだまだでしょうか。。

ということで、WSUが披露したデモ演技になります。

最初左奥から右にタンブリングで走ってくるのが僕です。アピールがうるさいのも僕です。

 

無事にこの高校大会のルーティーンが終わり、先週の日曜、ついに1月の大会のメンバー発表が行われました。

なんとかかんとか、メンバー入りに成功致しまして、ケガなどで離脱が無ければ、フロリダに行けることが決定しました!一安心です。。

大会の構成入れも同時に行われましたが、この映像の演技とは比べ物にならないくらいレベルが高く、2曲目もあるので相当にハードになりそうです。12月は試合応援に加えて授業の最終テストもあり、学期終了後から1月半ばの大会までは休みが4日くらいしかありませんでした。31歳にして激しい学生生活を送ることになりそうですが、まあそのために来たので、悔いの残らないように、ケガをしないように、なんとか頑張ります。

ようやく、「あっち側」行きの切符まで辿り着きました。

 

「チアリーディングはスポーツでは無いけれど、チアリーダーはアスリートである。」

Spirit Squadのコーディネーター(顧問のような)の方が昔学生新聞の記事で仰っていて、なるほど深いな、と思いました。

競技としての高みを目指してこそ、応援活動の質も向上するし、応援の気持ちをおろそかにしては、競技の質も下がる。二兎を追うのがチアリーダーです。

 

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