東洋の神秘

アメリカに来てから何度か鍼に通いました。

「アメリカで鍼治療?」と意外かもしれませんが、英語でAcupunctureと呼ばれる鍼治療は、アメリカでもかなり広く知られています。

カリフォルニアはアジア人が多いので、私の住むLAにはとくにAcupuncture Clinicがたくさんあるのかもしれません。

東洋医療系のクリニックが多い地域に行けば、あちこちにAcupunctureの看板があって、まるで日本よりもよっぽど鍼治療が盛んな国にいるかのようです。

鍼治療を行うドクターは東洋系の人が多いですが、なかには若い白人女性のドクターもいたりします。アメリカ国内にAcupunctureを学べる学校もたくさんあるし、優秀なAcupuncturistをたくさん輩出している名門校などもあるようです。

しかしときどきカリスマドクターなどと呼ばれるAcupuncturistは「ドクター・チョー」とか「ドクター・オー」とか、いかにも東洋的な名前だったりして、そのへんはアメリカ人の東洋の神秘に対する憧れが実績以上にカリスマドクターのイメージを強めているのかもしれません。

この「東洋の神秘への憧れ」ですが、日本人から見るとちょっと可愛いというか、ちょっとずれてるんじゃない?と思ってしまうような事例もあったりします。

theacupunctureclinicaz.com

そのひとつがAcupuncture Clinicの典型的なインテリア。

だいたい例外なく、仏像などが飾ってあります。とりあえず東洋っぽい演出をするため、仏像はマストアイテムです。アメリカのおしゃれなアジア系レストランにもよく仏像が飾ってあって、なんとか観音、みたいな、日本だったら古びた寺院の奥にありそうな仏像が、おしゃれにライトアップされていたりします。

そして仏像とセットでよくあるのが、Fountainです。Fountainは「噴水」と訳されますが、そんな大掛かりなものではなくてオフィスの机の上にも飾れるような小さくて可愛い噴水がよくギフトショップなどで売られているのですが、東洋系のクリニックにはそういう小さいものから待合室にどーんと大きいものまで飾られています。流れ続ける水の音がなんとも「ヒーリング」という感じです。

kirkhealth.com

アメリカのクリニックはどこでも観葉植物を飾ったり、座り心地の良いクッションを置いたりして、病院というよりホテルのロビーに近い雰囲気を演出しているところが多いですが、Acupuncture Clinicのような東洋系のクリニックの場合は観葉植物の中でもとくにアジアっぽい種類が使われます。

必ずと言っていいほど目にするのがこの「ラッキー・バンブー」。

竹の盆栽のようなものですが、いろいろな形があって可愛らしく、インテリア装飾にはぴったりです。

流れる音楽もヒーリング系のものが多いですが、とくに「雨音に重なって鐘が鳴っている音」など、アジアの山奥の寺院か何かを連想させる音楽だったりします。

Acupunctureはドクターがひととおり鍼をうちおわると、部屋の照明を暗くしてそういうヒーリング音楽を流し、1時間近く横になっているというのがよくあるパターンです。

実は私は日本で鍼治療をしたことがないので、日本もそういう感じなのかどうかわからないのですが、たとえば英語で「Acupuncture Clinic」と検索して出てくるウェブサイトと、日本語で「鍼治療医院」などと検索して出てくるウェブサイトを比較すると、基本的に雰囲気が全然違います。

英語のほうがバックグラウンドにやたらと東洋的なアイテム、仏像、竹、チベットの山奥で瞑想している高僧の写真なんかが使われていて、フォントなどもローマ字なのにちょっと筆書きしたようなタイプになっていたりするのに対し、日本語のほうは白が貴重の清潔感あふれる、現代の医療というイメージのサイトがほとんどです。

白衣を着たドクターや看護婦さんが写っている日本のサイトでは、若い看護婦さんの髪が茶色で、いかにも現代の若い女の子という感じ。アメリカが中国の古い歴史と東洋医療の深い知恵を強調しようとするのに対し、日本は「鍼治療は現代医療でも効果が証明されている、安全で確かな治療法ですよ」というメッセージを送っているように思えます。

agourapowerofyoga.com

鍼クリニックではなくて、ヨガ・スタジオも同じようなことが言えます。

ヨガのほうは、私も日本とアメリカ両方で体験したことがありますが、日本のヨガ・スタジオはとてもおしゃれ、シンプル、若い女性向けのインテリア。アメリカのほうは、またまた仏像、噴水、ヒーリング・ミュージック、ラッキー・バンブーで「東洋の神秘」イメージ全開です。

なんというか、私はときどき、アメリカ人に「東洋の神秘にあまり過剰な期待はしないようにね~」と言いたくなります(笑)

ハリウッド映画ではときどき、「チャイナ・タウンに住む中国人のおじいさん」が魔法のアイテムをくれたり、なにか意味深なことを言って、それがきっかけにファンタジーが展開することがあります。

そういうしかけはきっと、「東洋には何かがある・・・西洋の私たちがまだ発見していない秘密の何かが・・・」というアメリカ人の期待というかイメージがあってこそ、機能するんだと思います。

私なんかが見ると、チャイナタウンの謎の老人も日本で近所を散歩していそうな普通のおじいさんにしか見えないし、ヨガ・スタジオや鍼クリニックの仏像とか噴水もなんだかとってつけたようで笑ってしまうし、実際にカリフォルニアのまぶしい日差しがふりそぞぐクリニックに「雨の向こうで寺院の鐘がボーン、と鳴っている」音楽が流れてきたときは「無理がある~~」と思わず噴出してしまいそうでした。

でもきっとアメリカ人にはそういう雰囲気の空間がまだまだ、とてもエキゾチックで、普段嗅ぎなれないお香の匂いなんかしてくると(私にとっては、あら、お線香?誰かのお命日?という連想ですが)、「おお、ここには東洋の神秘がある!ここの鍼は効くに違いない!」と思えるのかもしれません。

いずれにしても、日本では古い伝統あるものを見直すという傾向、アメリカでは未知の神秘を追求するということで、東洋医療が注目されているのは共通の現象です。

私もきっと西洋医学ではカバーしきれない部分に効果があるに違いない、と信じて、もうしばらく鍼治療に通ってみることにします。 

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2 comments on “東洋の神秘”

  1. 確かに、「アジア」に対するアメリカ人の見方で、違和感を感じるものありますね~。新しいレストランが「アジアンテイスト」とかって売っていても、「う~ん、これかぁ?」みたいな。笑
    竹と噴水は定番ですね。

    どこかの記事で、日本のことを”exotic”と書かれていて、「日本がエキゾチック?!」と思ったのですが、「異国の」みたいな意味だから確かにアメリカ人にしてみれば日本もエキゾチックなのか~とちょっと納得してしまいました。
    日本人からみたエキゾチックって南国のジャングルみたいなイメージでしょうか?私だけ?

  2. Exotic、たしかに、アメリカから見れば日本もすごくExoticでしょうねぇ。カタカナのエキゾチックは確かに南国のジャングルとかですね。これってある意味「和製英語」かも?!
    以前、LAのおしゃれなアジアン・フュージョンのレストランってことで行ったら、レストランの真ん中に巨大な仏像の頭だけがどーんとあって、頭の上から噴水がどばーっと出ているのがありました。
    これはちょっと私はOffendedな気分でした。仏教徒ではなくても、やっぱり日本人だから子供のころから仏像は敬わなければならないものという気持ちがあるんですよね。その仏様の頭から噴水どーん、はちょっと悪趣味だし仏教に対する敬意がないと感じてしまいました・・・

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