言ってみるもの!

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先日Tatさんの記事でちらっと出てきましたが、アメリカでは「何でも言わなきゃ伝わらない!」「嫌なことは抗議しないと何の不満もないとみなされる!」というのは、本当にそのとおりだとつくづく思います。

良く言えば、自分の交渉次第で希望が通るかもしれない、という可能性がつねにあるということです。

悪く言えば、「何も言わなくてもこちらの気持ちを察してくれるんじゃないか・・・」なんて期待は一切できないということです。

日本のサービス業の質の高さは有名ですが、私の印象としては、アメリカのサービス業の人々はたとえ無愛想でも、こちらが上手に話しかけて交渉すれば案外こっちの思い通りになったりする。日本のサービス業の人たちは、にっこり素晴らしい笑顔で、「お客様、大変申し訳ございませんがそれはできかねます」と言い、そのあとどんなに交渉してもだめ。

何もトラブルさえなければ全体的に、日本のサービスを利用していたほうが気分がいいのですが、アメリカの感覚に慣れてしまうと日本の融通のきかなさというか、あまりに規律正しい感じにフラストレーションを感じてしまうことがあります。

今まで私が体験してきたいくつかの例をあげたいと思います。

  • アメリカ人の夫といると、日本人の私との違いがとてもよくわかる。新しいアパートに入居したとき、夫は交渉して家賃を下げさせ、さらに日本でいう敷金にあたるDepositを「分割払いにさせてほしい」と交渉した。

入居の前に審査があって、ちゃんと家賃を払う経済力があるか大家さんが調べるのだけど、Depositが一度に払えなくて分割にしたい、なんて言ったら印象が悪くなって入居できなくなっちゃうじゃない?と私はすごく心配だったのですが、夫は全然平気でした。

大家さんはフレンドリーだけどやや威圧感のある60代くらいの男性。さーこれで入居決定、契約書にサインしよう・・・というときになって夫が、雑談の続きのように「ところでDeposit分割したいんだけど」と話し出すと、その大家さんの顔がちょっとくもりました。

隣にいた私は、ほらー、やっぱりやめようよ、と私なんかはすっかり気弱になっていたのですが、大家さんはすぐ「ま、いっか」という顔になって「Okay」と一言。あっさり要望が通ってしまって私はかなりびっくりしました。

  • さらに、そのアパートに住んでいたら、入居前にリノベーションしてくれたフローリング風の床の一部が持ち上がってしまい、上を歩くたびにペコペコするようになってしまいました。もし私1人で暮らしているアパートだったら「あー、歩きにくいな」と思うだけでほっといたかもしれませんが、夫はこれを非常に強気でクレームしたばかりか、「このアパートは欠陥ばかりだ。家賃**ドルの価値はない。50ドル下げろ」と交渉。

私はまた横で、「大家さんっていうのは何かと普段からお世話になる人なんだから、そんなクレーマーにならないでおこうよ・・・」とヒヤヒヤしていましたが、この交渉も通って、ちゃんと家賃下げてくれました。

こう書くと私の夫がただの不機嫌なクレーマーのように聞こえてしまうかもしれませんが、大家さんがときどき立ち寄ったりすると、夫と大家さんは共通の好みの音楽について話が盛り上がったりして、お互いとてもフレンドリーなのです。大家も「面倒な住人だ・・・」と思ってる様子はないし、夫もクレームするときははっきり主張するけど、必要以上に感情的にはなりません。

いろいろ学ぶことがありましたが、実際家賃が2度も下がったというのが私にはとにかく驚きでした。

  • クレジットカードの支払いが遅れてしまうと遅延料を払わなければならないのはアメリカも日本も同じだと思いますが、この遅延料を日本で「取り消して」と交渉する人はいるでしょうか。私はそんなことを考えたこともなく、うっかり忘れてしまったらペナルティーを払うのは当然、仕方ないという考え方だったのですが、アメリカで、周囲にこの遅延料を交渉して取り消してもらい、さらに自分のクレジットヒストリーからも消してもらう、という人がけっこういるのを知ってびっくりしました。

アメリカでは日本のような銀行引き落としではなくて、インターネットや電話、小切手郵送など自分でアクションを起こして支払うほうが一般的なので、「うっかり忘れ」がより多いこともあるかもしれません。

交渉の仕方としては、カード会社に電話をかけて「自分は今まで一度も遅れたことなんかない、優良なユーザーなのに、今回一日遅れただけでペナルティがつくのはおかしい」とか「納得いかないからカードを解約する」とか言って取り消してもらうようです。

もうひとつ、駐車禁止違反とかスピード違反をした記録なども「かわりにドライビングスクールに出席するから記録は消して」などと交渉する話もよく聞きます。こういうことはアメリカに住んでいても、日本人コミュニティの中だけで暮らしていたらなかなか知らずにいたことかもしれません。交渉すること自体、思いつきもしない、ということがたくさんあります。「交渉するもんだよ」と言われてもなかなか度胸がなくてできなかったり・・・。

  • 私が出産したときのことですが、当時私が入っていた保険が「妊娠・出産」をカバーしていなかったため、診察代、入院・出産費用などすべて実費で払わなければなりませんでした。退院してしばらくすると、すごい金額の請求書が送られてきました。日本円にすると400万円くらいです。実は当時、リーマンショックのまっただなか、私と夫は2人ともほぼ失業状態で乳飲み子を抱えていたのです・・・

さっそく夫の交渉開始です。まず、アメリカの医療費はたしかに馬鹿高いですが、きちんと払う意志さえ見せれば、どんなに分割で払っても利子がつきません。私たちは「月50ドルなら払える」と言って、まずはほそぼそと支払いはじめました。その一方で夫は何度も何度も保険会社と病院に交渉して、「いやー、うちほんとに貧乏なんで払えないんすよー」と言い続けました。

しっかり診察をうけ、病院の施設を使って入院して、出産しておいて「いや、払えません」はないですよね。私は罪悪感もあるので、月50ドルでもとにかく絶対に払わなければならないと思っていました。しかし夫はそういう風には考えません。アメリカの医療制度がおかしい、自分たちのせいではない、こういうのに屈していたら貧乏人はますます貧乏になり、金持ちがますます優遇されるだけ。そう言って「払えません」と言い続けました。

1年近くたったある日。保険会社から一通の手紙が。そこには「もう払わなくていいです。先月分もいらないので返します」と書いてあり、本当に先月払った分の小切手が同封されていました・・・。

このときも相当びっくりしました。まさかそういう展開になるとは思っていませんでした。

強気で交渉するアメリカ人の夫がいなかったら、私はひたすら毎月50ドルを払い続け、やがて就職したので、そのときまとめて残りを支払いきっていたと思います。自分のためにかかった費用は自分で払う、なんて当たり前じゃないかと当時は思っていましたが、ふりかえると夫の言い分にも一理あったと思います。

そうやってまじめに「請求されたんだから払うべき」と、日本人らしくまじめになんでもお金を払っていたら、ここアメリカでは「正直者が馬鹿を見る」ということになってしまうのかもしれません。また夫の言うとおり、アメリカの医療制度、ひいてはアメリカ社会という全体像を見渡してみれば、払えと言われた金額を何も疑問に思わず従順に払い続けるという姿勢にも、もしかしたら問題があるのかもしれません。

「お上のいうことに従う」という日本人的メンタリティは、たしかに、破綻してしまっているアメリカの医療制度の中では通用しないと思います。

  • 日本に1年間住んでいたことのある、私のアメリカ人の同僚。入居したとき、同じマンションの隣の部屋に住む女性に挨拶に行き、とてもフレンドリーに接してくれて、その後顔を合わせるといつも「ハーイ」と声をかけてくれた。

が、そのうちだんだん彼女の態度が変わり、無愛想になり、なんだかいつも怒っている様子。私の同僚は「どうしたんだろう、でも僕に怒っているなら何か言ってくるはずだから、僕には関係ないことだよねー」と思っていた。

そして、もうすぐアメリカに帰国する、というくらい時間がたったころになって、ある夜、彼が自分の部屋に友達を招いてちょっとしたパーティを開いていると、いきなりドアがドンドン!!と乱暴にたたかれ、開けてみると隣の女性。怒りの形相で「あなたの音楽がうるさい!!眠れない!!いつも迷惑だ!!」と。

同僚はすぐに音楽のボリュームを下げて「ごめん、もっと早く言ってくれれば良かったのに」。女性は無言で帰っていったけど、そのとき初めて同僚は「もしかして彼女がずっと怒っていたのは、僕がしょっちゅうこの部屋で音楽を聴いていたから?!」と気がついたのでした。

でも彼にとっては、隣人の誰も何も言ってこない=誰も迷惑に思っていない、という理解だったのです。

隣の家との距離がとおーく離れていてどんなに大音量で音楽を聴いても誰の迷惑にもならないアメリカの田舎で育った彼には、「これくらいの音で聴くと隣につつぬけになる」というような感覚がなかったということもあります。

しかし何よりも、「人は誰でも嫌だと思えば直接文句を言ってくるはずだ」という彼の感覚が招いてしまった事態だったのでした。

「こんなこと言ったら気分を害するかしら」「人に迷惑をかけてないかな」「あの人は本当は嫌だけど我慢しているのかな」、そうやって人の気持ちを推測しながら暮らすことに慣れていたその日本人女性にしてみれば、「文句を言う」ということに慣れていなくて、一度言うとなったら思い切り感情を爆発させて怒るしかなかったのかもしれません。

私も日本人の感覚で育ったし、その後アメリカ暮らしが長くなったので、この同僚と隣人女性の気持ち、両方ともよくわかります。

  • 最後に私自身の交渉成功例。フリーランスで翻訳の仕事をしていたころ、事情があってLAの空港近くのホテルに2日間滞在し、部屋でずっと翻訳作業をしたことがありました。

インターネットのディスカウントサイトで、仕事ができるようにちゃんとブロードバンドネットワークつきという部屋を予約したのですが、チェックインしてみると、ネットワークの調子が悪いのかなかなかインターネットに接続できません。翻訳の仕事はリサーチやオンライン辞書が頼りなので、ネット環境がないと仕事にならないのです。締め切りの時間があるので1分も無駄にしたくないのに、ホテルのネットワーク担当者はつかまらないし、やっとつかまったと思ったら、「あー、今日は夜までメンテナンスで、そのフロアのネットワークは切れてるんですよねー」という返事・・・

頭にきてエレベータでフロントに降り、クレームをつけました。感情的になると相手にしてもらえないので、怒りをなんとか抑えながら淡々と「自分は仕事しにきた、仕事にはインターネットが不可欠でわざわざこの部屋を選んだ、でも今こういう状態で仕事にならない、ネットワーク担当者の対応はこうだった・・・」と事実を述べてみました。

日本ならここでフロントの人が「お客様!大変ご迷惑おかけして申し訳ございませんでした」などと頭を下げるところでしょうか。

このときのフロントの人はちょっとだるそうな顔で私のクレームを聞きながら、「あーめんどくさい、もうなんでもいいや」というような態度で、「はい、8階のもっといい部屋」と言っていきなり鍵をくれました。そこならちゃんとインターネットがつながるとのこと。私は文句を言うのをぱたっと止めて、笑顔で「サンキュー!」と鍵を受け取りました。

8階の部屋に行ってみると・・・、なんと、前の部屋の2倍以上の広さ。バスルームもきれい!LAの夜景が見渡せる大きな窓。巨大サイズのベッドは、コントローラーでマットレスの固さが調整できる機能つき。前の部屋は古いままでしたがこの8階の部屋はリノベーション済みのようで、壁も床も、洗面台なども、すべてピカピカの新しい設備、まるで違うホテルみたいでした。

さっそく速いネット環境につないで調べてみると、この部屋は前の部屋の3倍近いお値段だったのです。

「ああ、アメリカ、言ってみるもんだ!!」と心から思ったのはこのときでした。

たまに日本に帰国すると、言ってもどうにもならない・・・という経験をして「そうだった、日本ではこんな交渉する人あまりいないんだっけ」と思い出したりするのですが、郷に入っては郷に従え・・・ということで、やはりそれぞれの文化に適した行動をするよう心がけています。

日本では周囲の気遣いに感謝してうるさいクレーマーにならないように気をつけ、アメリカでは押し黙らず自分の権利をしっかり主張していかなければ!と思います。 

言ってみるもの!” への4件のフィードバック

  1. どの例も、「ウンウン、そうだな〜」と納得しながら想像しちゃいました。

    アメリカ人でも、交渉上手とそうでない人もいますよね。おっしゃる通り、感情的になったら警察沙汰にもなりかねないから(私もそれは怖い)、きちんと筋道を立てて自分の意思とバックグラウンドを説明する。そこで、「これじゃいかんわけですよ」と伝える。
    これでかなりスタート地点とは別のところまで行けます。物事はなんでも、白黒つくわけじゃないから、お互いが満足できる妥協点に行ければ良いんだよな〜ってこっちに来て実感しました。

    うちの体験は、旦那が、日本のKFCでチキンをオーダーしたとき、もも肉(thigh)は嫌だから、余分なお金を払ってもいいから胸肉かウィングにしてほしい、と頼んだこと。もちろん答えは「お客様、それはできません。」でした。
    彼にとっては、「なんで???」と相当、不思議に思ったようです。

    私は、全て決まって全て出来上がっている「おせち料理」なんかのサンプルを見るたびに、「日本っぽいな〜」と思うんですが、みなさんはどうでしょうか?(ちょっと話がずれちゃうかな?)

  2. 日本でクレーマーにならないように・・・って(笑)

    私もKFCでErinaさんの旦那さんと同じことをして(私は逆にドドラムスティックが嫌だからthighを希望)、バイトの女の子がマネージャーを呼んで来て、マネージャーさんに「本来なら出来ないんですが今回は特別に・・」と言われ(対応がクレーム処理風だった)、thighをもらいました。私としては単純にYes/No questionをしただけのつもりだったので、ダメならダメって言ってくれたらそれで良かったので、クレーマー扱いされて不愉快でした。

    それ以来、日本では店員さんに何か声をかけるとき、クレームにとられないように気をつけてます。

    アメリカではすべてがnegotiableで、慣れると、これはこれで良いですよねぇ。

  3. Erinaさん、たしかに、交渉成立しなくてもお互いの言い分をさらっといいあって気が済むってこともよくありますね。
    以前サンフランシスコの空港からタクシーに乗ろうとしたら、運転手に「カーシートがなくて捕まったときはこっちは何の責任もとらないからな」みたく、けっこう挑戦的に言って来たんですよね。
    夫は穏やかに「ああ、そうだね、親切に指摘してくれてありがとう、じゃあ電車にするよ」と反応したんです。結局、どこから電車にのってどう行けばいいか、最後はすごく親切に説明してもらって、笑顔で、「気をつけて」と別れたんですよねー、こういうのもある意味、お客・サービス提供側、ではなく、個人対個人の関係の持ち込んだ結果の成功例だと思います。
    日本でKFCでお肉の種類を指定する人はなかなかいないんでしょうねぇ(笑)
    日本人としては、そんなこと思いつきもしないですよね。
    KFC側も「ああ、外国人かー、仕方ない」なんて思ったのかも。うちもそうです、夫が日本で何か主張すると「外人だからねー」という目で見られます。偏見というか特権というか(笑)
    そういえば、レストランで残った食べ物を持ち帰るのってほとんどアメリカだけだって知ってました?!ヨーロッパでもあまりないそうです。
    いろんな国で「持ち帰りたい」と頼んでみた実験の結果を読んだことあります。フランスなんかでは「新鮮じゃなくなるので、責任持てないのでだめ」などと断られること多いみたいです。
    日本では、「面倒なやつ・・」扱いされるか、ものすごく丁寧に梱包してくれちゃったりするか、とにかく例外的な扱いですよね。

  4. Makiさん、私も、たぶん、従来が図々しいタイプだったのか、アメリカに来てなんでも交渉してみて、だめだったとしても別に変な人扱いはされない、というのがけっこう心地良くなってしまいました。
    まだまだ夫のレベルには追いつけないですけど・・・(笑)
    日本人らしい奥ゆかしさも、決してアメリカで美徳として一切認められないわけじゃないから、大事にしたいなとも思います。
    以前、アメリカに数年住んでから日本に帰国した知り合いが、ものすごく主張するようになってしまって、日本でも、喫煙席があるレストランで「アメリカではありえない」と言って喫煙者に吸うなと迫ったり、といった変な行動を取るので有名になってしまいました。
    日本には日本の法律や常識があるんだし、喫煙席でタバコ吸っているのに文句言われる筋合いはないのにね。
    私もアメリカの交渉文化が快適になるあまり、違う文化の国にまで同じやり方を無理矢理持ち込むようなことはしないように気をつけなきゃ、って思います。

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