“Car Talk”

今日は、アメリカの非営利ラジオ局、NPRから、私のお気に入りラジオ番組を紹介したいと思います。

NPRはNational Public Radioの略で、日本のNHK放送に近いかもしれません。一応、全国放送なのですが、全米どこでも同じ放送なのではなくて、各地の公共放送がシンジケートされています。また、運営は公的資金とリスナーが個人的に寄付したお金で成り立っています。

NHKに近い国営放送、と聞くと、お堅いイメージがあるかもしれませんが、NPRの番組はドキュメンタリー、インタビュー、ニュース、どれも深い調査・分析に基づいていて、非常に聴き応えのあるものばかり。アメリカ社会に対する理解が深まるし、英語の勉強にも非常に役立つと思います。

実は、NPRの一部は日本で聴くことができます。現在はもしかしたらインターネットで世界中のラジオ局を聴くことが可能なのかもしれませんが、私が日本で留学準備をしていた12年ほど前にそんな便利な手段はなく、米軍基地向けのラジオ局(FEN:Far East Network、現在はAFN: American Forces Network)の中でNPRの番組を聞いていました。

といっても、当時はラジオで英語のニュースを聞いていても何がなんだかわからず、番組名さえ正確に知らないまま、ただ音楽のように聞き流していました。

中でも、ときどき2人の男の人がいろいろ話しながらしょっちゅう「はーはっはっはっは」「ひーひっひっひ」と大笑いしてばかりの番組が放送されていたのですが、どんなに集中して聴いても単語のきれはしがときどきかろうじて聞き取れるくらいで、「いったいこの人たちは何がおかしくてこんなに笑ってるんだろう?」といつも不思議に思っていました。

ときは流れて、結婚後に夫と車の中でラジオを聴いていたときのこと。

週末の朝、夫が「This is my favorite radio show!」と言ってNPRに周波数を合わせました。それは「Car Talk 」という番組で、車に関する問題についてリスナーがスタジオに電話をかけてきて、それに車の専門家である2人の男性が答える、という内容でした。

しかし、「Car Talk」というわりには、2人の男性はジョークばかり飛ばしていてなかなか車の本題に入りません。リスナーの名前を聞いて、「へぇ、変わった名前だね、スペリングは?」などと聞いては、2人で馬鹿笑いしています。

そのとき、思い出したのでした。その特徴的な笑い声。英語はほとんど聞き取れなかったけど、日本でいつも聞いていた記憶のある、テンポのいい楽しそうな話し方と笑い声でした。

日本で聴いていたあの番組に違いない!と確信して、あらためて耳を傾けてみると、今では彼らの言うことがごく自然に耳に入ってきて、その冗談の数々に私も一緒になって笑い声をあげることができたのでした。

2人のパーソナリティは実は兄弟(Tom Magliozzi and Ray Magliozzi)で、なんと70年代からずっとこの番組のホストをしているのです。

人気の秘訣はこの2人の個性によるものが大きいでしょう。車に何の興味がなくてもこの番組のファンという人はたくさんいます。

なんというか2人の「ノリ」が独特なのです。1分間に2、3回大爆笑していると言っても大げさではないくらい、とにかくずっと冗談を飛ばしては笑っています。

番組にはいくつかの「お約束」があり、まず、リスナーから電話がかかってくると、名前とか住んでいる場所についていろいろとコメントします。「おもしろい名前だねー、誰がつけたの?」とか、「フロリダ州かー、フロリダといえば何とかが有名だよねぇ」とか、やたらとひっぱって、リスナーがなかなか車についての質問に入れなかったりします。

しかし実際に車の話になると、2人はちゃんと専門知識を披露して、リスナーの悩みを解決します。中には「先日、ハトがボンネットに大量に糞をしてしまって、そのあとどうしても匂いがとれないんだけどどうしたらいいだろう」とか、「自分はとても背が高くて、どんな車でも狭く感じるんだけど、何に乗ればいいだろうか」と、それほどテクニカルではない質問もあったりしますが、難しそうなエンジントラブルとか車内の異音などに関する質問に対しては、ちゃんと細かいパーツ名、技術的専門用語などを駆使して、リスナーがわかりやすいように説明します。

そしてこんなに人気の長寿番組なのにも関わらず、最後にいつも決まり文句のように「Well, it’s happened again – you’ve squandered another perfectly good hour listening to Car Talk」(あーあ、またやっちゃったね。貴重な1時間を「Car Talk」なんかを聴いて無駄にしちゃったね)と締めくくります。

さらに、車のエキスパートである2人なのに、「また来週~」という挨拶のついでに「Don’t drive like my brother!(僕の弟みたいな運転の仕方をしないようにね!)」と1人が言い、もう1人が「Don’t drive like my brother!(いや、僕の兄みたいな運転の仕方をしないようにね!)」とリスナーに呼びかけます。

こういとき日本語では「兄、弟」と区別をつけられるけど、英語では普通どちらも「Brother」なので、二人目は「My brother」と「My」を強調することで意味を伝えています。

そして最後の極めつけは、番組の最後に「この番組は、何々社の提供でお送りしました」とスポンサーの企業名を読み上げるのですが、それがすべて2人が勝手に考えた想像上の会社名や人名なのです。もっともらしく淡々と読み上げるので、気をつけないと冗談に気がつきません。日本で「何を笑っているんだろう?」とちんぷんかんぷんだったころの私は、もちろん、そんな冗談にはまったく気がつきませんでした。

この偽の人名がワード・プレイになっていて、たとえば

Meteorologist Claudio Vernight (気象学者のクラウディオ・ヴァーナイト)

という人名は、実は

Cloudy Overnight = 今晩は曇り

という言葉と同じ響きになっていたり、

Customer care representative Haywood Jabuzoff (お客様窓口担当のヘイウッド・ジャバゾフ)

という人名が

Hay, would you buzz off? = どっか行け、立ち去れ

という言葉と同じだったりするのです。

このお客様窓口担当の場合は、表面上は丁寧にしているカスタマーサービスが内心お客様に対して「あーめんどくさい、どっか行け」と思っているという冗談だそうです。

こんなふうに最初から最後まで冗談尽くし、だけど車について答えるときはちゃんと専門的で役立つ知識を提供できる、という2面性がいいのかもしれません。

なんといっても、土曜日の朝、ラジオをつけて、彼らの陽気な笑い声が聞こえてくるとそれだけでとても楽しい気分になります。

日本にいたころから聴いていて、アメリカで再会したらすっかりわかるようになっていたという嬉しさもあって、私にとって個人的に特別お気に入りのラジオ番組です。 

“Car Talk”” への2件のフィードバック

  1. 早速コメントします!私も発見が!!笑

    ディズニーの映画”Cars”で、マクイーンが自分のトレイラーに戻りたいのにファンサービスしなきゃいけないシーンがあるんですが、そこの司会が兄弟なんです。
    で、最後にマクイーンに向けて、二人とも”Don’t drive like my brother!” “Don’t drive like MY brother!”って言い合うシーンがあるんですが、これもこの番組から来たんじゃないかな?!と今、かなり確信しています。笑

    この番組、聴いたことがないのですが、一人で盛り上がっちゃいました。それにしてもNPRでこんな面白いことをやってるなんて知りませんでした。

  2. エリナさん、そのとおりですね!Carsを観た夫に聞いたらまさにあれはCar TalkへのHomageだって言ってました。

    うん、NPRってまじめなイメージありますけど、その番組はほんとおもしろいですよ!笑うことって健康にいいっていうけど、この兄弟、毎週あんなふうに大爆笑していて、きっとすごく健康なんじゃないかな?!なんて思ってます。

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