「アメリカ来てよかった?」
基本的に「暑い」か「寒い」のみの米国中西部。
珍しく「これでもか」と降雪した冬を乗り越えて、訪れた今年4月。
「やっとあったかくなってきたね。」
少し隙を見せた瞬間、30℃超えの真夏日。
汗ダクで徒歩通勤をこなしたら、今度は観測史上初の「5月の積雪」がその二日後に訪れてしまった。
普段からとっても極端な気候で有名なこの地方に住んで、もうすぐ5年になる。
それでも日本人なので、色々思い出すと、「桜の開花予報=春の到来」「春一番」のような季節特有の表現が懐かしかったり、季節の移ろいに情緒を感じれず寂しいこと極まりないのが正直なところ。
カンザスの5月は学校の一年の終わりで、終業・卒業シーズン。
春学期の期末試験が終わると、キャンパスから一斉に生徒が消えていく。
旅立ちの季節。お別れの季節。
好きなときに運転して自由に帰省できる一般的なアメリカ人生徒達とは異なり、節約のために運転を避けてる留学生。空の旅の予約状況に左右される。
渡航日までの暇を持て余して、はたまた「暫らくは宿題に追われない」「これで終わり」という達成感に浸りながら、オフィスにフラッと数人が連日顔を見せる。中には、スポーツの奨学金で渡米したが、シーズン中に大怪我をし、方向転換を余儀なくされた生徒も数人。
その「方向転換」には「祖国への完全帰国」も含まれる。
やはり「祖国に引き揚げる」という表現をすると、「旅立ち」よりも「お別れ」の感覚が強くなる。
職場の「Friends University」は小規模な私立校。元々面倒見が良いことで有名なのだが、「どうせ来てくれるなら」と色々と細かく手立てを考えて、生徒をサポートをする。
教授が生徒達を自宅に呼んで食事を食べさせたりするのは当たり前。
「お金に困っている」と言われれば、キャンパス内外のバイト工面も(合法的)積極的にする。
下手すると「家族の事情でお金に余裕がない」という、眼鏡が合わなくて最近偏頭痛が止まらない生徒の「視力検査・眼鏡代(こっちはまだ合計3万くらいかかる)」を持つツワモノもいる当校。
2011年の秋に今の業務を始めた僕。思えば、今こうして旅立とうとしている留学生数人が「初めて受け入れたお客様」であった。
彼らが渡米に至る数ヶ月前から、メール・スカイプ・電話で連絡を取り合い、彼らの両親、または祖父母などとも連絡を取り合った仲(英語が話せる人に限り)。
「何かあったら、僕が責任を持って面倒みます。」
高校卒業直後の18~19歳の外国人の家族を相手に、不安事項を一つ一つ潰していく作業。
相手は多いが、「面倒」「大変」というより、「今の僕があるのは、昔誰かしらが世話してくれたから」という気持ちだけ。
正直こちらは生徒を獲得しなくてはいけないのもあるのだが、誠心誠意「受け入れる」側の思いと、諸々の手続きについて説明していく。
そんな彼らが、いざ「歴史的激暑、連日40℃超」のウィチタに到着すると、今度はキャンパス上の諸々についてを聞きに、ほぼ毎週顔を見せる。
「Hey, Tat! 今、大丈夫?」
「お、入って入って、座って座って。」
ただ、さすがに「広報」という肩書きがあり、実際の業務上では「生徒の世話」というのはしないはずの僕。いつも彼らの世話を焼いて、色々やってあげてしまうと、自分の実際の仕事が回らない「ワンマンショー」(仕事上一人で何でもすることを英語表現でこう言います)が現実。
「ウォルマートに買い物連れて行ってくんないかな?」
車がない彼らからフェースブックで連絡を取られると、時間が遅くても「様子見」を理由に必ず駆けつけていたもの。
「悪い、今日は…」
そんなことを言って断るのは酷か。
「…今日は、夜10時くらいまで待てる?」
結局彼らに言われるまま、足になったり、その他諸々を手伝ってあげる。
そんなことが続いた秋学期も終わりに近付き、生徒達は宿題にテストにバイトに終われ、段々と僕のオフィスに立ち寄る回数が減ってくる。
やっとこっちの生活に慣れてこれたかな。
「目の前のことに追われる」春学期に突入すると、お互い、廊下やキャンパスですれ違い様に手を振りながら、笑顔を交わす程度になる。
「最近どうよ?」
「忙しくてさ。」
「皆そんなもんよね。でも、ま、何か必要だったら遠慮なく言って。」
まぁもう自分で何でも出来るようになったんだろうし、あんましつこく干渉されてもウザいだろうし。
それでも一ヶ月に一度以上は必ず予告無しに立ち寄ってくれる彼ら。
たまに、「個人的な気分転換」とキャンパスの外でお昼やらコーヒーをご馳走してあげると、やはり若いから嬉しそうにガツガツ食べてくれる。遠慮のない、若いパワフルな彼らとの会話に、こちらは元気を貰う。
3月。
「実は、帰ることにした。」
去年末のトレーニング中、足を痛め、ドクターストップ。もう(遊び以外)競技はできないとの診断結果に色々悩んだ上での決断。
「ま、仕方ないって。」
案外ケロッとしている本人とは対照的に、こちらは「せっかくヨーロッパから来たのに」と思ってしまう。
「何かできることがあったら、遠慮なく言って。」
もうできることなんてないのに、とりあえず毎度の決まり文句。
「あのさ、実は転校の手続きを手伝って貰いたいんだけど、英語で良いから、ドイツの学校に手紙を書いてくれないかな。」
そんなことで役に立てるなら、とその場で書いてあげる。
「あと、これがしたいんだけど…」
「あ、そんなのいくらでも。いつが良い?」
「明日とかいける?」
「もちろん。」
こんなやり取りが三度あった。
ドイツに帰る一人。
オーストリアに帰るもう一人。
期末試験が終わり、退学の手続きが終わり、少し落ち着くと、その他留学生達と一緒に、「もうこれが最後かもな」とお昼や晩御飯をしながら、渡米当初の思い出話に花を咲かせる。
帰国当日の朝。
「Hey, Tat! 今、大丈夫?」
「お、入って入って、座って座って。」
秋、初めてキャンパスに来た頃のようなやり取り。
でも、もうこれでおしまい。
お前らが俺の最初の客だったから、何か色々と思い入れもあるし、色々と思うところがある。
若干ウルウルしながら握手をしようとする。
「Tat、水臭い!」
ガシッとベアハッグしてくる彼ら。
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留学生を受け入れる、この仕事をしている今。
彼らに必ず聞きたい最後の質問。
「アメリカ来て良かった?」
「正直こんなに楽しい一年になると思わなかった。マジ来て良かった。いつも本当にありがとう。」
こちらこそ、来てくれてありがとう。
今年の新しい留学生達が来るまで、残り2ヶ月超。
カンザスの8月は学校の一年の始まりで、入学・始業シーズン。
それぞれの旅立ちの季節。出会いの季節。
…今年の夏も暑いんだべなぁ。
たつやさん、いつの間にか「見送る側」になったんですね。
私も気づいたら友達が帰国していって、残る寂しさを知りました。うちのホストマザーが、学生が去るときはいつも泣いてたって言ってたけど、その辛さも今ならわかります。
Life goes on….ですね。
エリナさん、何かいい奴らに恵まれてました、去年は。
周囲からは「線を引かないとダメ」と言われてるんですけど…
内容によりますけど、頼ってきてくれるのを断るのって、むずかし過ぎる。
さて、今年の新人達はどんなか…