アラフォー男子の米国婚活 (6)
実際に結婚が決まり、「あ~よかった」と思っていたのも束の間。彼女が続ける。
「結婚式・披露宴には興味がないから、裁判所でやりたい」
—–
アメリカでは、「Courthouse Wedding」という地域(郡、county)の裁判所にて行われる結婚式も、披露宴などを含めた結婚式と並び、かなり一般的である。
世の中の男性陣が結婚式云々に関してどうなのかは不明だが、今回この「裁判所での結婚式」のお願いを受けて「ちょっと楽そうで助かった」と思ってしまった自分がいる。
—–
さて、改めて調べると、日本の「婚姻届を出して入籍して、法的に婚姻関係が成立」と米国のそれは、かなり性質が異なることが判明。
この頃、僕の出張が続いていたため、彼女が当初の書類手続きに動いてくれた。
カンザス州では、まず「County Office(郡の役所)」に行き、連名で「Marriage License」に申し込む(代理人の記入可)。これは通常数日内に貰い受けることが可能。
彼女の場合、(たまに断られ出直しさせられるらしいが)その場での発行を希望していたので、その旨を伝えると、現金$85.50(小切手、カード払い不可)を請求される。支払いを済ますと、すぐに係のオバちゃんが専用端末で何やら打ち込み、印刷してくれたのだとか。
手渡されたのは、結婚式完了後に必要事項を書き入れ提出するための「Original」と、「Duplicate」というハンコウが押された予備の用紙。二枚共に紛失するなんてことがないように、と念を押されたとか。
一般的に、以下2点の条件を満たさないと、「法的な結婚式が行われた」と認められない。
- 法的に認められた(裁判官や教会の神父、またその資格所有者など)『司式者』、Officiatorが間に入る。
- 19歳以上の成人2名が『証人』、Witnessとして立会い、署名する。
その後、60日以内に、どこの裁判所で式を挙げるのかを決め、予約をするのだが、カンザス州では(月~金曜、8~ 17時など、予約状況によるが)裁判所の営業時間内だと、式自体は無料だと判明。
何とまぁ、懐にやさしいお話。
そして、これらすべてが執り行われると、「Marriage Certificate」が無事発行されて、初めて法的な婚姻関係が始まる。
ただ、書類が揃うと、今度は僕の別の長期出張や彼女の仕事の関係から、色々と後回しになりがちに。
また、同時に発覚した問題が、「結婚式の日」を決めることができない我々の優柔不断さ。
「じゃ、(相変わらず)『いい夫婦』の、11/22でよくね?」
「日曜か、まぁ、じゃそれで仮決定ね」
ある程度の制約がないと決まらないこともある、と改めて確認させられる。
そんな折、母との通話中。
「ちょっと、あんたいつ連れて来れるの?」
「…あ、そういや、そうでした」
—–
何処まで行っても、行き当たりばったりながら、僕の出張の日程にちょうど日本を挟むことができた流れで、彼女に横浜の実家まで来てもらうことに。
遠くから我々を見つけるなり、笑顔で大きく両手を振る母。
「あ、ただい…(ま)」
「ナイスツーミーチュー」
そう放つなり、次男を無視し、いきなり彼女にハグをする母。
「いや、てか日本では普通あまり家族間ですらハグすることなんてないから、正直少し驚いたわ」(俺はたぶん数回握手してもらったくらいしか記憶がない)
そんな説明を、笑いながら聞いてる彼女と満面の笑みの母。
その後、毎朝起床後と毎晩就寝前のハグするようになる。言葉の壁なんて微々たるものだな、と思わされる。
そうこうしている内に、家族とも無事初対面。
ここ最近あまり日程の合わなかった兄夫婦を加え、一同ご挨拶。
姉とその旦那、そして妹は英語を話せるため、ガールズトークをしている。これについては事前に安心していたが、目を話した隙に、人一倍勢いがある母はジェスチャーと片言の英単語のみを駆使し二人で出かけてしまう。驚かされながらも笑わせていただいた。
そんな母を訪ねて、日替わりで近所のおばちゃん達が立ち寄る。
おばちゃん「あら、たっちゃん、まーまーおめでとー」
なぜか毎日記念写真撮影会が始まる(俺は撮影係)。
母「そうなのー、ウチの嫁なのー」
幼馴染みの自転車屋・坂上自転車販売で修理・調整してもらったチャリ2台で地元を駆け抜けたり、地元民には「ベタでしょ」と言われがちな「鎌倉~江ノ島」を改めて観光。
そのままの勢いを保つべく、「もう旅程立ててあげるから、ちゃんと連れてってあげてよ」と姉妹に促されるまま、浅草や築地市場を都内各所、横浜~みなとみらい、そして京都まで行ってしまった。
これでもか、と駆け抜けた日本滞在。ずっとお天気にも恵まれ、天日干しでフカフカの布団で、彼女は快眠が続いたらしく、あれがアメリカにも欲しい、と連発していた。
最後の朝。
「あー楽しませていただいたわ。タツヤ、これが一番の親孝行よ」
そう言うとガシッと握手してくれた母。
姉夫婦と母、妹からお土産のシャワーを浴び、スーツケース2個分の荷物を追加した彼女。最終的に二人の手荷物は8個となり、未だかつてない苦労をしながら最寄りの空港バス乗り場に辿り着く。
「また来ます」
そう言い残して、成田空港を発った二人。
—–
この後、一連の仕上げの作業、結婚式が待っているのだが、この時点でもまだ日程未定という体たらくさ。
さて、そろそろ決めないと。
「やっぱり、ここで式を挙げたい」
そう連絡を受けたのは、彼女が出張に出た直後の週末。
今まで、お互い「何でも有りだよね」と若干フラフラと何も固めることができずにいたが、今回初めて彼女から結婚式についての強い意志表示が来た。
「OK、じゃ、そうしよそうしよ」
—–
月曜になり、現場に問い合わせる。
金曜午後、裁判所と裁判官の日程は空いているという。