ペイ・フォワード?

ある日、私の職場であるスーパーマーケットでの出来事。

私がレジで、会計を待つお客さんたちの長い列を一心不乱にさばいていたら、ホームレス風のおじさんがショッピングバスケットを持って私のレジにやってきました。見た感じは、40代か50代くらい、白人さんで、どこか焦点が合わずぼんやりしていて、きっとドラックか何かやっていそうだなぁという嫌な雰囲気。

バンクーバーのダウンタウンには路上で物乞いをする人や寝泊りするホームレスがたくさんいて、よく交差点などで信号を待っていると、” Do you have any change? (釣銭持ってない?)” などと声をかけてきます。私の友達は一度、両替してほしいのかと思って小銭を出したら全部引っつかんで持ってかれた、と嘆いていました。バンクーバーに来たばかりの頃はその多さにビビリましたが、通常は無視しても特に何をされるわけでもないので、過剰に反応しないことが一番。

ということで、そのおじさんの会計をするときも通常通り、変に特別な扱いをするでもなく商品チェックを終え、合計が65ドルくらいになりました。そのおじさんは震えた手で45ドル分の紙幣と、ポケットから大量の小銭を私に見せてきました。大量といってもほとんどがダイム(10セント)とかペニー(1セント)だったので到底差額の20ドルには満たない感じでした。

あぁめんどくさいなと思いつつも、そうとばかりも言ってられないので、つたない英語で “ Do you have any other money? (他にお金持ってる?)” と尋ねても反応無し。無視と言うより聞いていない。” You need 20 more dollars! (あと20ドル要るんだけど!)” と言っても私を見ない。同僚に相談すると、会計したものをいくつか取り消して、手持ちの金額で買える分だけ持ってってもらえと言われたので、” Which one do you give up? (どの商品をやめる?)” と半ばヤケクソで問いかけてみても、そもそも私の声が聞こえているのかどうかさえ不明な状態。

困り果てている私に、すぐ後ろに並んでいたご婦人が「その45ドルだけ取って、コインは彼に返して。残りは私が払うから。」と耳を疑うような申し出をしてきました。最初は付き添いのソーシャルワーカーか何かかと思ったのですがそうでもない様子。そして、聞き取れなかったのだけど、何かをそのおじさんに話しかけ、するとそのおじさん、” Yeah, you know what? I’m #☆○$・・・” と、私の問いかけには全く反応を示さなかったくせにとつぜん流暢に話し出しました。理解できるやんけ、話せるやんけ・・・

結局、差額をそのご婦人がカードで支払いし、” Take care of yourself. (体に気をつけてね)” と優しい言葉までかけてもらってそのおじさんは、買い物籠を両手に抱え店をあとにしていきました。私が言うのもあれかな、と思いましたがとりあえず、” Thank you a lot.” とお礼を言うとその女性は「いいのよ、どっちみち彼らは政府の保護を受けて生活しているんだから。だから私の払った税金でもらったお金を使って払っても、私が今ここで払っても結局は一緒でしょ」と。なんとも筋が通っているのかいないのか・・・

ただ後々、昔見た「ペイフォワード」という映画のことを思い出しました。世界を良い方向に変えるために、ハーレイ・ジョエル・オスメント君演じる中学生の少年が思いついた、“ペイフォワード”―――人から受けた好意を別の人へ回すこと。一番大切なのはその流れを止めないことです。あのご婦人がしていった好意を次に回すことが、ホームレスおじさんの、そして私の任務であります。 

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7 comments on “ペイ・フォワード?”

  1. ダウンタウンからチャイナタウン方面へバスで向かうと窓の外には
    ヘースティングっていうジャンキーやホームレスの方々が多く横たわる
    エリアがありますよね。
    僕は野球をしているので外国人ですら、近寄らないのですが(笑)
    それにしてもレジのご婦人、合理的というか、潔いというか・・・
    日本のスーパーではありえない光景ですね。

  2. コメントありがとうございます!
    確かにそのエリアはガラッと雰囲気が変わって言い表せないような狂気が漂っていますよね、あまり近寄らないようにしています。
    今回の話だけに限らず、色々な面で日本でだったらありえない!ような慣習があるので、また随時UPしていきたいと思います☆

  3. これを読んで中国の民族客家の教えを思い出しました。

  4. ちょっと言葉不足でしたので、補足を・・・
    http://blog.goo.ne.jp/tomaakio/e/7a38723a58e84c49f1a3339b1978b23a
    数年前に知人からいただいた本の中にこのことが書いてあり、
    今回のご婦人のお金の使い方はこれとはちょっと違うけど
    ご婦人がこういう気持ちで男性の買い物代金の不足分を支払ったのだとしたらいいね。
    ちょっと違うみたいだけどねw

  5. こんにちは。はじめまして。
    あめ10で記事を書かせてもらっている、Norikoと申します。
    素敵なお話ですね。
    でも、結構アメリカ(カナダ)の方って、この様な行いをする方多いですよね。
    私も、バスを利用する際、お金の足りない浮浪者風の乗客の代わりに
    支払いをしていた女性を見ました。
    その時は、バスの運転手さんが、その浮浪者風のお客を降ろした後
    女性にお礼を言いながら、お金を返していました。
    ペイ・フォワード みんなが実践したらいい世界になりますね!
    あの映画、大好きです。

  6. hisayoさんコメントありがとうございます。
    「隣の人に親切にしてもらっても、その人にお返ししてはならない。
    右隣の家の人に親切にされたら、反対の左隣の人に親切にしなければならない。」
    世の中は一対一の貸し借りよりも、もっと全体的な視点で考えていかないと良くならないってことですよね。
    日本のでゆうと・・・・
    「情けは人の為ならず」ってところですか?
    少し違うかな?

  7. Norikoさんはじめまして。コメントありがとうございます。
    私もそう感じました!
    店でたまに、慈善団体との提携で、レジでドネーション($2くらい)を尋ねることがあるんですけど、予想以上の確率(たぶん15~20%くらい)で寄付してくれる方が多くて感動しました。

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