アラフォー男子の米国婚活 (7)

彼女の両親と隣のミズーリ州在住の妹、僕の恩師カップルを合わせた5人の出席者を揃え、結婚式当日を迎える。

現場となる「Chase County Courthouse」は、ウィチタから約1時間超の距離。

二人でワイワイと現地向かいながら笑顔を振りまいていたが、いよいよ「ここを曲がると会場(裁判所)が見える」という時点で、急に「ハッ」と緊張し出す。

当日朝、何とか体が入った十年もののスーツ。急に汗が滲む。

駐車場で車を降り、レンガ敷きの道路脇を建物に向かい歩き始めると、静かな街にカツカツと革靴の足音が響く。気持ちだけだが、軽い足取りにする。それでも何か耳障りに感じる。

建物に入る手前で、腕時計を見る。

「20分後には結婚していることになるのか」

 

結婚式の準備に数ヶ月をかけた人達に実際「心の完全なる準備」があるのかは不明だが、特に「何もしていない」自分は、この時点でやや唐突な実感が背中を走り、焦る。

不思議な感覚である。

 

—–

 

米国中西部の現役裁判所で一番古い建物である現場。中に入ると、やはり田舎の裁判所で、物凄い静か。革靴がより一層カツカツ鳴り響く中、二人共お手洗いに向かう。

 

ネクタイと襟を直しながら鏡の中の自分を見ると、ふと思う。

 

「こんな自分を貰ってくれる」

緊張してる場合ではない。

 

「ありがたい気持ち満々で嬉しくならんといかんな」

 

—–

 

お手洗いの外で彼女を探すが、まだ出てきてない様子。

 

壁には、その裁判所の歴史が書かれた額や歴代の裁判官の写真がかかっている。

自分の鼻息が聞こえるくらい静かな、その小さい建物内を相変わらずカツカツ音を立てて歩いていると、「Courthouse」または受付らしい表札が見つからない。

 

「すいません、今日結婚式を挙げる予約をしているのですが…」

開いているドアの先に、何ともギコチない質問をしてみる。

 

どうやら、裁判官やその会場はその2階にあるらしい。

 

—–

 

お手洗いから出てきた彼女と、らせん階段を上がり2階に向かうと、眼鏡をかけた人が笑顔を浮かべながら階段の上で待っている。

「タツヤ?発音、あってる?いやー今日はおめでとう。結婚式を担当させていただく、ジョーンズ裁判官です」

 

握手と交わすと、一枚の紙を手渡される。

「これが今日の式の内容。法律上、含まれないといけない文言とかばっかだけどね」

 

絶対に本番に噛むはず。

注意しながら一言一句に目を通す。

 

益々緊張する。

 

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窓の外を見ると、彼女の両親と妹がちょうと同じタイミングで駐車場に登場。

僕の恩師二人は、まだ運転中なのか、連絡がないが、少し時間が押している。

 

「今日この後、何も予定無いから、あまり時間については心配しなくていいよ」

事務所の扉の隙間から顔を覗かし、笑顔でジョーンズ裁判官が声をかけてくれる。

 

—–

 

(ほんの数年前まで現役で使われていた歴史ある監獄も今は見学可能になっているため)少しの間、彼女の家族と裁判所内の見学を続ける。

牢屋の鉄格子を細かく見ながら皆で談笑していると、恩師二人から携帯が鳴る。

 

到着した二人と、彼女の家族を紹介し合い、いざ裁判所の階に上がる。

 

「一分くらいで終わるから、あんま緊張しないで」

少し冗談めいたジョーンズ裁判官が笑顔で肩をポンとしてくる。

 

深呼吸をしながら、緊張で倒れないようにする僕。

エヘエヘと変な笑いが止まらない様子の彼女。

 

いよいよ、その時がくる。

 

—–

 

以下、宣誓の文言。

(裁判官) We are gathered together for the purpose of joining this man and this woman in the bonds of matrimony. If either of you know any reason why you should not be joined in matrimony, confess it now.

Do you, Tatsuya, take (彼女の名前) to be your lawful wedded wife? Do you promise to love, honor and cherish her and forsaking every other, be faithful as long as you both shall live?

(僕) I do.

Do you, (彼女の名前), take Tatsuya to be your lawful wedded husband? Do you promise to love, honor and cherish him and forsaking every other, be faithful as long as you both shall live?

(彼女) I do.

僕が指輪を取り出し、裁判官の言葉を追う。

I, Tatsuya, take you, (彼女の名前), to be my lawful wedded wife, to have and to hold, from this day forward, for better, for worse, for richer, for poorer, in sickness and in health, and I pledge you my everlasting faith.

次は彼女が指輪を持ち、裁判官の後に続く。

I, (彼女の名前), take you, Tatsuya, to be my lawful wedded husband, to have and to hold, from this day forward, for better, for worse, for richer, for poorer, in sickness and in health, and I pledge you my everlasting faith.

(裁判官) In as much as you, Tatsuya, and you, (彼女の名前), have consented together to the bonds of matrimony, have witnessed the same before this company, by the authority vested in me by the laws of the State of Kansas, I hereby pronounce you husband and wife. You may now kiss the bride.

 

—–

ところどころ、お互いにドモり、噛み、つっかえまくりだったが、無事終了。

 

談笑を含めても、3分に満たない式だった。

そんな呆気ない式の後でも、恩師二人が証人としてMarriage Licenseに署名してくれてる陰で、まだ少し震えてる自分。

 

なんであれ、とりあえずこれで正式に夫婦。

 

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直後に、皆で向かったStrong Cityのレストラン「Ad Astra」での会食中も、まだ「期待していた」ガツンとした実感は湧かない。

 

「ウィチタに帰ったら、どっちのアパートで今夜過ごすの?」

義父に聞かれるが、二人で見合わせながら、少し考え込む。

 

「今日の”I do”を言うタイミングとか、その他の台詞のことが心配で、そこまで考えてなかった…」

photo2

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終わってみると、アッと言う間で、目立った違いと言えば、左手薬指に光る結婚指輪の存在だけ。手を洗う時に気を付けないと、その指輪が石鹸を削ってしまうな、とか思いながら、その後を過ごしてるが、今はというと、諸々の書類手続きにばかり追われている。

 

「新婚旅行、行かないの?」

周囲の友人から聞かれるが、そこに頭が回る余裕がまだない。

 

—–

 

実は当日、午前中に住宅購入。更に、その直後にその週の頭に若くして逝った同僚のお葬式までが重なり、結局、その足で結婚式に向かうという、盛り沢山な一日を過ごす。

今、彼女は新居への引越し以外だと、Social Securityの名義変更中。そこから職場の福利厚生、免許証、パスポートなどの変更がある。

引越し段取り以外、僕は光熱費、水道代、ガス代、ゴミ処理代などの支払い設定に加え、職場の福利厚生のステータス変更(独身→結婚済)、そして二人で開設する銀行口座や税金申告についてなどの情報収集中。

冬休みまでには落ち着きたいな、と思う。

 

—-

 

そんな時、仕事中の彼女から、メールが届く。

自分のオフィスの表札が新しくなったのだとか。

 

添付された写真を見ると、彼女の苗字が「Hidano」に変わっている。

 

家族ができた。

そんな実感が不思議とこのタイミングで湧き始める。

段々こういう場面が増えていくのだろうな。

 

—–

 

とりあえず、婚活、大成功。

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11 comments on “アラフォー男子の米国婚活 (7)”

  1. 感動しました。おめでとうございます。幸せな記事でしたが、二人の間で何か日米間による衝突などはありましたか? よろしければお答えください。

  2. ヤマシタさん、
    ご拝読ともったいないコメント、ありがとうございます。

    彼女と付き合い始めた頃、男性側が書いた記事がなかなか無くて、じゃ自分で書くか、て流れが発展したまま今に至れました。

    今のところ、「俺はこうだ」「私はこうよ」て発言を随所で重ねて、諸々を擦り合わせてる段階ですが、とりあえず「文化的相違」はまだ経験してません。ありがたいのか、後が怖いのか。

    ただ、僕が若くないからか、気にするところと気にしないところの差が激しいこともあるのは事実。勢いで適当な発言をしないように気をつけます…

    良し悪し、これからですかね。

  3. 毎回毎回更新を楽しみしていました!
    日本人女性がアメリカで結婚というブログは結構多いですが、逆は珍しかったので、大変興味深く拝読しました。ありがとうございます❤️

  4. ついに完結‼︎
    ご結婚おめでとうございます!
    Hidano
    のところでウルウルと…

    いつも、更新はまだかなぁと
    とても楽しみにしていました。
    今後の他の記事も楽しみにしています!

  5. Jonoさん、
    楽しんでいただけたならば、本当に嬉しい。もう段々とネタ切れな人生を送り始めてるのですが、読んでいただいて、時間潰し+αになれるような文章を書けるよう、努めます。またの機会がありましたら、立ち寄っていただけると嬉しいです。

    こちらこそ、ありがとうございます。

  6. akiさん、
    どうもありがとうございます。

    僕も少し目を瞑りジーンとしながら、涙がツー…(はなかったのですが)。

    またお時間がある時に立ち寄っていただけたならば嬉しいです。

  7. おめでとうございます。彼女さんの名前がHidanoになったところで私もうるうるしてしまいました。どうぞお幸せに。
    今まで連載をとても楽しみにしていたので、これでおしまいではなく、ぜひ新婚生活編で、続編よろしくお願いします。

  8. Nanaさん、読んでいただいた上に、大変温かいご感想をいただき、恐縮です。

    新婚編ですか。

    もう少し落ち着いてから、検討させていただきながら、まぁ踏ん張ります。

    本当に割いていただき、ご拝読いただき、ありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。

  9. Tatさん、おめでとう!おめでとう!このシリーズ、本当に楽しみにしていましたよ。同じ年として、気になっていました。
    Jonoさんのコメントにもあったように日本人女性がアメリカで結婚という話はよく目にしますが、逆はなかなか目にしないので、とても興味深い記事でした。

  10. Tatさん コメントが遅くなりましたが、おめでとうございます。このシリーズ今後は続くんでしょうか?楽しみにしていたので嬉しいような少し哀しいようね心境です。でもハッピーエンドになって良かったですね。 AMWFでしたっけ?一応私もそのグループにいますので、また色々楽しい話題を期待しています!

  11. ■Tomomiさん、
    そう、この歳になっても、まだまだ恋愛話をしてしまうという。先日シアトル出張時に会食した日本女子達から「まぁ、一人が長過ぎたっしょ」と言われましたが、その独り身だった経験を活かし、家事をサササッとこなし、役に立つ男子になりたいな、なんて。

    ■Tyさん、
    あらあら、たびたびどうもありがとうございます。いやー、もうネタが無くて…ちょっとだけ次を期待させつつ、この場を〆る、という。そうそう、お互いAMWFでアメリカを少数精鋭(?)で乗り越えていきましょう。またよろしくお願いいたします。

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