学生ビザから米国市民権まで(7)

前回に続き、今回は市民権取得までの4つのステップの3つ目、試験・面接です。

市民権の話になると、「試験があるんでしょう?勉強しなきゃいけないの?」と心配する人が多いですが、この試験は勉強というほど大変な準備は必要ないし、受験勉強を経験したことのある日本人なら楽勝と言って良いレベルです。

とはいえ、まったく準備せずに臨めば落ちる可能性はあります。

試験の内容は、英語のテストと、アメリカの歴史、政治、地理に関する知識のテストです。

英語のほうは、市民権申請の条件「グリーンカードで5年以上、結婚して3年以上米国に在住」を満たす人であればまったく心配いらないはず。短く簡単なワンセンテンスの文章を読みあげ、同じく短く簡単なワンセンテンスの文章を試験官が読み上げるのを書き取るだけ。

米国に関する知識のほうは、100問ある問題のうち10問が出題されます。この100問は移民局のウェブサイトにもあるし、実際の試験は口答なので、練習用するためのビデオもYouTubeで見ることができます(移民局が作っているビデオです)。

この100問をすべて暗記してしまえば、当日は全問正解できるはずです。100問暗記と言うと大変に聞こえるかもしれませんが、中には非常〜に簡単な基本的すぎる問題もあるので(現在の大統領は誰ですか?とか。それも、フルネームがわからなくても、オバマ!と言うだけでもOK。他に、アメリカの西側にある海の名前は?Pacific Ocean、とか)、真剣に暗記しなければならないのはごく一部です。

前回書いた指紋採取のとき、最初の受付のところでこの試験用の教材が無料で配布されます。

私はその教材を受け取った時点でとっくに試験準備は始めていたのですが、中身を見てみて改めて勉強することができてとても役立ちました。

というのは、それまでひたすら一問一答形式で答えられるように練習していて、人の名前なども暗記していただけだったのですが、この教材ではそれぞれの問題について、詳しい背景や関連する写真、絵画などが記載されていて、単純に暗記するよりも具体的なイメージがわいて確実に記憶することができたのです。

また、CDもついているので、指紋採取から試験までの間は通勤中に毎日このCDを聞いて勉強しました。

この試験のための勉強は、私自身アメリカの基本的な知識が身について良かったと思います。実際市民になるんだからこれくらい知ってなきゃおかしいよね、と思う基礎知識ばかりです。ちなみに、ちょっと細かい知識の問題は職場のアメリカ人達に聞いても答えられなかったりしましたが(笑)。

さて、私の場合は指紋採取が12月、新年あけて1月には「面接に来てください」という手紙が届きました。本当にスムーズに進んでいきます。

面接の指定日は2月中旬。今度はLAダウンタウンの真ん中の、様々な政府機関が入っている大きなビルの一室に行くことになりました。

当日はまず、この大きなビルに入る時に、空港のような持ち物チェックをするのですが、そこに並ぶところから始まります。

私が行ったときは10人くらいが並んでいました。ガードに「君たちラッキーだね!今日は木曜日だから一番空いてるけど、月曜日や金曜日はものすごく混んでてここからワンブロック先まで行列だよ」なんて言われました。

並んでいる人がみんな移民局に行くのではなく、それぞれ税金とか裁判関係とか、いろいろ事情がある人ばかりのようです。

一人ずつ理由を聞かれるので私が「市民権の面接を受ける」と言ったら、前に立っていた人が「がんばって、大丈夫!僕の義理の妹も最近市民になったよ」とか声をかけてくれて嬉しかったりしました。アメリカは本当に移民だらけの国だと実感します。

そこで待っていたのはほんの数分、何人かずつに区切ってビルの中に入り、持ち物チェック。

今回は電子機器を持ち込んでも問題なく、すぐに荷物を返してもらって、人々はロビーのあちこちに散っていきます。

とても大きな建物だったので、ロビーの壁にあったフロア案内を見て行き先を確認。エレベータで高層階のオフィスへ向かいます。

目的の階についてもまた迷子になりそうになりつつ、オフィスの番号を頼りに探します。

ここに到着するまで、パーキング探し、ビルに入るまでの待ち時間、荷物チェック、エレベータ乗り降りなど、けっこう時間がかかるので、移民手続き関係の予約時間にはたっぷり余裕を見るべきだと改めて思いました。

ついに到着したオフィスは、ちょうど小さなクリニックのような感じで受付と待合室にベンチがひとつだけ。中に入っても誰もいなくて、受付で呼び出し用のチャイムを鳴らしてやっと受付の人が出てきてくれました。

ここで面接通知のレターを渡し、しばらく待つように言われます。

待っている間壁の張り紙を見ると「携帯電話の使用はOKだけど、話をするときは廊下に出るように」などと書いてありました。なんだか市民権に向かって少しずつハードルを越えていくにつれて、電話の規制も緩やかになっていく感じです。

いよいよ試験!ということで緊張しながら数分待つと、来ました!私の試験・面接担当オフィサー。

白人のおじいちゃん風の、厳しそうなオフィサーです。なんかもうちょっと、アジア系の移民で気さくな感じの人だったらいいな〜と思っていたので最初からまた緊張度アップ。

彼のオフィスまで案内され、彼は机の内側に、私は外側に立ちます。

そしておもむろに彼が「右手を上げて」と言います。

立ったまま右手をあげると、彼のあとに続いて「私はこれからすべて真実だけを述べる・・・」というような誓いの言葉を言うよう指示されます。

やっと着席。

次に、「IDとグリーンカードを見せてください」と言われ、すぐ取り出せるように用意していた二つのカードを彼のほうに向けて机の上に置きます。

カードのチェックが終わると、「では、あなたの書類を一緒に確認しましょう」と言われ、一番最初の申請時の書類を最初から見ていきます。

ここで、以前に書いた通り「もうGCで5年住んでいるのに、なぜ結婚して3年の条件で申請したのか?」と指摘され、その場で訂正されたのでした。

そのあとは次々と書類に書いてある質問を口頭で確認していきます。

書類と私の口頭の答えが一致していなければいけないのですが、ひとつだけ変更点がありました。申請したときに勤めていた会社を、私は面接の数週間前に退職していました。書類には「過去5年間の勤務先」を書かなければいけないので、この面接時点での私の職業である「フリーランスの通訳・翻訳」という一行をここで付け足さなければならなかったのでした。

そこで私は自分の職業を説明したのですが、オフィサーはコンピュータを操作しながら、「フリーランスの通訳っていう選択肢がないから、ジャーナリストにしておくよ。ま、同じようなもんでしょう」と言い、私の職業はフリーのジャーナリストになってしまったのでした・・・

私は「OK!」とスマイルしながら、内心、「あの、通訳とジャーナリストって全然違うと思うんですけど!」と思い、同時に「もしかしてけっこういい加減?」と思いました。申請書類を最初に書いたときは一項目ごとに正しく記入するようものすごく気をつけて、細かいところまで気にして、「事実と違うことを書いたら失格になるのではないか」とナーバスになっていたのに・・・

でも、この一件で少しリラックスすることができました。オフィサーは決して粗探しをしてるんじゃなくて、手続きが間違いなく進むようにサポートしてくれているだけ、という気持ちになれました。

書類確認はその後無事終了し、いよいよテストです。まずは英語テスト。

オフィサーが普通のレターサイズの紙に、ワンセンテンスの英文が5個くらい書かれたものを私に見せて、「上から二番目の文章を読んで」と言いました。

本当に短い一行だけの文章です。日本に住んでいても中学生の英語で十分読めそうなレベルです。

3秒後、読み書きの「読み」テスト終了!

次に、今度は白紙の紙を渡されて、「今から私が言う文章を書き取ってください」と言われました。

この文章は今でも覚えていて、「Delaware was the first state.」という文でした。やっぱり短くて簡単な文章ですが、「デラウェア」という地名が、緊張していることもあって一瞬、「ラ」のところがLだっけ、Rだっけ?と思ってしまいました・・・日本人独特のチャレンジです(笑)

ただし、ここで一文字くらいスペルミスがあっても落ちることはありません。スペルミスどころか、たとえばtheとかaが抜け落ちていても、全体として意味が通じれば合格、と移民局のウェブサイトにも書いてあります。まあ確かに日常生活でもその通りですから、ある意味合理的な合否基準かもしれません。

以上、「書き」と「聞き取り」テスト終了!それぞれ一瞬で終わってしまいました(笑)

次に、100問を頑張って暗記した例のアメリカの基礎知識テスト。

10問全部は覚えていないのですが、1つ目の質問が、「アメリカに奴隷として連れてこられたのはどのような人たちか」というもので、答えが「Africans」だったことだけはっきりと覚えています。

他に聞かれた質問ではないですが、勉強していて印象的だった質問についていくつか書いておきます。

試験100問のうちいくつか頑張って暗記しなければいけない数字があります。そのひとつが「年号」。覚える年号は「独立宣言の年、1776年」および「憲法が成立した年、1787年」です。

こういう暗記系って日本人は大得意ですよね。大学受験のとき、「いい国作ろう、鎌倉幕府(1192年)」って覚えませんでしたか?

実はアメリカの独立記念日の語呂合わせもあり、「いいなぁ(17)、なろう(76)、アメリカ人」、だそうです。今こうして書くと笑えてきますが、試験前は私もこれで必死に覚えたのでした。

他の数字としては「Senator」と「Representative」の人数と任期年数など。Senatorの方は各州から二人なので、州の数 50 x 2 = 100人、と単純ですが、House of representativeは435人、という半端な数を暗記します(州の人口に比例する)。Senatorの任期は6年、Representativeは2年。

他に私がこの試験勉強で初めて知った知識といえば・・・

アメリカで一番長い川の名前は?

一番最初にできた13州の名前(3つ挙げる)

アイゼンハワー大統領は、大統領になる前はGeneralだった。どの戦争のGeneralだったか?

Susan B. Anthonyの功績について。(彼女は女性の権利のために戦った人)

憲法の成立を推進したFederalist Papersの著者4名(1名挙げる)

連邦政府と州政府の権限の違い(連邦政府はお金を発行できる、州は免許証を発行できる、など)

他にも、なんとな〜くわかっていたけど改めて言葉にすると難しかった、という質問もいくつかあります。

アメリカ人に認められている権利と、アメリカに住む人々全員に認められている権利は微妙に違い、アメリカに住んでいれば、たとえば宗教の自由は認められ、表現、言論の自由もある、でもアメリカ人だけが投票できる。

アメリカ人の義務の代表は陪審員になること、もうひとつは必要となれば戦争で戦うこと。ここが日本との大きな違いで、書類でも「国から要請があれば私は戦場に行って戦います」という項目にチェックしなければいけません。ここをチェックしないと、市民権は却下されるのです。

最後に、私が在米15年目にして「わー、初めて知った〜」と思った質問を紹介します。

質問:What is the name of the national anthem?

答え:The Star-Spangled Banner

National anthem は「国歌」。アメリカの国歌は「星条旗」。

こんな基本的なことを知らなかったの?と思われてしまうかもしれませんが、もちろんアメリカの国歌の名前は知っていたのです。

私が初めて知ったのは、「Star-Spangled」の、「Spangled」が日本語の「スパンコール」の語源だったということ!

Spangledは「散りばめられた」という意味で、The Star-Spangled Bannerの直訳は「星を散りばめた旗」。

服やバッグについているあのキラキラとした「スパンコール」。

以前は、「スパンコール」なんていう英語はないな〜、スパンコールの語源はなんだろう、英語じゃないんだろうな、くらいに思っていました。

まさかSpangledだったとは!!

と驚きながらこの質問と回答を暗記していたのでした・・・

と、脱線してしまいましたが、私は無事、全問正解で試験に合格しました!

私のオフィサーはあまり感情を表さない淡々とした人でしたが、このとき初めてびっくりした顔で「全部正解したね!!Good job!」と言ってくれました。

100問覚えさえすれば確実に合格するのだから、当然誰でも暗記するだろうと私は思っていたのですが、もしかしてそれは真面目な日本人だから当然だと思うのかもしれません。

この試験は全問正解しなくても落ちるわけではなく、10問のうち6問正解すればいいのです。つまり半分近く間違えても合格するってことです!(ほんとにそれで市民になっていいのか?!)

以前に書いたように勉強しなくても一般常識で答えられる質問もあるので、運がよければ実際勉強しなくても受かるかもしれないでしょう。

でも、実は落ちる人はいるのです。この試験の合格率は約90%なので、10%の人は10問中半分以上正解できずに落ちているということです(英語のほうで落ちるという可能性もありますが)。

というわけで、何ヶ月もかけて真面目に勉強し、100問完璧に暗記して全問正解した私は、やはり典型的な真面目な日本人で、オフィサーがびっくりするほど珍しかったのかも?1、2問くらい正解できない人はよくいるのかもしれません。

とにかく、全問正解するとすぐにオフィサーは「あなたは合格しました」というところにチェックマークがついた紙を手渡してくれて、「Congratulations!」と言って右手を差し出してくれました。

この時点でもう、市民権は約束されているわけですが、オフィサーは続けて「あなたは合格したけど、宣誓式まではまだ市民じゃないので、今から慌てて投票にいかないようにね」と半分冗談で言いました。

そして、宣誓式の案内のレターが来るのでそれを待つように、次の宣誓式は翌月なので、おそらく私はそれに間に合うだろう、と教えてくれました。

まず落ちることはないとわかっていてもやっぱり緊張した試験と面接!

ここが越えなければならない最後のひと山だ、と思ってずっと緊張していたので、オフィスを出てからの帰りは本当にほっとして嬉しかったです。

この日も夫が車で送ってくれていて、面接の間すぐ近くのバーで待っていてくれたので、すぐに駆けつけて合格を報告しました。

そのあとは二人でダウンタウンのマーケットで美味しいタコスを食べたり、コーヒーを飲んだりしてささやかな前祝い。

このときのリラックスして嬉しい気分は忘れられません。3月のLAのダウンタウンはもう暖かくて、ちょうどマーケットの隣に大きな桜の木があって青空を背景にした満開の桜の花がとても綺麗だった。あとは宣誓式を残すだけ。あともう少しで米国市民!と興奮気味でした。

そしてその一ヶ月後、その興奮が最高潮に達する宣誓式となるのです。

 

 

 

 

 

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5 comments on “学生ビザから米国市民権まで(7)”

  1. はじめまして、いつも楽しくブログ拝見させていただいております!グリーンカード関連の話はよくオンラインでも見かけますが、実際に市民になった方のお話はそれほど多く見かけないのでとても参考になります。

    一つお伺いしたいことがあるのですが、Hanaさんはなぜ市民権を取得しようと決められたのでしょうか?私は今在米5年目で、こちらに来てからアメリカ人の方と結婚もしたので、今後もう日本に住むことはないと思っているのですが、将来的に市民権を取るか、今のところ自分の勉強不足もありメリット・デメリットが自分でもよく見えておらず、どうかはまだ決められていません。

    もしよろしければコメントでも良いですし、直接メールででもご意見頂戴いただけますと幸いです!よろしくお願いいたします。

  2. purple_pecoさん、コメントありがとうございます。

    市民権取得についてですが、私もpurple_pecoさんと同じく、今後日本に住むことはまずありません。一生アメリカで暮らし、夫も子供もアメリカ人。なので、外国人のままでいるより、一生住む国の市民になったほうが何かと都合がよく、住みやすいはず、という、ごく単純な理由で、とても自然に、取るのが当然という感覚でここまで来ました。

    一般的に言われるデメリットとしては、日本国籍を失うっていうのがやっぱり大きいですよね。それで踏み切れないっていう人も多いみたいです。

    でも私にとってそれはあまり実質的なデメリットではないんです。もう住むことはないわけだし・・・

    10年、20年とアメリカに住んでいてもやっぱり日本国籍をキープしたい人は、どこかで、老後は日本に住みたいかも・・・と思っていたり、万が一アメリカ人の夫と離別して子供も独立したら、もうアメリカに住む理由がない・・・と言っていたりしますね。そこが私と違っていて、私はたとえ私一人でもアメリカに残ると思います。逆に日本に戻る理由が思いつきません。

    私は日本に6年以上帰国していないんですけど、それを言うとけっこう他の日本人に驚かれます。帰りたくならないの?!そんなに帰らないでなんで平気なの?!と言われたり。でも、全然平気なんです・・・とくに帰りたいって気持ちが起こりません。要はそれだけこっちの暮らしのほうが肌に合ってるということなのかなー。

    でも、決して日本が嫌いとかじゃないんですよ!むしろ、私は一生アメリカで暮らしたとしても、骨の髄まで日本人だと日々実感してます。だからこそ、一生日本人であることに国籍は必要ないって思います。

    最後に実際的なことを書いておくと、遺産相続の関係で市民権をとったほうがいい場合があるようです。私は相続で困るような遺産をもらう予定がまったくないのでこれが理由ではないんですが(笑)、なのであまり詳しくないのですが、そういう話を聞いたことがあります。

    purple_pecoさん、これからも当分は米国に住むのでしたら、市民権はいつでも取ることができると思いますので、ゆっくり考えてみてくださいね!

  3. Hanaさん、昨日面接と試験を無事通過し、3-5週間後という宣誓式をたのしみにしています。宣誓式で検索し、Hanaさんのブログで様子がよく分かり、ほっとしました。ありがとうございました。
    なお、私は今年結婚30周年を迎え、初孫の誕生を待つ、ばぁばです。

  4. オア櫻子さん
    コメントありがとうございます。面接・試験合格おめでとうございます!あとは緊張するような手続きはないし、移民とその家族だけが体験できる宣誓式をぜひ楽しんできてくださいね!そしてご結婚30周年もおめでとうございます。私は今年ちょうど10年です。周囲には同じくらいの長さ結婚していても「もう日本に帰りたい」「老後は日本がいい」と言う国際結婚の女性が多くなっているのですが、私はまったくそういう気持ちにならず、一生アメリカで過ごす気持ちでいます。オア櫻子さんのようにアメリカで家族を持ち初孫を待つ幸せな先輩女性がいらっしゃると思うとかなり心強いです。

  5. Hanaさん、さきほど返信を拝見しました。ありがとうございました。
    宣誓式、日本国籍喪失届提出、初めてのアメリカのパスポートポート取得、この秋の選挙の投票人申請の受理の通知などなど、ひとつひとつ無事に通過し、いよいよ明日は初孫のベイビーシャワー。
    これからも宜しくお願いします。

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