“Hate Crime”とは

多様性(diversity)に富んだ、このアメリカ社会。

民族、国籍、人種、性、文化、言語、思想、宗教・・・・その要素は、数えあげたらきりがありません。

 

こんな社会で生活しているんだから、アメリカ人はみんなオープンマインドなのか?と言われると、残念ながら、そんなことはありません。

 「アジア人だから・・・・」とか、

「女だから・・・・」とか、

「支持政党がこれだから・・・・」とか、

「偏見」というものはアメリカで暮らす以上、どの生活レベルでも存在し、誰でも何かしらの偏見と共存しているわけです。

 

(From idahoagenda.com)

 

 

今回は、アメリカ社会に存在する、“Hate Crime”と呼ばれるアメリカ社会の現実を全国レベルとローカルレベルのニュースを例に挙げて、紹介します。

 

 

まずは全国レベルのニュースから。

 

先月26日、フロリダ州マイアミで、一人の少年が銃で撃たれて亡くなる事件が起こりました。

亡くなった少年は、17歳のTrayvon Martin(トレイボン・マーティン)君。アフリカンアメリカン、つまり黒人の少年です。

銃を発砲したのは、Neighborhood Watchと呼ばれる、近所の「警備隊」であったGeorge Zimmerman(ジョージ・ジマーマン)、28歳。彼は白人と南米系のミックス。

 

当初、事件のいきさつは、「不審な」少年と小競り合いになった結果、「自己防衛」としてトレイボン君に向けて発砲した、というのがジマーマンの証言でした。

警察もその証言を受け入れ、告訴にはならなかったのです。(事件に関するwikiはこちらから)

 

しかし、そのときに録音された911の記録などによると、後方で助けを求めるおそらくトレイボン君の声や、通りがかりの人々の叫び声など、この証言は真実ではないのでは?という声が上がり始めました。

それに加えて、「彼は近所のセブンイレブンにキャンディーを買いに行っただけで、不審なことは何一つない」という両親による強い証言の元に、人々が関心を向け始めたのです。

 

そして、これは“hate crime”だと、目を向けられています。

 

hate crime(ヘイトクライム、憎悪犯罪)とは、「偏見」などを元に、その対象となる人々や社会に対して憎悪や嫌悪感を持ち、具体的にそのグループの人々を攻撃し傷つけてしまう犯罪です。(wiki: Hate crime)

人種(マイノリティ人種に対して)や、性(同性愛者に対して)など、その「対象」は様々ですが、自分とは「異種」のものに対してここまで攻撃性のある感情というものは、やはり驚きと悲しみを生みます。

そして被害者となった個人は、たいていの場合、ランダムに選ばれたことが多く、遺族の方の悲しみや怒りは、計り知れないものでしょう。

 

このトレイボン君のケースも、(おそらく)もともと黒人という人種に嫌悪感を持っていたジマーマンが、そこにいたアフリカンアメリカンの少年を「不審だ」と決め付け、発砲に至ったのではないか?という点が、見直されています。

 

現在、このジマーマンを「殺人容疑」で告訴するための、署名が両親によって集められています。ここで署名できます。この告訴を求める動きは、フロリダから始まり、アメリカ全土に広がり始め、有名人やオバマ大統領も目を向けています。

 

もしジマーマンの証言が真実とは違い、罪のない少年の命が奪われたのだとしたら、アメリカはこの事件に目を向けなければなりません。この多様性を受け入れ、どんなバックグラウンドでも人々が共生していける社会を作り上げるには、このような犯罪は許されてはならないからです。

自分の息子が、「アジア人の血が入っているから」という理由で、このような危険にさらされる社会では、とても安心して生きていけると思えません。みなさんはこのニュース、どう思いますか?

 

 

 

続いて、ここサンディエゴのローカルニュースの一つ。

 

土曜日に、サンディエゴ市の東El Cajon(エル・カホン)という町で、一人のイラク人女性が、自宅のアパートで何者かに鈍器で殴られ重体となり、病院で亡くなる事件が起こりました。

32歳の彼女には5人の子供がおり、1990年代中ごろにイラクから移民としてアメリカにやってきました。ミシガンからサンディエゴに引っ越してきたのは数週間前のことだったそうです。(このエル・カホンは、ミシガン州デトロイトに次いで、全米で2番目に大きいイラク人コミュニティだそうです。)

 

どうしてこれがhate crimeなのかというと、彼女を自宅で発見したのは、17歳の長女。血まみれの母親の横には、「テロリストめ、自国へ帰れ」というメモが残されていたそうです。そして数日前にも、同じような内容のメモが家族宛に残されていたとか。

家族は女性の遺体をイラクに輸送することにしたそうです。

アメリカ-イスラム交流の代表者、モハビさんの言葉です。(cbs8.comより)

“Running away from war, running away from problems, who knew she would be beaten to death right here in the land of the free, the home of the brave,”

「彼女は戦争から逃げ、様々な問題から逃げてきた。この自由人の国、勇敢なる者たちの故郷(アメリカ国歌の一部)で、死に至るまで殴られるとは誰が予想しただろうか?」

 

アメリカに移住してくる外国人の中には、「もう帰る場所がない」という人がたくさんいます。戦争であったり、独裁政治であったり、国家レベルの経済的困難であったりと原因は様々です。

私自身、日本という母国には、両親や親戚、友人がおり、日本に帰るという選択は、アメリカで何かあったときの「保険」にもなりうるわけです。

しかし、それとは異なり、母国に残れば、明日の生活すらわからないという人も多くいます。家族の安全や生活を考え、あてもないままに全てをおいてアメリカに来る人がごまんといるわけです。イラクからの移民もおそらくそのパターンでしょう。

アメリカという自由の国、opportunity(機会)の国に夢を見て、そして家族の安全のための選択をした結果、無知で偏見を持つ誰かに攻撃され、命を奪われてしまった。とても悲しい事件だと思いました。

 

ご存知のように、イラク人全員がテロリスト要因なわけではありません。

90年代に日本車が売れて、アメリカ自動車企業で働く人たちが日本に嫌悪感を持っていたことがありましたが、それと同じで、日本人全員が自動車工場で働いているわけではありませんね。

しかし、無知と偏見というものは、人間をここまで凶暴にしうる。とても怖いことです。

 

アメリカは移民の国であり、どこの誰であれ、母国からやってきた家族の歴史があります。

移民である以上、その歴史と自分を知り、自分の存在はどのように社会に反映されるのか、というのを知っておく必要があると思います。

社会の多様性が複雑だからこそ起こる、hate crime。

偏見というお手軽な判断方法に負けず、お互いを理解し、受け入れることがとても重要になってきます。

 

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