West Hollywoodという街

皆さんはじめまして、今日からこのブログに参加することになったTamamiです。

今年で12年目となるアメリカ生活ですが、他の皆さんがおっしゃるとおり、アメリカと一言で言っても、広い!!州によってまるで違う国のようにそれぞれ個性を持っています。私は今までにカリフォルニア北部(南カリフォルニアとはまた文化が違います・・・)、中西部のオハイオ州、東海岸のNY(マンハッタン)、そして現在のLAと少しずつ住む機会がありましたので、それぞれの土地でのエピソードや考えさせられたことなどを書いていこうかと思っています。

今日はまず、LAに来てから数年間暮らした「West Hollywood」という街について書いてみたいと思います。

なぜこの街を最初に選んだかというと、大都会というのはだいたい世界中どこでもある程度共通する雰囲気があって、LAも、ここが東京とすごーく違う!という特徴を探すのが年々難しくなっているのですが、このWest Hollywoodという街だけは、「こういう場所は日本にはまずありえない。今後しばらくできることもないだろう」と思う、アメリカならではの場所だからです。

West Hollywoodはその名前のとおりハリウッドの西側に位置する街で、ビバリーヒルズのお隣でもあります。地元の人は省略してWeHo(ウィーホー、と発音)と呼ぶので、この記事でも以下WeHoと表記します。

私と夫は結婚してすぐこの街で暮らし始めたのですが、アパートに入居する際、LAに長く住むお友達に「You guys are going to be the only heterosexual couple in the block!(君たち、近所で唯一の異性同士のカップルになるよ!)」って言われました。

そう、WeHoはゲイの人々がたくさん住むことで有名な街。市長ももちろんゲイです。市の法律で、ゲイカップルも異性同士の夫婦と同様に、一緒に暮らしていれば税金の優遇措置などが適用されます(←濫用して友達同士のルームメイトなのにちゃっかり活用する人たちももちろんいます)。街のメインストリートには巨大なレインボウの旗が誇らしげに掲げられ、その旗の下のTrader Joe’sではゲイカップルが仲良く食材の買い物をしています。かっこいい男の子同士二人で、「今日のご飯は・・・にしようよ!」「えー、やだぁ!」とか、ほほえましい会話をしていたりするのです。そしてかっこいい男の子同士じゃなくて、やや倦怠期ムードの中年男性カップルもちょっとした口げんかなどしながらお買い物したり、みんなすごく自然体で暮らしていました。

私たちの友達が言った、「近所で唯一の・・・」はちょっと大げさで、WikipediaによるとWeHoのゲイ人口は41%だそうです。が、住んでいたときの私の感覚としては、たしかに、周囲の8割はゲイの人々のような気がしていました。自分のほうがマイノリティという感じです。

以下、当時体験したWeHoならではの興味深いエピソードを並べてみます。

・私はこの街で出産・子育てをしたのですが、最初はいわゆる「ママ友」がいなくて孤独でした。だいたいWeHo自体、ファミリーというより夜はクラブ通いみたいな若い独身の人に向いている街なのです。ゲイバーがずらりと並ぶメインストリートのサンタモニカ通りから少し入ったところにあった私たちのアパートも、1人暮らしの若者とゲイカップルしか住んでいなくて、みんな良い人たちでしたが、ファミリー・フレンドリーとは言い難い環境でした。

そんなある日、ストローラーを押しながら散歩していると、向こうからもストローラーを押して歩いてくるママを発見!!彼女のストローラーは巨大で、中には双子の赤ちゃんが寝ていました。嬉しくて思わず話しかけてしまい、名前や住んでる場所を教えあって「ママ友できた!」と喜んでいました。

数日後。

まったく同じストローラーに同じ双子の赤ちゃんを乗せて、別の女性が歩いているのを発見しました。あらら!I know the babies! We met a few days ago!と話しかけながら、きっとこの人はシッターさん?お友達をヘルプしているのかしら?などと考えてました。数日前に会った女性はベビーたちを「My sons」と呼んでいたから明らかにお母さんだとわかっていたのです。そして、このもう1人の女性と話しているうちにわかったのは・・・そう、彼女たちもゲイカップルなのでした。生物学的には、この数日後に出会った女性のほうが、実際に双子ちゃんを産んだママ。でももう1人の女性も、やっぱりわが子として双子ちゃんを育てているもうひとりの「ママ」なのでした。

私と夫はこのカップルとすっかり仲良くなり、その後一緒に公園でプレイデートしたり、メールをやりとりするようになりました。私の娘と双子ちゃんたちも年齢が近かったので、子育てのいろんな悩み・・・寝かしつけ、離乳食、デイケア探し、などなど・・・を何かと相談しあって、共通の話題がつきず、彼女たちがゲイカップルだからといって他のママ友と何一つ変わることなく、こうやって私たちはWeHoでの子育て生活に自然に溶け込んでいきました。

・あるとき、NYから夫の友達が訪ねてきて、うちのアパートに泊まっていきました。夫が子供をストローラーに乗せてお散歩にいくとき、夫の友達も散歩しながらいろいろ話せるから、とついていき、私1人でアパートに残りました。二人が帰宅すると、おもしろい現象があった、と報告してくれました。いつもは夫に全然無関心な街の人々が(夫は間違ってもゲイにモテるタイプじゃないので・・・美形とは程遠いし・・・)、なぜかとても暖かい微笑みを向けてきたり、励ますような笑顔を見せながらうなずいてみせたり、偶然とは思えないほど、すれ違う人々が次々とそういう優しい表情を向けてきた、というのです。

そしてふと気づいたのですが、「男性二人で子供を乗せたストローラーを押している」「男性二人は白人なのに、赤ちゃんはアジア系」・・・ゲイカップルが、アジア系の赤ちゃんをアダプトして育てている!!と、思われたらしい。そういう家族はまだまだ少数なものの確実に増えていて、WeHoでは頑張っている同志として支持されたり、見る人を幸せな気分にさせるのでしょう。

夫と友達は人々の励ますような優しいまなざしに出会うたび、「いや、違うんだよ、僕たちは・・・」といちいち誤解を解くのも面倒で、もう開き直って、微笑みながらうなずき返したり、手を振ったりしていたそうです・・・。

・あるとき、夫がまだ赤ちゃんだった娘を抱っこ紐にいれて、メインストリートを歩いていました。娘の小さい足だけが抱っこ紐の端からのぞいていました。夫の向かいから、ものすごい筋肉隆々の、ゴツイ黒い革のジャケットとパンツを身につけた男性が二人歩いてきて、夫のほうをじーっと凝視しているので、夫はちょっと怖くなって歩みを緩めました。

次の瞬間、この男性二人が、日本語に訳すなら「きゃぁーーー!!可愛い!!見てー、あの小さいあんよ!」「いやーん!小さい可愛いベビー!!」というようなことを甲高い声で叫んで夫に近づき、「きゃぁー!見せて見せて!」と娘の顔を覗き込み、ひとしきりキャピキャピと騒いで去っていったそうです。次々と追い越していく周囲の人たちも別に彼らを振り返ったりすることなく、男性二人も別にふざけてるわけじゃなく、普段の自分をそのまま出してる、っていう感じだったそうです。こういうのが日常茶飯事の風景なのが、WeHoという場所です。

・WeHoの名物は、ハロウィーンイベントです。アメリカでは普通、ハロウィーンといえば子供のためのイベント。可愛らしいコスチュームを着た子供たちが近所の家をまわり、お菓子を集めるというのがメインな部分です。しかし、WeHoのハロウィーンはすごい。強烈です。ハロウィーンというテーマは薄れていて、男女とも競うようにとにかく過激なコスチューム着て歩き、ゲイパレードに近いものがあります。夜が更けるほど人々の露出度が高くなりますが、8時くらいになるとすでに子供を連れていくのはちょっとためらわれる場所になります。毎年大量の人々が押し寄せるため、ハロウィーンの夜は、イベントの場所からかなり離れた私のアパートでも路上駐車が不可能になり、夫は車を停めることができなくて苦労していました。

・2008年に、カリフォルニア州が「Proposition 8」という、同性間の結婚を認めないという憲法修正案を通過させたのをご存知でしょうか。2008年の当時、私たちはWeHoに住んでいたので、そのときの騒ぎをよく覚えています。アパートから歩いてすぐのメインストリートの交差点に、住民たちが「Proposition 8反対!」と書かれたプラカードを持ち、口々に抗議の言葉を叫ぶと、その交差点を通りかかった車が次々と彼らをサポートする意志を示すため、クラクションを鳴らし続けました。クラクションは一日中鳴り続け、普段は「子供が昼寝しているのに」と近所の騒音に悩んでいた私も、この日ばかりは、一緒に思い切りクラクションを鳴らしたい気分でした。彼らの抗議にもかかわらず、Proposition 8はその後、通過してしまいました。

以上、WeHoの生活を書いてみましたが、これを読んだ日本人の皆さんは、ただの刺激的で興味深い話、自分とは別世界の話、というふうに感じるでしょうか。私が今回WeHoのことを書くにあたって一番伝えたかったのは、単なる私の面白体験談ではありません。

WeHoだけを見ていれば、まるでアメリカは何もかもが自由でゲイの人々も自然に生きていくことができる、オープンな国だ、と誤解してしまうかもしれませんが、実はアメリカの保守派の人々は、日本では考えられないほどの憎悪と拒絶感をゲイの人々に対して持っていますし、公の場所でぶつけてくることもあります。ゲイという理由で暴力を振るわれたり、殺されたりする事件も、アメリカにはいくつもあるのです。

私は確かに「普通に」異性と結婚していましたが、アメリカ全体から見ると私自身も「外国人」であり、「アジア人」というマイノリティでもあります。また私の夫は白人ではありますがユダヤ教徒なので、宗教が関わる場面でやはりマイノリティと感じる体験を多くしてきました。ときに差別の対象となるマイノリティという意味では、私もゲイの人々と同じ側に立っています。これからアメリカに移民したいと考える人たちも同じです。多様性を認め、ゲイの人々が自然体で生きていけるリベラルな街、WeHoは、国際結婚カップルでありユダヤ教徒である私と夫にとっても安心で住みやすい街でした。赤ちゃんを育てていた私は、ハロウィーンの狂乱ぶりや、深夜に酔っ払ってアパートの前で叫び声をあげる夜遊びの人々にはちょっと閉口しましたが、それでも、こういう街が存在できるアメリカという国の懐の深さ、マイノリティを迫害するエネルギーとそれに負けまいと権利を主張し続けるエネルギーがぶつかりあうダイナミズムを、日本にはない深さ、素晴らしさだと思いながら暮らしていました。

アメリカに住む日本人の皆さん、またこれからアメリカで暮らしたいと思う皆さんにも、ひとたびこの国に住めば自分もマイノリティになるのだという覚悟と、マイノリティだからこそ他のマイノリティの人々と同じ立場に立って考えようという意識、同時に多様性を受け入れようとするアメリカの懐の深さに対する感謝を忘れずにいて欲しいと思います。

Visited 37 times, 1 visit(s) today

5 comments on “West Hollywoodという街”

  1. Tamamiさん、素晴らしい記事をありがとうございます!
    なんだか、自分の気持ちを代弁してくれたようですごく嬉しい気持ちです。

    >こういう街が存在できるアメリカという国の懐の深さ、マイノリティを迫害するエネルギーとそれに負けまいと権利を主張し続けるエネルギーがぶつかりあうダイナミズム

    とても同意です!!
    私もアメリカが好きな理由はここにあります。周りがみんな違うからこそ、自分の存在や価値に気づけると思いました。そして自分も受け入れてもらえるから、相手も受け入れられる。
    自己を主張することと、相手を抑えつけることって別なんですよね。

  2. Erinaさん、コメントありがとうございます!

    私もいろんな国からの移民がいるというアメリカが好きで、そういう国の成り立ちって面白いなーと思います。(ほとんど)同じ民族が集まった日本にはまた別の良さがあるんですけどね。

    こういう感じの記事で大丈夫かな?とやや不安でしたがエリナさんがコメントをくださってかなり心強くなりました!

  3. Tamamiさん、初投稿ありがとうございます。情報がたくさん詰まってて、かなり読み甲斐がありました。

    West Hollywoodってのはそう言うところだったんですか。ぜんぜん知りませんでした。サンディエゴで言うところのHillcrestですね、きっと。ほんと、アメリカの懐の深さを感じますね。日本じゃありえませんもんね。

  4. Masaさん、コメントいただいたのに返信が遅くなってしまいました・・・
    サンディエゴにもリベラルな街があるのですね。ほんと良い意味でも悪い意味でも日本にはありえないですよね。貧富の差にしても多様性にしてもアメリカは幅広いですね。そこが素晴らしくもあり、様々な問題を引き起こす背景でもありますね。

  5. You are a lovely girl Tamami, and a very good writer.

    If you come to San Diego sometim, please let me take you out and see interesting places!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です