アメリカを離れてしまったけどまたアメリカに戻りたくなったアラフォー研究者が就活するぞ:第一回「やっぱり中国の生活は楽じゃなかった」
アメ10読者のみなさまお久しブリーフ。
2014年の夏にアメリカを離れ、中国の大学に転勤したKAZです。
(前回までの話はこちら。)
出来ることなら中国には来たくなかったけど、来てしまったからには頑張ってデータをいっぱい出して早く中国を脱出するぞ!!・・・と意気込んでスタートしたものの、実際の中国での研究環境は期待していたものとは全くかけ離れていたのでした・・・
その前兆は実は中国上陸前から現れていました。中国でのスタート時期はボスと相談し、7月から始める予定でしたが、なんとギリギリになってボスに「大学が夏休みだから事務に人がいなくて就労許可の手続ができない。」といわれたのです。
ビザは6月末で切れてしまうため、それまで日本で待機させられることになったのです。その後、もう来ても大丈夫だという連絡をもらい、9月になってやっと中国に移ったのでした。
冬に見学に来たときには、研究棟は出来上がっていたのですが研究機器がまだ搬入されておらず、研究室は空っぽでした。「春までには研究機器も全部搬入されて実験の準備は整っているから」という話だったのですが、実際は半年前と比べてほとんどなにも変わっていない様子でした。
それだけではなく、研究を進めるにあたっていくつもの問題が出てきたのでした…
試薬が届くのがメチャメチャ遅い
ボスが「今月中には機器類が搬入されてセットアップも終わるから、今のうちに試薬を注文しておいて。」というので、アメリカでの実験を引き続きやるために必要な試薬類をリストアップしてラボのテクニシャンに渡しました。ところが、日本やアメリカでは普通に買えていた試薬が中国では買えないというのです。例えば細胞培養に使う牛胎児血清ですら輸入禁止です。中国産の品質の不明な物を買うしかありません。そんな話ボスからはまったく聞かされていませんでした。他の試薬類に関しても、メーカーのHPで検索すると「This item is not available in your country」と表示されます。でもその試薬がないと実験が出来ないのでどうしようかと思っていたところ「中国国産品で代わりになる物がある」というので、それを買うことにしました。
ところが、注文した試薬が1週間経っても2週間経っても届きません。そのことをテクニシャンにゆうと、「中国で薬品を買うにはいろいろ書類手続きとか検閲があって結構時間かかるのよ。」とのこと。じゃあいつになったら届くんだいと聞くと、「それは事務の人次第だから分からない。」おぃ。
普通であれば2-3日すれば届くはずの試薬が手元に届いたのは結局1ヶ月後でした。
インターネットがメチャメチャ遅い!!
試薬がまだ揃ってない間、他になにもすることがないので論文を書くことにしました。ところが、リファレンスを引用するために論文をインターネットで検索しようとするのですが、まったく繋がりません。ページを開くのに30秒ぐらいかかります。そのことをボスに報告すると、「中国のインターネット環境はアメリカに比べるとそんなに良くはない。」
しかも中国には俗にいう「Great Firewall」といわれるネット規制があって、GoogleやFacebook、Youtubeなどにアクセス出来ません。ボクはvpnをつかってアクセスしていましたが。
また、ソフトウェアのアップデートをしようとすると、Estimate time :12 hoursなんて表示が出てきます。夜寝る前にダウンロードを開始しても次の日の朝まだ終わっていません。しかも回線が不安定なせいでたまに朝「Dawnload Failed」なんて出てきた日にゃーブチ切れそうになります。
それでも集中して論文を書こうとすると、窓の外から「ドガガガガガガ!!!!!!!!!!」。作ったばかりのはずの壁をオッサンが掘削機で壊しています。その様子をずっと見ていたのですが、補修工事ではなく、綺麗な壁を壊してまた同じ物を作るという意味の分からないことをやっています。なんでそんな不思議なことをやっているのかと思ってラボの人に聞いたら、「お金が余ってて使い道がないから意味のない工事にお金使ってるのよ。」
有名なメーカーの試薬がニセモノ
研究で使われる試薬は信頼のあるメーカーから購入するのは常識で、よく使うメーカーにシ○マがありますが、今回もシ○マから購入したものを使いました。しかし、アメリカでやっていた実験を、同じCat Noのものを使ってやってみたのですがおかしな結果になってしまいました。アメリカでは何度も再現性がとれている実験です。なにか間違えたのかなと思いもう一度やってみましたが結果は同じでした。そのことをボスに相談すると、「中国では高いものを安く売ろうとするヤツが多いから気をつけなければいけない。」ボスのいっている意味がよく分からなかったのですが、すなわちニセモノを売る業者がいて、安い値段で売っている、だから気をつけなければいけないということだったのです。今回もテクニシャンが勝手に安い業者から購入していたらしいのです。改めてちゃんとした業者に手配した試薬を使って実験を行ったところ、ちゃんとした結果が得られました。ちなみに、その業者は少し英語が喋れたのでどうやって試薬を入手したのか聞いたところ、アメリカから一度香港に航空便で輸入して、香港から深圳まで陸路で運んできたそうです。なので、ちゃんとした業者からちゃんとした試薬を買おうとするとアメリカや日本で買う何倍もの値段がするので、ボスには出来るだけ安いところから買うように言われました。しかしどれがホンモノでどれがニセモノなんて、試薬なんてほとんどが白い粉か透明な液体なので分かるはずがありません。
実験の再現性がとれない!!
アメリカで使っていた培養細胞は、アメリカの某研究機関の細胞バンクに依頼しなければ入手できない細胞でした。その為、アメリカから細胞を航空輸送してもらうようにボスにお願いしていたのですが、「その細胞、中国国内で売ってるから買えばいい。」といわれました。
アメリカで樹立されて、特別な許可がない限り入手できない細胞がなぜ中国で売られているんだ!?!? 不思議でもあり怖い気もしましたが、とりあえず細胞を買って、アメリカでやっていた実験と同じ実験をやってみました。ところがまたもや。12時間で死ぬはずの試薬を曝露したところ、2日経っても3日経っても死なないのです。むしろ逆に、生育しているのです。これにはビックリでした。でもビックリしている場合ではありません。早く実験の再現性を得て論文にするためのデータを出さなければいけません。なのでボスに、「この細胞は恐らくニセモノだから、やはりアメリカから細胞を送るように手配して欲しい。」ともう一度お願いしました。するとボスは、「来月アメリカに行くからその時に手配しておくよ。」といいました。アメリカから帰ってきたボスが「細胞を持って帰ってきた。」というのですが、なんと常温の状態で渡されました。普通、培養細胞は凍結状態でないとすぐに死んでしまいます。ドライアイスを持って帰るのはいろいろややこしいから手荷物として持って帰ってきたそうで、凍結されてなければいけないはずの中身は当然液体状態でした。このときはさすがに、このひと頭がおかしいのではないかと思い、普段とても温厚なボクでもさすがに怒ってしまいました。するとボスは、「中国で同じ細胞を持っている研究者がいないか調べてみてくれ。その人にレターを書いて譲ってもらうよ。」というのでネットで検索して中国国内で同じ細胞を使って論文を出している人を何人か探しだし、ボスに渡しました。偶然そのうちのひとりがボスの知り合いだというのでお願いして細胞をもらうことにしました。
ところが結局、その細胞を使っても再現性はとれませんでした。
気持ちを入れ替えて別の実験をすることに
細胞が手に入らないせいでメインの実験が出来なくなってしまったので、別の研究テーマの実験の続きをやることにしました。この実験に使う細胞はとても一般的な細胞だったので、中国で買ったものでもプレ試験では再現性がとれました。ところが今度は、タンパク質の増減を検出する試薬(抗体)がちゃんと検出してくれないのです。抗体はロットによって反応の善し悪しがあるので、別のロットで試してみましたが、これもまた上手くいきません。さらにまた別のロットを買って試したところ、やっと上手く検出できました。そこでまた別のタンパク質を検出するために別の抗体を使ったところ、また上手くいきません。違うロットでやっと上手くいきました。中国で抗体を注文すると手元に届くまでに2ヶ月かかります(アメリカでは2-3日)。なので、この時点で半年が経過していました。こんな状況では、10種類近いタンパク質を検出しなければいけない実験もいつ終わるか分かったモノではありません。なので、一回の注文で全てのロットを購入するということをやっていたらボスにバレて怒られてしまいました。
そんなこんなでもはやなにを信用していいのか分からなくなり、ボクの研究に対するモチベーションはだんだん下がっていきました。研究者としての行き先が見えなくなってしまいました。
ボスに中国行きを誘われたときは、新しい大学で研究費が潤沢にあるとか、優秀な学生が集まっているから実験のスピードが上がるとか、いろいろいいことばかりを聞かされていたので期待してやってきたものの、実際の研究環境はまったく違っており、自分の選択を後悔したのでした。
(次回へ続く)
全てに関してすっごくわかる。笑
あのストレスは思い出しただけで嫌になる。香港が最高に思えました。