アメリカの研究室

みなさん、こんにちは。

今回が2回目の投稿になる新米ブロガー、KAZ でございます。最近、朝晩の涼しさに、過ぎゆく夏を惜しむ日々を過ごしております。

 

前回は、ボクがアメリカに来るきっかけについてお話しさせて頂きました。

今回は、あまり世の中で知る人はいないであろう「アメリカの研究者の世界」について是非皆さんに知って頂きたく、その第一弾として紹介させて頂きたいと思います。

 

一般的に大学の組織は学部、学科、研究室というように分かれています。これはアメリカも同じです。

しかし、日本とアメリカの大きな違いは、研究室のメンバー構成です。
日本ではふつう、1つの研究室の中に教授、助教授(准教授)、講師、助手(助教)、博士研究員、大学院生が含まれます。それぞれに力関係があり、教授をトップとしたいわゆるピラミッド的な組織を形成しています。(下図参照)

ところが、アメリカの場合は違います。アメリカでは、研究室を主催するのはPrincipal Investigator(PI)とよばれるFacultyです。Facultyは教授であったり、准教授であったりします。日本では助教→准教授→教授の順に出世してやっと自分の研究室を持つことができますが、アメリカの場合は、助教になれば自分の研究室を持つことができるのです。

私を含めポスドク達は、早く自分の研究室が持ちたいと日々、研究に精進しております。

 

日本の研究社会は、研究室の中とはいえ、上下関係がハッキリしていて、上司のいうことは絶対服従、黒いものでも上司が白といえば白(それはちょっと言い過ぎですが・・・)という日本固有の風土病というべき病気が蔓延していますが、アメリカではあまりそういったことはなく、PIも部下であるポスドクや大学院生の主張を公平に受け入れてくれます。

これは、日本で研究していたときに、上司の意見に同意できなくてしょっちゅう衝突していたボクにとってはとても心地の良い環境でした。

どころで、みなさんは研究をするためのお金はどこから出ているかをご存知でしょうか?

学生が支払う授業料からではではありません。国や州からの交付金でもありません。研究をするためのお金を得るためには、自分で研究計画書を書き、preliminary dataを出し、国立保健研究所(National Institute of Health, 通称NIH)の厳しい審査を経て、やっと研究費(グラント)を貰えることができるのです。グラントには人件費も含まれますので、グラントを獲得できないPIはポスドクを雇うこともできないし、実験を行うこともできないのです。

ある意味、これもアメリカ独特の格差社会ですね。ですので、PIにとってはグラントの獲得は死活問題なので、毎日申請書の作成に忙殺される日々を過ごすのです。

めでたくグラントを獲得できれば、年間約50万ドル(NIHの一番大きなグラントで)貰えますし、しかもそれが3-5年続くので、そこで始めて研究の軌道が開けるわけです。

 

え、なんでそんな大金が必要なんだ!! ですって?

 

実は研究に使う試薬って、ものすごく高いんです。数mgで$1,000するなんてザラなんです。

しかも、実験に使う機械なんて一台$100,000以上するものがほとんどなんですよ。

 

とにかく、アメリカに来てから自分の研究のために費やす時間が増えたことは、とても嬉しかったです。

 

 

次回は「ポスドクの1日」について報告したいと思います。

 

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8 comments on “アメリカの研究室”

  1. この国の「実力主義」は、研究という分野でも現れるんですね。面白い。
    研究以外のアカデミックでも、ヘッドハンティングなんてしょっちゅうだし、それこそメディアに露出したりと、功績があるかどうかは外からも見えやすいですね。
    またわかりやすい記事をありがとうございました。

  2. Erinaさん
    研究の世界は、
    グラントが獲れなければ実験ができない → 実験ができなければデータが出ない → データながなければ論文が書けない → 論文がなければグラントが獲れない
    という、見事なループを形成しています。
    もちろん研究はデータが出さえすれば良いという訳ではなく、relationshipも大切です。でも、アメリカのrelationshipは日本のそれに比べて公平ですし、クリアーな気がしますね。

  3. 薬学の分野でも同じなんですね~。
    うちの夫のところも、自分のサラリーは自分で勝ち取ってくるシステムです。
    で、本当に忙しくプロポーザルを書きまくってます。
    大学から給料が出てると思ったので、初めて知ったときはびっくりしました。
    で、グラントから大学が何パーセントかうわまえ撥ねて(こんな言い方失礼か・・)、そこから福利厚生などがまかなわれるって感じですね。

    学会に行ってpolitickingも積極的にやってます。
    学者さんは研究だけのんびりしてればいいのだと思っていたら、自分の研究のアピールや人脈作り、結構シビアなんですねぇ。ビジネス業界とはまた違ったシビアさ。

    ところで、日本では若い研究者は自分のしたい研究というのがなかなかできないんですか?ついている教授しだいでしょうか。

    あと私が日本と違うなぁと思ったのは、肩書き。
    日本で大学で研究者となると、教授・准教授など肩書きが付きますが、アメリカは大学で研究室もって研究してるからってprofessorというわけではないですもんね。
    日本の大学の定年退職制度も、アメリカとはずいぶん違いますよね。
    このあたりもまたおいおい書いてください~。

  4. アメリカでは、一部の大きな大学(ハーバードやMITなど)を除き、教員のサラリーの一部はグラントから賄う必要があります。比率は大学によって変わりますが、大体15〜30%ぐらいはグラントから出さないのではいけないのではないでしょうか。

    また、支給されるグラントは、direct cost(直接経費)とindirect cost(間接経費)に分かれており、直接経費から試薬や機器の購入、人件費などを支出します。間接経費は全て事務に持ってかれます。このシステムは日本の科研費も同じです。

    確かに研究者にとって人脈作りは大切ですね。
    ひとつの研究に対していろんな角度からデータを出す必要がありますので、自分の専門外の実験はやはり学外の共同研究者に手伝ってもらわないといけません。また学会でも、いろんな人からアイデアを貰えますので、そういう意味で、研究者同士のコネクションは非常に大切だと思います。
    また、最先端の情報などはインターネットではなく人を伝わってくるモノですので、その意味でもコネクションは大切ですね。
    それに、いろいろコネクションを作っておけば、共同研究の話ももらえることがありますしね。

    よく(日本の)学生が、「ボクは人とのコミュニケーションがとれない性格なので、研究者が向いていると思ってこの世界に来ました。」といっている輩がいますが、将来ほんとうに研究者としてsurviveしていこうと思うのであれば、やはりコミュニケーション能力は不可欠だと思います。

  5. >ところで、日本では若い研究者は自分のしたい研究というのがなかなかできないんですか?ついている教授しだいでしょうか。

    日本の大学では、講座制の研究室(教授、准教授、講師・・・がいる研究室)では、なかなか助教やポスドクの若い研究者が自ら提案した全く新しい研究をスタートさせるのは難しいのではないでしょうか。
    やはり、その研究室が持っている専門のテーマに沿って、教授や准教授に指示されたテーマをやることが多いと思います。

    ただし、科研費の種目には幾つか種類があり(http://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/01_seido/01_shumoku/index.html)、若手の研究者が申請できる種目もあります(若手研究・挑戦的萌芽研究)
    しかし、これらへ申請するテーマも、ほぼ教授や准教授が決めてしまう事が多いと思います。

    ただし、よほど将来性のある、または実を結ぶ見込みのある研究テーマを考案し、ボスの同意を得ることができれば、新しいテーマを持つことは可能だと思います。

    以前、NIHのあるPIが、「アカデミックに向いているか企業に向いているかは、自らアイデアを生むことができるかどうかによる。」と仰っていました。
    すなわち、アカデミックで独立して研究を続けていくためには、次から次へどんどん新しい研究テーマのアイデアを出していかなければなりません。しかし、企業ではある程度の指示は上から来ますので、それに従って研究をすればいいので自分でアイデアを出す必要はないのです。

    ボクは妄想癖があるせいか、結構、いろいろアイデアが生まれるタイプなのでアカデミックに向いているのかなぁと、思っています。

  6. >日本の大学の定年退職制度も、アメリカとはずいぶん違いますよね。

    そうですね、日本の大学では定年は大体65歳ですが、アメリカの大学では定年退職制度はありません。自分が辞めたいと思ったときに辞めればいいのです。

    ちなみにうちのDepartmentのchairは70歳ですし、Faculty memberの最高年齢は90歳です。

  7. はじめまして、米系大手試薬機器メーカに勤めている者です。日本で営業をしています。
    うちの会社に限ったことかは分かりませんが、日本支社に課される売上目標というのはものすごく比率が大きいんですよ。そしてグローバルで見ても日本の営業成績はとても優れている。なぜだろうっていつも思っていましたが、日本のラボでは試薬を湯水のように使うのに対しアメリカでは費用対効果をかなり検証してから有効に予算を使うので無駄遣いが少ない、ということなんでしょうかね?
    そんなことをこのブログを読んで思いました。

  8. しょこらんたんさん、こんにちわ。
    たしかに、試薬の消費量は日本のラボはものすごいと思います。
    使う量を予測せずに大量に溶液を作ったり、一度失敗した実験の原因を良く検証せずに同じ実験をやることでまた失敗して・・・という事も良く見ました。

    また、アメリカでは高価な実験機器は大学内でシェアして使いますが、日本の大学では同じ機械を研究室ごとに所有していたりします。

    それから、これはまた別問題ですが、
    アメリカのグラント制度では、アプリケーションの内容に沿ってきちんと研究が遂行されているかどうかをチェックするシステムがありますが、日本にはそれがありませんからね。アプリケーションの内容と違う実験を行っても文句は言われません。

    でも、やっぱり大きいのは、日本では分配されたグラントのお金は、計画年度内に使わなければいけないというおかしなシステムがあるのが、一番大きな理由だと思いますよ。年度末になると必要なのか必要じゃないのかよく分からない試薬等を大量にまとめ買いするという光景は良く目にします。

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