恐怖の移民局(2002年ごろの話):その1

OPT カード。 mville.eduより

アメリカに滞在するためのビザについて書こうと思うのですが、ビザに関する法規はしょっちゅう変わるので、以下の話は2002年〜2003年の頃の話であることを最初にお断りしておきます。

留学先の大学院を卒業する少し前、私はステータスをF1ビザ(学生ビザ)から「OPT=Optional Practical Training」に変える手続きを始めました。

OPTはアメリカの大学・大学院など指定された教育機関を卒業すると誰でも一度はもらえる、1年間限定のステータスです。勤務先に関わらず合法的に就労できますが、一度使うと、また別の学校に留学して卒業しても、もうもらえません。

この一度だけのチャンス、OPTで就職し、その後も引き続き雇用してもらえることになったら、今度は「H1」というビザを会社にサポートしてもらって3年間、H1は一度だけ更新できるのでもう3年、計6年の間に今度はグリーンカードの申請をサポートしてもらう・・・というのが、留学からスタートして堅実にアメリカでの永住権を入手するまでの道のりです。

しかし、OPTが切れたあと会社がH1やグリーンカードをサポートしてくれるかどうか、というのは就職するときに大体決まっているので、留学後にもぜひアメリカに留まりたいと考える場合は最初からH1とグリーンカードのサポートがあることを条件に仕事を探さなければなりません。不況でアメリカ人でさえ失業率が上がる昨今、アメリカで就職を希望する留学生の状況はなかなか厳しいものがあります。

私が思うに、アメリカに留学した後、自分の国に帰国した場合と、引き続きアメリカで就職した場合では、おそらくアメリカ生活の体験やアメリカに対するイメージが大きく変わってくるのではないでしょうか。

留学生は、あくまでもアメリカにとって「お客様」です。学生ビザでは普通に就労することが禁止されているので(キャンパス内、インターンシップなど、非常に限られている)、アメリカ人の仕事が奪われることはなく、学費を始めとしてお金は使うだけ。F1ビザは卒業したら自分の国に戻ります、という前提で発行されるものですから、アメリカにとって留学生は「一時的に滞在する人」に過ぎません。

しかし就職するとなると、外国人でありながらアメリカ人の就職先をひとつ奪う形になるわけで、そしてもしかしたら将来的に移民してアメリカ人となるかもしれないわけで、アメリカ政府としても厳しい目を向けざるをえません。

私の場合、あの9・11事件の直後であったことも、何かと厳しい目で見られる要因のひとつとなりました。もしかしたらあの事件の前はもう少し、卒業後の留学生に対する目も優しかったのかもしれません。

学生ビザのF1は卒業とともに効力がなくなるので、卒業する3ヶ月前から郵送でOPTの申し込み書類を送ります。

しかし移民局というのはありえなくらいいろいろなプロセスが遅々として進まない場所なので、卒業前にOPTが届かず、就職が決まって入社日がせまってもまだOPTが届かないということはざらにあります。

私の場合も、卒業して2ヶ月が過ぎて、来週から仕事開始なのに!という状態でまだOPTステータスを証明するプラスチックのカードが届いていませんでした。

こうなると、仮のOPTを発行してもらうため、「移民局」に直接出向かなければなりません。

移民局・・・

この言葉にトラウマを抱えているアメリカ生活者はけっこう多いのではないか、と私は推測しますが、どうでしょうか。

私より先に移民局に出向いたもとクラスメートたちから、恐ろしい情報が続々と入ってきました。

  • 移民局の訪問は事前予約できない。しかし大勢の人々が押しかけるため、なんと、前日の夜から遅くとも当日の早朝3時くらいまでに並ばないと、中に入れない!!
  • 移民局のオフィス内は、飲食禁止。水一滴も持ち込めない。友人の1人は、携帯用マグカップにほんの数滴入っていたコーヒーのために、入館拒否されて、また別の日に行かなければならなかった。前夜から並んでいたのに!
  • 移民局のオフィスに入る前、携帯電話など電子機器はすべて没収される。返してくれない。
  • 空港のセキュリティと同じで、靴やベルト、ジャケット、バッグ、すべてスキャンされる。うっかりベルトしたまま通り抜けようとした人が乱暴にとめられ、抗議したところ「警察を呼んで拘束する」と言われた上に、その日は入館拒否。またで直すことに。
  • 無事中に入ると、オフィサーたちがものすごーーーく怖い。犯罪者のように扱われる。
  • 作業にものすごく時間がかかり、前夜から並んだ上に朝8時に入館しても午後3時くらいまで終わらない!館内は飲食禁止なので、手にスタンプを押してもらって一度外に出て食事する。

本当にくだらない理由で入館拒否されて出直す人が大勢いて、私もびくびくしながら管轄の移民局に出向くことになりました。

このときすでにオハイオに引っ越してしまっていた私は、飛行機でオハイオからカリフォルニアに飛び、近くのホテルで前泊して、そこから深夜2時にタクシーを呼んで、移民局へ。

移民局の前まで来ると、真っ暗な中にすでに長い行列が出来ている様子が見えてきました。寝袋の中で寝ている人もいれば、簡易椅子に座っている人もいます。簡易椅子などはオフィスの中に持ち込めるとは思えないので、きっと友達同士協力して、開館近くなったら近くに停めてある車に戻しにいったりするのでしょう。

そんな準備万端じゃない人は、普通に地面に直接寝たりしています。みんなビザが必要な人たちですから、アジア人、ヨーロッパ人、中東系の人々・・・いかにも外国人の集まり。なんというか、このあたりからすでに尊厳をふみにじられているって言ったら大げさだけど、ぞんざいに扱われているなぁ、という感じがしてくるのです。

季節は初夏だったけど、北カリフォルニアは夜になるとけっこう冷え込みます。私も芝生の上に座ったり横になったりしてましたが、寒くてトイレに行きたいし、そんな時間にずっと起きているとお腹も空いてきます。でも移民局オフィス内は食べ物持込禁止だから、下手に食べ物を持ってきて荷物に何か残ったりしないよう気をつけなければなりません。

だんだん夜が明けてきて早朝と言える時間になると、食べ物を売るトラックが入ってきて、朝ごはんを買ったり仮設トイレを使ったりする人も増えてきました。

列に並ぶ前後の人に声をかけて順番を確保してから、私もトイレにいったりしました。詳細は自粛しますが、このときの体験が本当にトラウマのようになってしまって、私はこのとき以降仮設トイレというものを使ったことがありません・・・。外から見かけるだけで「移民局!!」と連想して気分が落ち込みます・・・。

さて、開館時間が近くなると、すでに待ちつかれて座り込んだり寝転んだりしている私たちのところへ、すっきりさっぱりとした顔の移民局オフィサーが1人、偉そうな態度で歩いてきました。

偉そうな態度、というのは私の主観的な感想ですが、でも本当に威張ったような難しい表情で、ずかずかと歩み寄ってきたのです。

そして、私たちに向かって「Stand up!!」と怒鳴ったのでした。

次回に続く

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2 comments on “恐怖の移民局(2002年ごろの話):その1”

  1. 僕は3月中旬申し込みで、5月中旬にEADカードが送付されました。しかし、やっぱカルフォルニアでのビザ関連の手続きはえらく遅いらしいですね(中西部にいても噂に聞くほどなので)。

    ちなみにOPTは、二年制を卒業直後、編入した四年制卒業直後、大学院卒業直後と各一回ずつ取得可能らしいですよ(2012年2月現在)。僕は「書類審査は通るが面談で落とされる」という状態が続いていて、大学の広報が「あ、ウチに在籍って形で良くってよ」と時間稼ぎさせてくれてましたが、やっぱどこのHRからも「あ~せめてアメリカ人と結婚してたら採用できたかも知れないけど、ビザサポート絡めるのはやっぱ無理」と各種大手会社に言われました(B社、C社、S社、K社などなど)。「じゃ、面談に呼ぶなよ」とも思いましたが…やっぱビザサポートは鬼門です(てか、あんま能力云々の問題ではない、みたいなことまで言われてたし)。就職活動て本当難しいっす。

  2. そうなんです、カリフォルニアはやはり移民の数も多いせいか、ありえない話がたくさんです。数年前、ある移民局のオフィスで人々の書類が大量にシュレッダーにかけられた事件、知ってます??マネージャーに指示されて大量の書類を「こんなたくさん処理しきれないから」っていう理由でシュレッダーにかけた、って職員が告発したんですけど、なかにはオリジナルのパスポートとかも含まれてたんですよ!!この時期にOPTを申し込んでいて結局届かなかった!って言ってる人がいたけど、きっとその人の書類もシュレッダーにかけられたんだと思います。そういう世界ですよ!!ほんとクレイジーすぎます。

    あ、OPTは学校の種類によって複数回発行されるんですか?!それは知りませんでした。私が大学院卒業したときは「私は以前大学を卒業したときOPTとっちゃったからもう申し込めないの」と言っている人が周囲にいたんですよ。もしかして制度が変わったのかな。毎年のように変わるから要注意ですよね。

    私が卒業した年は9・11の直後で厳しかったですが、その後、H1Bはさらに枠がせまくなったとか、いろいろ厳しい情報を聞いています。ビザサポートを条件にすると就職の可能性が極端にせばまりますよね。それは私も経験したのでよくわかります・・・。日本人留学生にはぜひ頑張って欲しいと思います。

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