続「行ってから踏ん張んべ」(10)
各3時間超という長さのジャズ・ビッグバンドのクラス。
ジムが時計を見ながら、皆に声をかける。
「Let’s take 10.」
キョロキョロしてたら、ジェフがこっちに向かってニコッとする。
「10分間の休憩という意味ですよ。」
あ、なるほど。
ドラムから離れ、「俺だけ外人」という教室から出て、冷やッとする廊下に体育座りして、ボ~としてしまう。
長かろうが短ろうが、にらんでいても読めない全然楽譜との格闘に、やや放心状態。
そこにトイレから帰ってきたエランがニカニカと近付いてくる。
廊下で俺の隣にチョコンと座る。
エ「どんなの聴くの?」
俺「ロックばっかりね。ジャズも好きだけど、あんまよく分かってない。」
エ「俺と同じだ(苦笑)。」
俺「え?がんがん弾いてるじゃん。」
エ「楽譜が読めるってだけだってば。」
へ~。
ジムが教室からピョコッと顔を出して、こっちに手を振ってる。
「Guys, let’s go.」
その晩、練習が終わったのが10時過ぎ。
皆、片付けながらワイワイ話してる。
エランがジェフと軽く話し込んだ後、こっちに来る。
エ「なんか今度の土曜のギグ。一緒らしいね。最高最高。」
俺「あ、そうなんだ。なんか少し気分が楽になった。」
エ「じゃ、また土曜ね。」
俺「はいはい。」
—–
翌朝、学校に行くと、ESL の先生から声をかけられる。
「Fine Artsに立ち寄ってくれって伝言が入ったわ。」
言われた通り、建物に向かうとジムがいて、こっちに手を振っている。
「ヘイ。紹介するわ。カーソンとスー。」
カーソン、中国人ぽい見た目。香港出身で、合唱を教えてるとか。
スーは普通の金髪のアメリカ人。ピアノの先生だとか。
ジ「タツヤさ、まだ専攻決めてないって言っていたじゃん。音楽教育とかって興味ある?」
俺「いや~どうかしら…」
カ「音楽専攻にしたら、音楽の奨学金が出せるんだけど。」
俺「はい?しょ、奨学金?」
ス「ま、必須の理論とかはとりあえずテスト受けてもらえば大丈夫だから。」
カ「今学期はもう手続きが間に合わないけど、来学期から奨学金を出せるようにするから。」
ジ「全額とはいかないんだけどね。」
1995年当時、CSIの学期ごとの州外・留学生の学費は「$1,200」(現在はもう少々高い)。
それでなくても安いのに、ここから更に割引きになるのか…
全然悩まず素直に即答。
「あ、じゃ音楽専攻でよろしくお願いします。」
スーのオフィスで音楽理論の後日テストを受ける約束をして、その場を去る。
あ、音楽の教科書でも見に行くか。
当時、日本での義務教育で教科書なんて買った経験もなかったため、「教科書を買う」という行為自体、何も考えていなかったが、アメリカの大学で使われる教科書がこれまた高い。
通常キャンパスにあるブックストアで購入するものだが、当時で一冊「$30-80」。近年は一冊「$100-300」などの値段設定があってもおかしくないほど値段は高騰。
今であれば、ブックストア以外にも、アマゾンその他のオンライン・ストアで購入するなりレンタルするのが通常の流れだが、当時はまだ「い?イーメール?」という時代。
安く上げようにも安上がらないため、学費を抑えることができるという今回の話はありがたい。
でも、音楽教育ってことは音楽の先生になるってことか?
周囲に言われるまま、お金に釣られて、簡単に専攻を決めてしまったが…
日本じゃありえんな。
でも学費が安くなるのは嬉しい。
しかし、音楽教育か。
ピアノ練習しないといかんな。