英語上達は筋トレ?
フリーランスの通訳をしていたころに一緒に仕事をしたことのある通訳さんの話です。
彼女は、日本人の私と話をすれば、どう考えても日本語ネイティブ。でもアメリカ人のお客さんが彼女と話せば、そのお客さんは彼女を英語ネイティブだと思う。
非常にバイリンガル度の高い人でした。
通訳もとてもクオリティが高くて、ちょっとした言い回しに「うまいなぁ」と感心することが多く、休憩時間につい、「うらやましいわ、バイリンガルだとそういう表現がぱっと出てきて」と彼女に言いました。
すると彼女は表情を固くして「私、バイリンガルじゃありません」と言うのです。
そこで私は「あ、しまった」と思いました。
その前にいろいろとお互いの経歴など話していて、彼女が人一倍の努力を重ねて今の英語力を習得したということを強調していたのを思い出したのです。
彼女はアメリカ人と日本人の両親の間に生まれたハーフ。でも、日本で生まれ育って、英語圏に来たのは大人になってから。なので、普通の日本人と同じようにものすごく努力して英語を勉強してバイリンガルになった。それなのに、多くの人は彼女を見た目だけで判断して「ハーフなんだからバイリンガルで当たり前だよね」「苦労せずにバイリンガルになれていいなぁ」などと言ってくる。
このことが彼女にとっては非常に大きなフラストレーションなんだそうです。
ほめ言葉のつもりで私が言った「うらやましい」と言葉も、まるで今までの努力をまったく無視しているようで、やはり彼女の気持ちを傷つけてしまったのでした。
とは言っても、両親の片方が英語ネイティブ、という環境は、他の普通の日本人と比べてバイリンガルになるにはずっと有利な環境だと周囲が思ってしまうのは当然のことではないでしょうか。
もちろん、見た目がハーフだからといって「当然バイリンガル」とは限らないことは私もよくわかります。
今アメリカで育っている私の娘も、生まれたときから私が日本語で話しかけていたのにもかかわらず、今は英語のほうがずっと流暢で、日本語には変なアクセントがついています。今後バイリンガルにしたかったら親の私がそうとう力を入れないと、このまま何もしなければ、「日本語の単語をいくつか知ってるだけのアメリカ人」になることは確実です。
でも、もし私の娘が大人になって、自発的に「日本語を勉強したい」と思ったら、それまで日本語にまったく触れたことのないまま大人になったアメリカ人よりもずっと有利だと思います。
言語学の世界でもよく言われているように、幼児期にある言語の音を耳にしていたかどうかは、大人になってからその言語を習得すること、とくにネイティブと同じ発音ができるようになること、を決定的に左右するはず。
そういう意味で「うらやましい」と言いたいのよ、などとその後しばらく彼女と話していたところ、非常に興味深い話を彼女から聞くことになりました。
たしかに、幼少期からネイティブの英語で話しかけられたことで、英語を聴く力はあった、と彼女は言います。ただしそのうち親も日本語をある程度話せるようになり、自分も学校や友達を通して完全に日本語ネイティブとなり、家の中でも英語で話しかけられたことに対して日本語で答える、親も少しずつ日本語で話しかけることが増える・・・という環境になり、自分が英語を話すことはほとんどなくなった。(うちの娘の環境に非常に近いのでよくわかります。)
中学・高校で英語の授業が始まると、難しい単語や文法は他の生徒と同じように勉強しなければ試験に受からなかった。
そのうち通訳の仕事をしたいと思うようになったが、英語の小説や新聞を読もうとすると知らない単語がたくさんあるので、毎日のように新聞を読んでは単語リストをつくり、必死に覚えた。(たしかにこのへんは私も経験のある苦労。)
そしていざ、聴きなれているはずの英語を話そうとすると・・・
頭の中に「正しい音」は存在しているのに、自分の口から出てくる英語はその音にならない。
それは、その音を出すための「筋肉」をずーっと使っていないから、だった。
通訳になろうと決心してから、彼女はその何十年も使っていなかった筋肉を作り直すための練習を毎日のように重ねた。
通訳の訓練として有名な「シャドウイング」(ネイティブの英語のスピーチに数秒遅れて同じことを繰り返す)、音読、会話・・・、その努力の量自体はおそらく、普通の日本人と変わらなかった、あるいはそれ以上だった、と彼女は言う。
ただひとつ彼女が有利だったのは、頭の中に正しい音がちゃんと存在していること、その音と自分の発音との違いが明確にわかり、どこを目指して「筋肉」を鍛えればいいのか、努力の方向がわかっている、という点だった。
このような話を経て、私は「たしかに、この人は本当に努力の人なんだ。当たり前のように言われたら悲しいだろうな」ということがよく理解できました。
そして思ったのが、「普通の日本人である私は、もっとこの筋肉を鍛える努力をしなければならない!」ということ。
幼少期にアメリカにいなかったんだから発音できなくてもしかたないわ~、と逃げず、彼女と同じくらい、またはそれ以上、筋肉を鍛える努力をしなければいけない。
言い換えれば、「どうぜ発音は一生うまくならない」とあきらめていたのが実はそうではなくて、ただしく筋肉を鍛えればもう少し上達する可能性もあるのかもしれない・・・?!
アメリカの日系3世、4世という人々の中に、ときどき、人種としてはずっと先祖代々日系人・日本人なのに、なぜかヨーロッパ人のような顔つきになっている人がいます。それはやっぱり英語を発音するための筋肉が発達して骨格さえ少々その影響を受けて変わってきているからなのかもしれません。
以前、バイリンガルの日系人と話していたときも、「日本語を話そう、とするときと、英語を話そう、とするとき、口のスタンバイするポジションが違う」というおもしろい話を聞いたこともあります。力のいれどころ、使う筋肉の位置などが違うということでしょうか。
以上の話を総合すると、どうも、英語の発音を習得するということは、机に向かった勉強よりもむしろ、腹筋や腕立て伏せを毎日続けるような体育会系の活動のような気がします。
どうでしょうか、みなさん。
今日から毎日、「腕立て伏せ20回!」と気合をいれるような気持ちで、「シャドウイング30分!!」など実行してみると、1年後には大きな違いがあるかもしれません。
本当、筋トレですよ!笑
実際の筋肉もそうですけど、概念もそうだと思います。語学力も、耳も、筋肉も、使わなければ落ちてしまいますもんね。
面白い発想ですね。
確かに、体が鍛えられた人を見たら、「あぁ、この人は努力したんだな」って思えるのに、外国語だったらそうは思われにくいかも。
こちらに来て、留学生時代に韓国語やら中国語やらイタリア語やらポルトガル語やらを聞いては真似をしていたら、「耳がいいね」とよく言われました。今、日本語がさっぱり話せないうちの旦那に言わせると、「僕は耳がよくないから日本語をしゃべれない」だそうです。笑
これは、単なる聴力というより、耳から聞いたものを脳がプロセスし、同じに(または似たように)発音するというのも、また個人によるんだなと感じました。同じものを聞いても、同じように受け取り、発音できるとは限らないですもんね。
会話力って(言語問わず)反射神経ですし、本当に筋トレだと思います。
僕、最初すぐに感じたのが単純な「音域」の差(日本語は高め、英語は低め)。
その「口のスタンバイするポジション」についても、まったくその通りで、「音が違うから、場所も違う」のだと本当に思います。
ただ、発音は国ごとに異なるので、どうなんですかね。
実家に帰ったりロンドンや香港で義兄の家族と遊ぶと、いわゆる「Queen’s English」なので、それはそれで素敵だし(ちょっと憧れるし)、普段接する欧州やアフリカの英語を話す友達はそれでそれで素敵だし…ロシア訛りの英語とか、ちょっと萌えます。
日本でいう「東北訛りの女の子が可愛く見える」的な…
英語話すための、筋トレ。
私、これ大学の授業でやりました。
シャドウイングはテニスやゴルフの素振りみたいなもので、きちんとした型を体に覚えこませるために、何回も何回もやるんですよね。そうやっているうちに使うところの筋肉も付いてくる。
私のやった筋トレはその前段階のもので、腹筋とか腕立て伏せみたいなもんでした。素振りで体を思った通りに動かせるようにするには、動かす体の部位に対応してる筋肉がちゃんと付いてないといけませんもんね。
鏡もって自分の口を見ながら、うーあーうーあーとか、舌を出してべろべろとか。やりすぎると本当に舌の付け根が筋肉痛になったりするんですよね。そんなトレーニングを半年間やりました。
で、このトレーニングのやり方を記事にしようと思ったことがあるんですが、ネットで探しても、なかなか良い写真とか出てこなくて、だからって自分が大口開けてべろーんとかしてる写真を撮る気にもなれず。。。筋トレを文章だけでは伝えられないし。ということで諦めました~。
私も訛りのある英語大好きで、そのロシア語訛りに萌えるのわかりますねぇ~(ただし女の子に限る)。
どんな言語がベースでも、とりあえず通じるレベルまではやっぱり筋トレなりシャドウイングなり、たくさん努力をする必要がありますよね。がんばろ~。
Erinaさん、耳がいいと発音もいい、というのは絶対あると思います。日本人シンガーで海外在住経験もないまま、英語の歌をすごく上手に歌う人がいたりして、やっぱりミュージシャンは耳がいいんだわ、と思ったことがあります。
私はRとLの音が全然区別がつかなくて、ただ、自分の舌の位置とかどうすればRになるか、Lになるかを知識として知ってるので発音は(英語ネイティブがなんとか聞き分けられる程度には)できるんですが、LまたはRが入った知らない単語とか人の名前が急に出てくると再現できなくて非常に困ります。ローラという単語があったとして、Is it Rora? Or Lola? Or Rola? Or Lora??と組合せが4つあり、英語ネイティブが親切に「It’s Rola!」と言ってくれても聴き取れないのでやっぱりわからないという・・・、向こうからすると「この人はちゃんと4種類言い分けていて、こっちは教えてあげてるのになんでわかんないんだ?」と不思議だろうなぁ・・と想像しています。
タツヤさん、アクセントが可愛いっていうのありますね。ペネロペ・クルスとか。中国語アクセントの英語を話す女の子とか可愛いと思います。
でも、逆に言うとアクセントを完全に排除することはほぼ不可能だと思うんです。こっちで育ったネイティブでさえ、先祖代々の特徴を何か受け継いでいる気がします。たとえば日系アメリカ人の英語は私にとってすごく聴き取りやすいです。これは人種的な声帯の形の傾向などによる周波数か何かのせいじゃないかと私は思ってるんですが、ラジオで「おお、聴き取りやすい英語」って思ってると最後にそのアナウンサーの名前が出て、名字が日本の名前だったりして、あ、やっぱり日系人!とわかったりします。ネイティブ同士でも南部のアクセントはかわいいとか、ボストンのアクセントは聞きにくいとかあるし、アクセントを全部なくすべきとは全然思わないんです。
ただし英語が通じなかったら意味がないので、まずは通じるレベルにするまでに必要な筋肉を鍛えるべきという意味です。そのあとでアクセントをなくそうと思ってもなくせないし、ある程度残っているほうが可愛いかもしれないというのはありますね。クイーンズイングリッシュかっこいいですよね、私も憧れます。通訳しているときにイギリス人が発言するとかなりあせりますが・・・。(聴き取れないので・・・)
Makiさん、あるんですね、ほんとに英語発音の筋トレが!!笑
実は私、わりと最近ちょっとしたブレークスルーがあったんですよね。ある日突然、「なんか楽に発音ができるな」って感じました。発音が良くなった、というんじゃなくて、目指す発音が楽にできるようになったな、っていうかんじ。まさに筋肉がついて以前はあげられなかったダンベルがあげられるようになった、みたいな。
でふと思ったんだけど、そういえば最近、娘が寝るまえによく英語の本を読んであげてたな、と・・・
ゆっくりわかりやすく感情をこめて、ちゃんと娘がわかるように正確に発音しようとこころがけて読んでました。それもお気に入りのものを何度も・・・
そんなんで練習になるとは思ってませんでしたが、普段同時通訳で早口でばーっとしゃべるんじゃなくてゆっくりじっくり発音したのが良かったみたいです。毎晩、毎晩のことなので、ちりもつもれば・・・で効果が出てきたんでしょうか?
Tamiさん、
今思い出しました。
そういえば、その音声学の授業で(あ、筋トレやったの、音声学の授業でした)、一つ一つの音をものすごく強調して発音しながら文章を読む、ってトレーニングもありました。子音も母音も普通に話す10倍くらい音を強調しながら、文を読むんです。一語一語というか、一文字一文字を読む感じ。
で、さらに思い出しました。
そのトレーニングが、そういえば、小林克也のアメリ缶にもあった!
いや~、やっぱりすごかったですね、あの教材は。
なので、一語一語ゆっくり絵本を読むのって、やっぱりトレーニングになるんですよね。
祝 ブレイクスルー。
今,一生懸命発声について努力しています。契機はトランプ大統領が中間選挙後の発の記者会見で30代とおぼしき日本人ジャーナリストより貿易問題に焦点を合わせて質問します,と始めた途端,I don’t understand.と取り合いませんでした。映像を見るとfocusが日本語のハ行のフォーカスでした。彼の下唇が上唇と触れていません。1時間20分もの間,南米なまりレバノン訛り,あるかどうか分かりませんがYahoo!訛りなど入り交じったEnglish as a second languageに浴びせられる現職大統領としては付き合ってはいられないという気持ちも納得できます。そこで,Lose accentは出来なくてもReduce accentです。舌と下顎が疲れない程度に意識して練習しています。色々と勉強になる注意点は助かり,今ようやくprosodyの練習に入っています。