「行ってから踏ん張んべ」 (7)
渡米三ヶ月目、二月中旬。さすがにその時々行く場所を探すため、キョロキョロと左右を見回すことも少なくなる。移動の合間に運転免許の筆記試験の勉強を開始。
法律や決まり事の正式文書に使われる英語は基本的にややこしくて、今読んでもたまに「ん?これどっちだ?」とこんがらがります。
渡米した当初の理解力なら、目次ページの但し書きから「んじゃこりゃ」と『太陽にほえろ』ジーパン殉職シーン状態でした。
ESLのクラスは、大体同じ建物の中の「西側」「東側」の部屋を行き交い受ける。部屋の移動がない場合は同じ席で辞書を片手に「あ~でもない、こ~でもない」と休み時間を過ごす。
はっきり言って、文書を理解できない理由が、「単語」ではなく「文章の書かれ方」の場合、基本的に辞書は無意味です。どうやっても理解できないものです。でも、踏ん張る。当初この繰り返しでした。数ヶ月経ってから、「あ」とひらめくことも結構ありましたし、今でもこの瞬間はたまにあります。
その日もいつものように肩を丸め、口を「への字」にして「当ての無い」試験対策をしながら頭をボリボリかいていると、背中をトントンと叩かれ「ふん?」と顔を上げる。
「免許の勉強してんの?」と綺麗なアジア女子が(英語で)聞いてくる。さらに癖の無い日本語で「こんにちわ、ムンです。」と言って握手してくる。
ムンちゃん(Moon Kim)は韓国出身。高校の頃、祖父母を含む大家族でアメリカに移民。「まだ文章書くのが苦手なのよ」とTCCの(English 101/Comp 1レベルの一つ下のレベルだった)ESLの一つに通っている。
ここ最近ずっと「日本語は避けてなんぼ」だった俺も、「なんで日本語できんの?」と思わず聞き返す。
「(英語で)てか、挨拶程度しか知らないんだけど…」と苦笑するムンちゃん。
なんでも、今学期入ってから何度か廊下ですれ違う時があったとか。
こちらは本を相手に難しい顔でブツブツと独り言を発して危ないキャラ。「変わってるなぁ」と思ってたらしい。ただ、アジア系にしては長身(180cm)だし、顔つきと服装は「なんとなく日本人ぽい」から(アジア人留学生には、なぜか親日家が多かったのですが)一か八かで「こんにちわ」という展開だったとか。
「移民?留学?」と聞かれ、「あんま日本人で移民てないと思うが…」とか思いながら留学について少し語る。
「あ、いざ喋ろうと思ったら以外とスラスラと出てくるものだ」と初めて実感できたのはこの瞬間でした。
相手が韓国人であろうと、そんな「意外に違和感なくいける」感覚をきっかけにダ~と話し出す。
しかも、ムンちゃんは所謂韓国美人。むふふふふッ。燃える。いや、今は「萌える」か。
「韓国では、学校で選択できる外国語は英語か日本語で、私は日本語を少しやってた」という当時の韓国教育事情をきっかけに「で、なに勉強しに来てんの?」と会話は膨らむ。
二人とも「あんまお金ないから、とりあえず『Associate’s(短大で貰える学位)』だけかな~」と軽い金銭事情にまで話が進む。
その時、本当に不思議だったのは、それまで練習はしていたものの実際の会話で使ったことなんてない文章やら単語が口からバンバン(それなりに)流暢に発せていたこと。
まさに、ソロ活動でシミュレーションを「お前、ひょっとして馬鹿だろ」てくらい繰り返した成果。
当時僕は常にギターを持って徒歩移動していたので、ムンちゃんもそこに「どんなの弾くの?」と突っ込む。
「クラシック習ってるけど、ラジオに流れてるようなのが好き」と、ケースを開け、最近好きな曲のリフをラジオ聞きながら憶えてたので弾いてみせる。
「あ、Sheryl Crowね」とムンちゃん。
「え、はい?誰?」と何にも知らない俺。
若干、草原の真ん中で大雨に遭い、掘っ立て小屋に逃げ込む「純君とれいちゃん」モーメント(あ、『北の国から ’87 初恋』すよ。『I love you』すよ。)。
「そろそろ時間だ」とお互い違う方向に分かれる間際、「はい」とムンちゃんが電話番号を走り書きした紙を手渡してくれる。
この後、姉が一番口を酸っぱくして留学前の俺に言っていた「現地着いたら、彼女を作るのが英語に慣れる一番の近道だよ」という文句が頭を過ぎって過ぎって大変だったのは言うまでもなく…(若干『北の国から』のエンディングの雰囲気で)。
つづく
いつも楽しいコラムを掲載していただき、ありがとうございます☆
Tatsuyaさんの文章は躍動感があって、面白い!渡米した当初の気持ち、ひたむきな姿勢、不安といった渦巻く感情が身に沁みて分かるだけに、読者の私達もまるでTatsuyaさんと同化したような気持ちで読ませてもらっています。
今後の展開は...?!ムンちゃんとはいい感じになりそうな。。予感(笑)
私もお姉さんと同じこと言ってます。
現地でアメリカ人のボーイフレンド/ガールフレンド作るのが、英語上達への近道!
お姉さんも、やっぱりご自分の経験からでしょうかね??
現地で、同じく留学に来ている日本人と恋に落ちて、何年もアメリカにいたのに恋愛に夢中で英語まったく身につかなかったって例も知ってますが。
早く、先、読みたいですよ。
確かに英語上達の最短の近道は異性の友人(あえてそう言う)を作ることですよね。私なんか嫁さんもちなんで、それができなくていまだに英語は素人ですよ...とかみさんのせいにしている自分が情けない...
私は留学したとき、韓国人と台湾人の女の子とひとつの家をシェアしていたんですけど、彼女達と英語で話すのは英語ネイティブのアメリカ人と話すよりはるかに話しやすかったのを覚えています。お互いに外国語だからというのもあるかもしれないけど、言葉以外の間の取り方みたいなのが、同じアジア人同士で近かったんじゃないかと思います。
彼氏・彼女を作ると飛躍的に上達、というのは、やはり一緒にすごす時間が長いこととか、お互いのことを理解したい気持ちが強いから、確かにそのとおりだと思います。
ただし、英語にも男性的な表現と女性的な表現があるので、日本語ほどじゃないんですが、気をつけないと男性がちょっとオネエっぽくなったり女性がやたら男らしい話し方になっちゃうことがあるのでそこだけ注意ですね。
私も最初に英語の勉強をしたのは韓国人のルームメイトでしたね。クラスメイトでもあったから、英語のレベルも同じくらいで、きちんとした文法をお互いに練習しました。
それよりこれからムンちゃんと甘酸っぱい恋のはじまり・・・っていうのが気になります。ヒヒヒ・・・。
私の知人では、韓国人の彼女ができて、英語より先に韓国語をマスターしちゃった、っていう学生もいました。
■あ、チグチグだ。
なんか連載してたら体の節々がきしんできてるので、今度プロフェッショナルなマッサージよろすくね。え?連載のせいじゃなくて、歳じゃねって?同い年なんだから、そういうツッコミはやめてッ!飲むぞ、えぃえぃおぅ。
■マキさん
いやぁ、姉はロンドン留学中(英国の高校入学瞬間に大検合格し、16くらいで大学生してた)ませまくってたので、たまたま実家に送った「彼氏との写真」に親父さん本気で怒ってたのを思い出しますが、彼女はその後結婚して日本語喋れない旦那と日本に帰ってきました(結局父はミーハーなので、外人ウェルカムでしたが)。有言実行を地でいく強烈な姉(妹もだが)に囲まれてる(これまた強烈な長男がいる)次男です。
■マサさん
それは、やっぱし日本人留学生同士がたまに「かぶれて」やっちゃう「ヘロー」みたいな、なんちゃって英会話を夫婦で熱くするしかないんでないでしょうか。
■タマミさん
まさにそれで、基本的に「話さないといけない」環境に必然的になるので、それが成果として…ま、結構お互い忍耐強くないと厳しいかと。
■エリナさん
もうこっからは完全にスピッツが挿入歌です、はい。僕の友達(♀)にも「日本人を避けてた結果韓国人の友達しかいなかった」と、結局(英語も物凄い上手かったが)ハングルの読み書きから会話まですべてOKになってました。あと、スペイン語いけるようになってた子も…なんで俺はそれをしなかったのか、なんてたまに後悔してます、はい。
4人きょうだいなのねー!!なんだかタツヤさんの家族おもしろそう!!
タマミさん、さすがに全員この年齢層に達すると(母も含めて全員で)「家族が多いのは楽しいもんだ」とか思いますけど、普通のリーマンの親父さんとピアノの先生の母の家庭で特にお金があったほうでも我が家では、食べ物とかを含む「モノ」全般が取り合いでしたね。
小学校からの帰宅後のおやつも棚の中のお皿4枚に取り分けられていて、「ん、なぜラッキーターンは妹のほうが多いんだ?」みたいな些細なことで文句言って、「んな小さいこと、うるさい」と叩かれたり(苦笑)。
でも、この歳になると兄、姉妹はありがたいです。しかも全員ほぼバラバラかつ滅茶苦茶なんだけど、そのギリギリな辺りがたまらないというか。はは。母は「なんか、この子達はなるようになるって諦めたら、急に笑えるようになった」と今はどうでも良いってケタケタよく笑ってます。
なるほど!彼女が上達の早さのコツかぁ~
そーいえば私の大学の友人で洋パンネーチャンさん(日本で汚い言葉ですが)がおりまして、彼女はほぼ毎日ベースキャンプ通って、彼氏を作り、在学中の2年生の頃はかなりのスラング交じりやけど、英語ペラペラになってましたね。その後、何人目のかの彼氏と彼が帰国のタイミングで一緒にNYに行きましたわ。
にしてもたっちゃんのおネーチャンもスゴイですね!
お兄さんも太鼓でスゴイし、賑やかそうやね♪
りょ~ちゃん、最近なんか本当に大物としかやらなくなってきた兄は、ブログが女子中学生並かそれ以下の年齢層のようなカラフルな絵文字だらけのブログで、その姉妹と弟から「恥ずかしいからやめなさい」と言われてるが、わが道を突っ走っておられます。ま、あの人はもう成功者なんで良いです、どうでも(母談)。