あるナースのつぶやき(4)~とある一日~
Yokoです。PCUでナースをしています。前回に色んな退院があると申しました。
言った矢先に起こったとんでもない一日のお話を。
朝4人の受け持ちで始まりました。そのうち二人は前日も受け持った患者さんです。
そのうちの一人が「どうしても家に帰りたい」と朝からソワソワ。
まだ夜勤ナースからの申し送りも始まっていません。
「8時から5時の間にアパートにinspectionが入るから、家にいないと。」
この患者さん、実は昨夜からずっと医師の診察を待っていたのですが、医師同士で誰が主治医になるかと揉めており(決して患者さんがどうのではなく、私にも全く意味不明)
結局昨夜は誰も診に来てくれなかったんです。
↑↑↑ これ、私が患者だったら激怒ですよ。激怒していい所です。しないと駄目です
「あぁ、あの患者さん、激怒だろうなぁ・・・またなだめ役、嫌だなぁ・・・」
なんて、朝から重た~い気分を抱えて病室に向かうと、案の定、もうすっかり私服に着替えて髪を梳かしている患者さんA。
「Aさん・・・昨夜ずっと待ってたんだよね。ごめんなさい。本当に医師達どうなってるんだろうね。」
なんで私が謝らなくちゃならないんだ~、とか一瞬思ったけど、その気持ちは端によけておいて、と。もう、怒鳴られるのを覚悟で言葉をかけたのに
「あなたのせいじゃないわよ~。私がいろいろあるから悪いの。でもやっぱりもう先生が来るのは待てないから行くわね。」
「・・・・」
さっぱり爽やかに言われてホッとしながらも一瞬言葉を失う私。
血糖のコントロールがなってないからとりあえず血糖測定だけして、インスリン注射して、AMA(Against Medical Advice)にサインをしたAさんは風を切るかのように病棟を去っていったのでした。
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AMAとは患者さんが医師のアドバイス(=病院での入院治療)に賛同できず、自身の責任で病院から出て行くことです。処方箋も出ないし、具合が悪くなっても今回の主治医や病院側は責任がとれません、という紙にサインをしてもらいます。と、いうとなんか大事に聞こえたりもしますが、ほとんどのケースがタバコが吸いたい、吸わせろーっ、ケースでして。もちろん院内は禁煙ですし、うちの病院はキャンパスが禁煙なのでヘビースモーカーには地獄にしかみえないのでしょう。
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そういえば、Aさんもスモーカー。本当のところはどうだったんだろう?
さて、そんなこんなで今度は患者さんB。アルコール飲過ぎによる消化管出血での入院です。あまりにも貧血がひどいので昨晩入院してきてすぐに輸血をうけたところ。
貧血がひどい時など医師は6時間毎の採血を指示したります。
こちらのBさんはそれが気に入らないんだなぁ、これがまた。(はぁ~・・・溜息)
「さっきから何回採血すれば気が済むんだっ!もう針をさされるのは懲り懲りだ。このへたくそめ!」
ってな感じです。
ちなみに採血するのは私の仕事ではありませんが、怒鳴られるのは私の仕事。とほほ
何度必要性を説明しても分かってくれないBさん。あげくのはてには
「昨晩輸血したから貧血は治った。退院する。」
え~ん、またこれ?
もうここに書きながら思い出すのも嫌なくらい罵声をあび、Bさんの感情の起伏にも付き合いながら、「1時間くらいしたらそっちに行って退院させるよ」という医師の言葉を拝み待つこと2時間。しびれを切らしたBさん(と私)がまだ他の病院にいるという医師と電話で話しをすると何を思ったのかこの先生、Bさんに「やっぱりあなたはもう少し入院してるべきだと思う」と・・・・なにぃ~っっ?!
もちろん激怒したBさんはAMAのサインも拒否をして病院を去っていったのでした。
朝からBさんに振り回され、やっと少しの平和が戻ったのは午後4時。
周りの皆になぐさめられながら貯まった記録をして、気持ちも新たにERからの患者さんをお迎えした6時50分ころ。
「Yoko~, 14号室のCさんがいないみたいだよ」
・・・うっそでしょ??
患者さんCは市外からシニアのバスツアーでカジノに遊びに来ていて具合が悪くなりました。とっても人当たりのいい可愛い感じの70歳。随分気分もよくなって、医師から退院の許可が下りたけれど、2時間以上も離れた娘さんが仕事が終わってからお迎えとなると夜になりそう。忘れっぽいCさんに日中その旨何度も説明していた私。
どうやらCさん携帯電話で娘さんに連絡を取ってきたけれど、今自分がどこにいるのかわからないらしい。心配になった娘さんが病棟に電話してきてCさんがお部屋にいないのが発覚したのでした。6時半に見たときはお部屋で座ってたのにぃ~。
娘さんにCさんの携帯番号を教えてもらい、かけてみるとCさん、
「ハロ~♪だーれ?」
「Cさ~ん、ナースのYokoですよ~。今どちらですか?何が見えるかな?」
多分認知症の気があるCさんは答えられません。
「ウォールマートに目薬のバイシン買いに行くの」
携帯電話でCさんに語りかけながら、病院内外を走り回る私。
その場で動かないように言いますが、信号の歩行者用シグナルが聞こえたり、車の走る音が聞こえたり。もうヒヤヒヤもんです。
もちろん病院のセキュリティにも通報してあったけど、見つけてもらえなかった。
坂道の多い病院周辺を走り回り、息を切らすこと約1時間。もう限界と思って911警察通報していたところ、Cさんが病院の前でウロウロしているのを発見。
もうとにかく無事を確認できて嬉しくて抱きついちゃいましたよ。
私の今日一日はなんだったんだろうか? ・・・っていうか、私、誰?
というお話でした。
すっごい面白かったです・・・・。Yokoさんの大変な話なのに。
私は日本では割と、ドクターとナースに敬意を払い(いや、今でもですよ)、恐れ多い~・・・って感じだったんですが、アメリカに来てその距離感の近さに驚きました。
ドクターも、親戚のお姉ちゃんみたいなんですもん。
ナースの手厚さは日本もアメリカも変わらずありがたいですけれど、何でも言える、聞けるっていう文化は良いですね。
昔、ナースをしていた友達に、ドラマのERとScrubs、現実にはどっちが近いの?って聞いたら、半分半分かなって言ってました。本当でしょうか?笑
YOKOさん、ナースのお仕事が大変なのは頭では理解していたつもりだったけど、こうして読ませていただくとますます凄いな、と感心します。でも、きっと患者さんをみつけてハグした時点でストレスはす~っと消えて、ナースの歓びがじわ~って出たんでしょうね。またこんな良い話聞かせてください。
Erinaさん、
そうですね。「何でも言える、聞けるっていう文化」、感じます。
患者さんに聞かれてみて、あ、自分も分からない、とか焦りながら、調べたりしたりすることがありますよ。いい刺激です。
ナース側からも日本ではあまり使ったことのない質問が多かったりして、「私ってば今ちょっとDr.Phil?」なんて思っちゃうこともあります。
ドラマねぇ~、トラウマERってあんなに毎回急変があるんですかね?私には絶対に無理です。笑
Mikaさん、
ありがとうございます。無事に見つけた時は本当に嬉しかったのですが、私の太ももがじわ~っ、膝が笑ってる~っ、でした。笑