アメリカ国内での日本関連報道記事
昨年の震災直後、「日本と海外で報道内容が違う」ということが私の周囲でよく話題になりました。
日本政府が指定した避難範囲と米国政府の範囲が違い、東京から米国人が避難しはじめて、「海外のメディアが大げさなことを書いてパニックを引き起こしている」という批判と「日本のメディアは真実を国民に伝えていない」という批判が同時に飛び交いました。
アメリカにいても何かできることはないか、と誰もが考える中、翻訳を仕事にしている私は、アメリカの信頼できるメディアによる日本関連の報道記事を翻訳してブログで公開することを思いつきました。
CNNではこう言っていた、NY Timesはこう報道していた、という情報はあちこちで見るのですが、日米両方の報道を見比べて冷静な判断が出来る人は、両方の記事を高スピードで大量に読めるバイリンガルに限られてしまいます。それに、ただバイリンガルというだけではなくて「このNY Timesの記事は、日本では報道されていない情報を扱っている」などと判断するには相当のメディアに目を通していなければ不可能です。
そこで私は日本にいるジャーナリストの友人何人かに協力を頼み(日本の大学でジャーナリズム専攻だったので、現場で活躍している人をけっこうたくさん知ってるのです!)、どの記事を翻訳するべきか推奨してもらって、仕事の合間にいくつか記事を翻訳しました。
自分のブログ紹介になってしまって恐縮ですが、最近またひとつ大きな記事を訳したので今日はその記事の紹介をさせていただきます。
アメリカにThe New Yorkerという報道週刊誌があります。日本にも報道系の週刊誌はたくさんありますが、The New Yorkerに相当するタイプの雑誌はちょっと思いつきません。ゴシップ系の記事は皆無、グラビアなどもなし。数々の受賞歴を持つ著名なジャーナリスト達による読み応えのある報道記事が毎週いくつも寄せられて、それぞれが読み終わるたびにまるで良質のドキュメンタリーを観終えたときのような満足感があり、これが毎週発行されるとは、なんと豊かな文化だろう、と毎週感心させられます。
さて先日翻訳したのはそのThe New Yorkerの福島原発事故に関する記事。この号が発行されたのは2011年の10月、事故から7ヶ月が経過して、当時の混乱を振り返って出来事を整理しながらその事故の背景と関わった人々に深く切り込んでいます。
これはぜひ翻訳して日本の人達にも読んでほしい、と思いながら、ワードにして20ページ近くという、短編小説のような長さを仕事の合間に細々と訳していたため、出来上がって公開したのがつい最近になってしまいました。
原爆を落とされ、第五福竜丸でまた被ばくして、どの国より核を否定しそうだった日本がなぜ、有数の原発推進国になったのか・・・歴史をさかのぼり、各国の要人を取材して幅広い視野で事実を捉えると同時に、福島で働いていた作業者の家に上がり込み、避難最終日の前日に飯舘村をたずね、その後もパトロールに同行し、被害にあった人々の息づかいが感じられるような情景を描写する、読み応えのある記事です。
また、原発推進にあたってアメリカこそが最初にそのきっかけを作ったという事実を、アメリカの雑誌が堂々と報道しているところにアメリカのジャーナリズムの健全さがうかがえて少し安心します。
「すぐに避難すれば良かった」と2歳の息子に寄り添って泣く若い母親の姿を描写する部分では、同じ母親として胸が痛みました。この母親や、夫を亡くした土地から離れたくない、とあえて遠くには避難しない女性に対する、記者の視線の優しさが感じられます。
一方で、淡々と事実と数字が述べられるチェルノブイリ事故の詳細は背筋がぞっとするし、日本政府の対応について、良かった点は良かったと冷静に評価しているのも印象的です。
結びの章、日本の政治家の一言と、先祖が残した石碑の強烈な対照。そして静かに怒りがこみ上げてくる・・・
私は、アメリカの報道がすべて正しいとは決して思いません。けれど「アメリカでこういう記事が読まれている」ということを、日本人が知ることはとても大事だと思います。ひとつの出来事を多角的な目で見て、それぞれが考え、話し合う、ということも。
リンクは以下です。
http://nytimesinjapanese.blogspot.com/
その後もたびたび友人や知人にリンクを紹介しています。そのたびに話しあう機会をもらっています。
最近では、友人経由でわたしの知らない友人の友人、という間柄の人々にも拡散され、わざわざわたしにお礼のメールをくださる方もいました。
以下、いくつか紹介しますね。
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原発事故についての記事、読ませて頂きました。
驚きや、落胆や、怒りや、悲しみ、色んな感情が湧いて来ました。
教えて頂きありがとうございます。
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アメリカでの報道記事のご紹介ありがとう!早速読ませて頂きました。結構読みごたえあるね〜。私も、唯一の被曝国でありながらこんなに原発を作った日本の矛盾を海外メディアがどうとらえているのか、気になる所ではあったので勉強になりました。
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素晴らしい記事を紹介してくださり、ありがとうございます。
海外メディアでの報道には以前より興味がありましたが、自分は英語が得意ではないのでなかなか情報も限られ、また、膨大な情報が溢れる中、一体何を読めば良いのか、何を信じれば良いのか見失っていたところだったので、とても参考になりました。
衝撃的な内容ではありますが、日本人としてこれらの事実を知っておくことは本当に必要なことですよね。訳してくださったご友人の方にも是非よろしくお伝え下さい。
かんなちゃん、記事をシェアしてくれてありがとう!
あのブログはあまりコメントする人もいなくてほそぼそと更新しているのですが、こうやってかんなちゃんが取り上げてくれたことで反響があったとわかってとても嬉しいです!
あれから1年以上が過ぎて、当時の一種の興奮状態が治まり、悪い意味では関心が薄まってしまう人も多いかもしれませんが、いい意味では、冷静になって客観的に振り返り、日米の報道差について分析することができるようになってきたと思います。
これをきっかけに今後もいろいろと(地震・津波に限らず)日米の報道の違いについて、ライフワークのように取り上げて行きたいと思っています。