グッバイ アメリカ
いつものようにラボで黙々と実験をやっていたある日、突然ボスのオフィスに呼ばれました。
「カーズ、実は他の大学からオファーを貰っていて、ミーはそっちへ移ろうと思っているんだ。」
最近、ラボのメンバーが1人辞め、2人辞め・・・最終的にはボスとボク1人だけになっていました。
原因は、ボスが研究費を取れないせいで人を雇うお金がなくなってしまったのです。
人が雇えなかったら当然実験データが出せるわけがないので、そうなったら結局PIは別の大学に移るしかありません。
(やっぱりか・・・。)
ボク自身の研究もやっとゴールが見えてきて、これから論文に仕上げるために追い込みをかけていたのでとてもショックな話でした。さらにボスは、
「それで、カーズも連れて行きたいと思ってる。向こうの大学ではお金はいっぱいあるからテクニシャンも付けてあげるし、学生に実験を手伝わせてもいい。そうすればプロダクティヴィティーをあげることが出来る。」
もちろんボクにとってもボスにとっても研究のプロダクチビチーを上げる環境が第一なので、例え場所を変えようが研究環境さえ良ければなんの問題もないのだけれど・・・ところでどこにある大学なんだろう。
「その大学は中国にあるんだ。中国の深圳(シンセン)に2年前に出来た大学で、 優秀な学生が集まっている。」
はぁ?中国ですって!?
「ミーは来月から暫くその大学に滞在する予定だから、カーズももし見学に来たかったら来てもイイヨ。」
正直なところ、中国に対してはあまりいいイメージを持っていませんでした(空気が汚すぎて100m先の建物が見えないとか、トイレの個室にはドアがないとか、餃子の具がダンボールだとか、新幹線を土に埋めちゃうとか、となりの国を侵略しちゃうとか・・・)
国際学会でもなければ一生行かないであろう国の1つ・・・ ちゅうごく・・・
アメリカに来るまでは、中国人に対してもあんまりイメージを持っていなかったのですが、実際アメリカで知り合った中国人の友達はみんないイイヤツばかりだし、単なる固定観念なのかも・・・と思って、一度、シンセンを訪れてみることにしたのでした。
時期は一月だったのですが、シンセンは香港のすぐ隣に位置しており、緯度が低いせいでそれほど寒くもなく、街自体は想像していたよりもキレイだし、インフラも整った場所だという印象を持ちました。
大学の建物もすでに出来上がっていたのだけれども、新しく出来たばっかりなので実験試薬はおろか機器類もまだなにもない状態でした。
「試薬とか機器類はもう発注済みだから、今年の夏までには実験がスタートできるようになるよ。」
その言葉を信じてボクは、中国移住を決意するのでありました。
そうなったら引っ越し準備。
とりあえずは友人を当たってみて、車を欲しがっている人がいないか聞いてみます。
また、家電などは大学のマスメールで流して買いたい人を探します。
でも結局はたたき売り。
その他、きっと日本にいたら持てなかったであろう大きなソファーやベッドも友人に聞いたりFBにアップしたりしまして、買い手を探しました。
服や書籍、またその他の荷物はクロネコに頼んで中国に送ろうと思ったのですが、ナント中国に引っ越し荷物を送るには1年以上の在留許可が必要とのこと。
ボクの中国でのコントラクトは一年しかなかったため、結局ダンボールは日本に送り、少しずつ中国に送ることにしました。
それ以外の持って帰れないものや食器などは大学のボランティアチームに引き取ってもらいました。
空っぽになった部屋にしんみりしながらその夜は遊人達とカンザス名物BBQを腹一杯食べ、翌日早朝の便でアメリカをあとにしました。
しかし直接中国には行かず、ボクには日本に帰ってやらなければいけないことがあったのでした。
(続く)