ハリウッド映画と英語

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ハリウッドSF映画を観るとよく思うことがあるのですが、ハリウッドの世界って、たとえ地球からとおーーーく離れた惑星だろうと、タイムマシンで何万年も先の世界に行こうと、見た目が人間とかけ離れた虫とか獣のようだったとしても、登場人物は基本全員「アメリカ人」ですよね。

どういう意味かというと、どんな言葉を話そうと、ジェスチャーとか感情表現とか家族のありかたなどが、アメリカ人そのもの。

それから最初は外国語(とか、火星語とか)を話していたとしても、主人公に習ってあっというまに英語でコミュニケーションができるようになったり、都合よく片言の英語が話せる設定になっていてものすごいバトルの最中、微妙な意思表示とかがちゃんと伝わったりとか・・・

日ごろ、文化や言葉の違いによって非常に苦労している私の目からみるといつも、映画に対する感動とはまた別に、「外国語習得を甘くみるな~!!」と制作者に訴えたくなります(笑)

たとえば

「アバター」

違う惑星に地球人が乗り込んでいくわけですが、そこの住民は身体は青いし人間よりずっと巨大だし、「異星人!!」と頑張って違いを強調しているわりには、みんなけっこう英語がしゃべれます。

この青い異星人の英語が、まるっきりアメリカに住んでいる移民1世の英語です。

アクセントはあるものの、滞ることなくペラペラと出てきます。

移民はアメリカで生活するため必死で英語を身につけて、そんなふうに話せるようになるのです。

まったくそんな必要のない遠い惑星の異星人・・・彼らの文化を深く理解する学者が作った学校で学んでいるから英語を話せるという設定ですが、話す必要のない語学をそんな頑張って勉強する理由がないし、ちょっと学校に行っただけであれほど流暢になるという設定は苦しすぎます。必要にせまられて必死に勉強して、何年も英語圏に住んで、それでもまだコミュニケーションがうまくいかないことがある私の立場は?!

しかし英語ネイティブのアメリカ人は「外国から来た移民もあんなふうに話してるから、異星人も英語学校に行けばこんな感じに話せるようになるだろう」と思うのでしょうか?

ま、そんな事実の裏づけよりも「ここでコミュニケーションができないとストーリーが成立しないから」という映画の都合なのでしょうけど。

ジェスチャーの違いとしては、パンドラ星のナビ人は威嚇するときに「ハーッ」と獣のような声を出すなど、「ほら、異星人だからこんな違いがあるんだよ」と頑張って違いを強調している様子は見られます。

が、そのようなとってつけた違い以外は、ナビ人のジェスチャーはまったくアメリカ人です。

肩をすくめたり両手を広げたり、あきれると目玉をぐるっとまわして上を見たり、怒ったときは腰に手を当てたりしています。「私を騙したのね!」と怒るナビ人のヒロインの様子も非常にアメリカ人女性らしいです。恋人同士の信頼関係だって、国によっていろんな違いがあります。不満があっても言わず男性に従うのが女性の美徳とされている国だっていまだにあったりします。でも、地球から遠く離れたパンドラ星では、恋愛ドラマはアメリカ国内と変わらないようです。

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タイムマシンで「802,701年後」に行ってしまう

「The Time Machine」

という映画では、802,701年後の人類が、遺跡となって残っている現代の看板などを教材にして英語を勉強しているので、アメリカ人の主人公と普通に英語でコミュニケーションできます。

これもすごいですよね。

80万年後ですよ!!

今から80万年前の言語をしゃべれる人なんて現代にいるんでしょうか。今、学問として残っているラテン語だって、日常会話としてペラペラしゃべれる人がどれくらいいるでしょうか。そのラテン語ですらたった数千年前に普及していた言葉。

80万年後に、NYの看板とかが遺跡になって残ってるんでしょうか。映画の説明では「昔、遺跡の看板などから英語を学んだ人が後世に伝えた」と説明されてましたが、アバターの場合と同様、「日常生活にどうしても必要」とか「仕事で必要」という差し迫った事情もないのに、コミュニケーションにしっかり使えるほど英語が上手な人たちがそんなたくさんいるなんて、やっぱり無理矢理すぎる設定です。

starwars.wikia.com

SF映画の最高峰といえば

「スター・ウォーズ」

これはさすがにかなり頑張っていて、安易に英語が共通語になっていないし、たまに見かける蝉が進化したみたいな異星人は人間の発声とかけはなれた虫の鳴き声のような音でしゃべり、英語の字幕が出たりします。

この映画の中で、「異星人だらけなのに、アメリカそのものだー!」と感じるのは、様々な姿の異星人が集まったバーのシーンなどです。肌の色は緑とか赤とか、体のサイズも馬鹿でかかったり、毛むくじゃらだったり、ほっそりした美女だったり・・・そんなバリエーションに富んだ姿かたちの異性人たちがとりあえずみんなビールを片手にバーの音楽を楽しんだりしている様子。

様々な国からの移民が集まるアメリカの(都市の)バーに非常に似ているものがあります。日本で観ていた分には単なるSF映画のワンシーンだったのですが、1つのお店の中にいる人々が全員日本人、という状況が別に珍しくはない日本から、移民の国アメリカに移住してみると、あの姿かたちがそれぞれ異なる人たちが、1つの場所に集まって楽しんでいる感じ、まったく同じだー!と思いました。

もうひとつSF映画の最高峰、

「E.T.」

imdb.com

ETもあっというまに英語習得します。

あの感動の台詞、「ET, phone home!」ですが、国によって「主語+動詞+目的語」の順番は異なります。

日本語だったら「おうち、電話!」となるところを、英語は「Phone home!」。

ETはしっかりこの構造を理解し、時制などは完璧じゃないものの、ちゃんと英語の「動詞+目的語」の順番で話しています。

まるで、英語がしゃべれないふりをしているアメリカ人みたいです。

 

一番最近観たSF映画は

「John Carter」

digitaltrends.com

西部劇の時代の主人公がいきなり火星に飛ばされてしまう話です。火星の原住民は、人間の3倍ほど背が高く、腕が左右に2本ずつ、体の色は緑色、頬から牙が生えているという異様な姿です。

そんな異様さに関わらず、主人公と対面すると、武器を捨てて両手をあげ、「こちらには攻撃の意志はない」とメッセージを送りながら近寄ってきます。

火星でもアメリカと同じように、両手を上げるのが「攻撃の意志はない」という意味のジェスチャーであるとは限らないではないですか。

そして火星の言葉で自己紹介します。主人公も英語で自分の名を名乗ります。

「初対面のときは、まず名前を言い合う」という文化が火星にもあるとも限らないですよね。

子供を連れて公園で遊んでいるときなどよく思うのですが、たまたま日本人親子が近くにいて話しかけたりするときなど、最初に名前を聞かないでけっこういろいろ話して、名前を知らないまま「ではまた~」と別れたりします。

アメリカ人親子と仲良くなるときは、一番最初ではなくても、いろいろと話すうちに「I’m Tamami, by the way」などと言って握手の手を差し出さないと、どうも不自然な気がしてきます。

同じ地球の日本とアメリカでさえこんな違いがあるのに、火星でも初対面のプロトコルが同じというのは私にはどうしても都合よすぎに思えてしまいます。

この映画も頑張って文化の違いを強調しています。この火星人は卵から生まれるようで、大量の卵から産まれた大量の新生児を全部まとめて洞穴みたいなところで保育しています。

地球人は家族単位で暮らすのに、やっぱり異星人だね!という違いがここで強調されています。

が、実は火星人の王様は部族の中に自分の娘がいることを知っています。掟をやぶって女性と恋に落ち、その女性が産み落とした卵をひそかに別の場所で孵していたからです!

この王様と娘を含む「父親と娘の絆」が物語後半の軸となっていきます。

主人公の結婚式に出席してほろりときた王様の涙を、娘が「パパったら、泣いちゃって!」と言うように拭いてあげたりしています。もうただの着ぐるみを着ているアメリカ人の父娘のようです。

そんな父・娘の絆がありうる部族で、卵を全部まとめて親子関係なく管理するなんて習慣が普通になるでしょうか?

アメリカの結婚式と言えば、花嫁さんと父親の「ラスト・ダンス」でみんなしんみりしますが、日本ではお父さんと娘がハグしたりダンスしたり、頬にキスしたりする家族は珍しいですよね。

またまた、地球上の日米でこんなに違うのに、ハリウッドの世界では映画の後半になればなるほど、異星人の振る舞いがアメリカ人そっくりになっていきます。

ドジをした主人公の頭を、腕4本の緑の火星人がぱーんとはたくシーンなどもあります。人の頭を触ることがタブーな国は地球の中にもあるのに、たまたま火星とアメリカでは大丈夫だったようです。

さて火星での英語はどうでしょうか。

なんと、新生児と同じ謎の飲み物を口にすると、その瞬間からお互いに違う言語を話してもコミュニケーションが成立するのです!!

ドラえもんのほんやくこんにゃくもびっくりの、ものすごく安易な解決方法です。もうこれで映画の最後まで遠慮なく、すべての登場人物が英語で台詞を言えます。

通訳を職業としている私としては、その瞬間「いくらなんでも、そりゃないだろう!!」とつっこみたくなりました。ITがこれだけ発達している現代でさえ、「完全な自動通訳マシンを作るには、まず完全な人工知能を作る必要がある」とあのビル・ゲイツが言っているというのに、まだ馬のような変な火星の生き物に乗って移動している文明レベルで「飲み物」で語学習得完璧にできるとは!!

と、普段語学で苦労しているだけに私怨のようにあちこちつっこんでしまいましたが、上記の例にだした映画すべて、上映中は言葉のことなんか気にせず、思う存分その世界に入り込んで楽しみました。

一番最近の「John Carter」も、とても面白かったです。興行的には大失敗だったようですが、実は原作の小説は「Lord of the Rings」とか「Harry Potter」の原作者をインスパイアしたという、現代のすべてのSF映画の創造の元とも言える世界観なのだそうです。まだ観ていない方にぜひおすすめします。 

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8 comments on “ハリウッド映画と英語”

  1. 言われてみれば、超納得(笑)
    突っ込みどころが満載で、沢山笑わせていただきました!!!

  2. SF映画ってあまり見ないんですが、言われると納得。全員、「アメリカナイズ」されちゃってるエイリアンなんですね。
    それをアメリカ人は気にも留めずに見ていると思うと、またなんだか笑っちゃいますね。(って気に留めるのはきっと、私たち外国人だけなんでしょうけど。笑)

    私はイギリスが舞台の映画は、集中して見ないと理解力50%オフです。笑
    アメリカのコメディ映画なら、インターネットや電話しながらの「ながら見」できますけど(もちろん自宅で)、British英語だと「何?あれ?今、なんて言った?」ということがよくあるんですね。
    やっぱり同じ英語でも、私の耳にとっては「外国語」らしいです。

  3. Yumiさん、コメントありがとうございます。
    納得していただけて嬉しいです!
    世の中のいろんな職業を持つ人が、いろんな映画に突っ込みをいれていると思います。たとえばプロのピアニストだったら、ピアノがテーマの映画を見て「こんな練習ありえなーい!」とか、プロの運動選手だったら「あんな試合展開はありえなーい!」とか、お医者さんが医療がテーマの映画を観て「あんな治療ありえなーい!」などなど(笑)
    私は仕事や毎日の生活が言語や異文化に関わっているので、言葉・文化の壁が必ず出てくるSF映画全般に思わずつっこんでしまいます。

  4. Erinaさん、アメリカナイズされたエイリアン、まさにそのとおりです。
    どんなに「地球人とは全然違う文化を描こう!」としても、地球人=アメリカ人、異星人=後半でアメリカ人っぽくなる、移民または先住民 という構図からは逃れられない気がします。
    異星人が先住民に重なられていて、アメリカ人の罪悪感とか、制圧したあとで神聖化するという構造についてはまた別の興味深い話題なのでまた別途記事にしてみたいと思っています。
    イギリス英語、私もわかんないですー!実際に聞き取れない発音はそんなに多くないんですけど、重なると全体的につかめなくなりますよね。アメリカ英語も最初はそんな風に聞き取れなかったんだなーとおぼろげに思いだします。

  5. おもしろいおもしろい~。Tamamiさんならではですね。
    ほんとSFは突っ込みどころはいろいろあるけれど、人それぞれ突っ込みいれたいポイントはちがいますね。
    私がよく心の中で突込みをいれるのは、どこか違う星のはずなのに、どう見ても南カリフォルニアの砂漠地帯。。。という風景です。このあいだハイキング行ったとこの近くじゃない?みたいな。
    うちの夫は、「ニュートリノが地球のコアと反応を始めた・・・」という設定(2012)に「絶対ありえない~」って突っ込みでした。でも、ありえないーとか言っていたらSFなんて作れませんよね。
    突込みを忘れるくらい、のめり込ませてくれるのが、良いSF作品でしょうね。つっこみながら見るのも楽しいですが。

  6. Makiさん、カリフォルニアの砂漠で撮影しているSF映画、多そうですねぇ(笑)
    Makiさんのご主人の、天文学の知識を背景にした突込みもおもしろすぎます。でもそこまで知識があってつっこめる人は世の中にそんな多くないかも?!
    「2012」といえば、NASAが「科学的にもっともありえない展開」トップ10の一番上に挙げたんですよね。あそこまでいくと「つっこみどころが多い」レベルではなくて「荒唐無稽」となってしまい、私にとって2012はSF映画じゃなくコメディ映画です(笑)
    ちょっとくらいロジックが破綻していても良い映画はそれに関係なくおもしろいですけどね!

  7. NASAがそんなランキング作ったんですか?それも面白い。笑
    「ちょっと見てみようか・・・」って腕まくりして(したかどうかはわからないけど)、NASAの人たちがSF映画の批評って想像したら笑っちゃいますね。理系の人は基本的にウンチクが好きだと思うので、こういうの真剣にやりそう。そういううちの旦那も映画に出てくる数学を見て、一人でニヤリとしてます。

    昔、ERでナースをしていた友人が、「現実はドラマのER(社会派)とscrubs(コメディ)を足して2で割った感じ」と言っていたのを思い出しました。

  8. 同じ自然災害パニックものでも、ディープインパクトやThe day after tomorrowみたいに、一応ありえるかもっていう設定と違って、2012は物理の法則を覆してますからね。そりゃNASAが一位に選ぶはずです。
    でも、実際2012のようなことが起こるのじゃないかと心配して、夫に真剣に質問しにきた人もいるんですよ。荒唐無稽な映画でもやっぱり真に受けちゃうオーディエンスはいるんですね。

    MIB Ⅲ 楽しみです。

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