ベストセラーで現代アメリカを読み解く
はじめまして!このたびシアトル暮らしを始めることになりました、はるなといいます。
アメリカに来てから最初に戸惑ったこと。それは、自分は「この国のことを知っているようで知らない」ということでした。
もちろん、マクドナルドやコカ・コーラ、スターバックス、マイクロソフトなど、知っているアメリカン・ブランドは数知れず。ハリウッドなどの娯楽作品、音楽、アート、文学など、あらゆるジャンルに及ぶかの国の影響力ははかりしれません。ですが、こうしてあまりにも手軽に触れられるゆえ、改めて「アメリカとは?」とじっくり考えたことがないことに気づきました。
そこで、赴任の話が出た頃からアメリカ関連の書籍にいろいろと目を通してみました。その中でも、非常に興味深かったのが渡辺由佳里著『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(以下『ベストセラー・・・』と表記)です。2019年の後半に出版された本なので1年前のものになりますが、いまなお含蓄に富んだ良書だと言えるので、ここで簡単にご紹介させていただきます。
著者の渡辺さんは1995年から米国に在住。年間200冊以上も洋書を読む読書家であり、2008年からは「洋書ファンクラブ」というサイトで自身の書評を公開しています。2015年からは「ニューズウィーク日本版」のサイトで『ベストセラーからアメリカを読む』という連載を開始。その中から、特にアメリカにおける象徴的な本についての記事を加筆・修正し、まとめたものが本書です。
合計で60冊の書籍が紹介されているのですが、カバーされている分野は、政治や歴史はもちろん、移民・人種やジェンダーの問題、結婚・恋愛、アメリカン・ドリームなど、多岐にわたっています。扱っているジャンルも、小説、回想録、ルポルタージュなどバラエティに富んでおり、様々な切り口からアメリカ社会の一端を垣間見ることができるのもポイントです。
邦訳されていないものもありますが、中華ファンタジー『三体』(*)、ミシェル・オバマの回想録『マイ・ストーリー』、ナイキ創業者による自伝『SHOE DOG―靴にすべてを。』など、日本でも話題になった作品も取り上げられています。それらの書籍のアメリカにおける固有の文脈を知ると、読書体験にも深みが出ます。
(*なぜアメリカの話をしているのに中国が出てくるのかは、実際に『ベストセラー・・・』を読めば分かります)
【「ラストベルト」の貧しい家庭で育った著者による回想“Hillbilly Elegy: A Memoir of a Family and Culture in Crisis”は、トランプを支持したとされる白人労働者たちを理解するための本としてヒット。『ベストセラー・・・』でも紹介されています】
本書を通読するだけでも十分ためになるのですが、紹介されている本を実際に読んでみるのがお勧めです。アメリカであれ日本であれ、「売れている本イコール優れた本」ではないと思いますが、「なぜこれが売れたのか?」という背景を考えながら読むのはおもしろいですね。
現代アメリカの入門書として、本好きの人には是非手にとっていただきたい書籍です。