続「行ってから踏ん張んべ」(5)
Seattleからの運転を経て、夕方のTwin Fallsの街中をゆったり走りながら、人々の様子をうかがう。
「なんかトラックが多いな。」
そんなことを思いながら、いざ手続きを済ませていたハウスシェア先の一軒家へ。
自称・若干体格が大きめの大家さん(♀)が待っていてはくれなかったが、最近数日に入居したという「ジョディ(♂)」と「JC(♂)」という、これから同じく「College of Southern Idaho」に入学するというルームメイトと建物の駐車場で遭遇。
俺「こんにちは。タツヤです。」
ジョ「タ、タ… 何?も一回。」
JC「ごめん、俺も分からんかった。」
俺「タツヤ。」
ジョ「(ちょっこ吹き出しながら)…全然聞いたことない名前だな。どこから来たの?」
俺「たった今、シアトルから運転してきたのよね。でも出身は日本。」
ジョ「お、シアトルから来たの?俺、アラスカからだから、俺もこっち来る時にシアトル通ってきたわ。」
JC「クール。」
こんな挨拶を軽く済ましながら、ふと思う。
やべぇ、普通に英会話してるじゃん、俺。
ふ。
ジョ「もうすぐ、アイダホ大学に通う彼女が来るから、みんなで映画行くけど、タ…何て名前だっけ。も一回。」
俺「タツヤ。」
ジョ「…難しいから、悪いんだけど、そうだな… 『Tat』て呼んで良い?」
20年近く経過した今も使っているアメリカでのニックネームは、この時ジョディが付けてくれたものです。
車から荷物を降ろして玄関を入る。
JC「もう早い者勝ちで部屋取っちゃったけど、もう一人来るらしいから、残り2部屋のどちらか早く選びな。」
その家。
見た目に大した大きくはないが、地階は共同のリビング、台所、シャワー室、大きい寝室(ジョディ獲得)、小さめの寝室(留守中の誰かが既に獲得)。
地下にシャワー室、小さい寝室4部屋。
シアトルと同様、スーツケース2個分の荷物しか持ち合わせない俺。
「(どれも少し汚いが)本当に微妙に小奇麗なこれにするか…」
適当に選んだ地下の一室には、小さい3段の白タンスとシングルのベッド。窓一個。
地下だし、あんま窓も大きくないから、日没が遅いアイダホでも夕方には薄暗くなる。
電気も付けずにベッド上に座り、ふと何もない室内を見回しながら、もうホームスティではない実感に浸る。
ジョディが階段の上から大声で、「へ~い、Tat! そろそろ行くよ!」
駆け上がって行くと、ジョディの彼女がニカニカしながら、「ハ~イ、ナイストゥーミーチュー」と甲高い声で言いながら握手してくる。
ジョディがこそこそと耳元で呟く。
「こいつ、普段顔見知りだから、こんなにフレンドリーな挨拶したとこ見たことがない。」
出会ってから数分しか経ってない、留学して初めて出来たアメリカ人の友人達と車に揺られながら、談笑開始。
あ~でもない、こ~でもない。
目一杯開けた窓から吹き抜ける乾燥したアイダホの風と、夜8時近いのにまだ日が高い、この光景を背に、周りを見渡す。
ふと思う。
俺が日本で想像していた留学生活。
やっとこれから始まる気がする。