英語にしにくい日本語 生活編
前回は通訳をしていて難しいと感じた日本語をとりあげましたが、実は私にとっては日常生活のコミュニケーションに使う英語表現のほうがずっと難しく、今でも言いたいことがうまく言えずにもどかしかったり、「この微妙な感覚を英語で伝えるのは不可能かも・・・」と途方にくれることがしょっちゅうです。
最近困ったな、と思ったのは、娘が通う日本語幼稚園からの小冊子に
- 「子供は甘やかすのではなく、甘えさせることが大事」
と書いてあり、全体的にとても賛同できる内容だったので、ぜひ夫にも分かって欲しいと思ったのですが、「甘えさせる」・・・このキーワードがなんとも英語にしにくかったことでした。
「甘やかす」ならほぼ同じ意味の言葉があります・・・「Spoil」。
しかし、「Spoil」という言葉には完全にネガティブな意味しかありません。「子供をSpoilする」と言えば、単に「甘やかす」だけじゃなくて、「甘やかすことで子供をダメにしてしまう」という意味まで含んでいます。
日本語の「甘やかす」ももちろん、ネガティブな意味ですが、甘やかした結果として「ダメにする」まで含んでいないので、「たまには甘やかしてあげることも大事よ」などという文脈でも使われます。これをそのまま英語にして「Spoilすることも大事」と言ってしまうとやはり、意味的に成立しなくなってしまいます。
「甘える」という言葉だともっと違いが顕著です。
「親に甘えるな!」などと言う場合はネガティブだけど、「子猫は甘えるような鳴き声ですりよってきた・・」なんていう場合は、ネガティブというより可愛らしいイメージを強調しています。
女性が恋人に「ちょっと甘えてみたい気分だったの」なんて言った場合は?「Spoil」はまったく的外れです。
「甘え」というのは非常に日本人的な感覚といわれていて、有名な「甘えの構造」(土居健郎著)など、日米文化比較論の本の題名にも使われているくらいなので、ここで分析を始めていたら延々と長くなってしまいますが・・・
私の個人的経験に戻って、最初の子育て論、
「甘やかすのではなく、甘えさせる」。
具体的には、子供ができるはずのことを1人でやらせず、何でも親が先回りしてやってあげてしまうのが「甘やかす」。
しかし子供が本当に助けを必要とするときはちゃんとそばにいて、助けてあげるのが「甘えさせる」。
という文脈に基づいて、
「You should not spoil kids, but you have to be there with them when they really need you」。
と英語で伝えてみました。英語にするとなんだかすごく当たり前で、夫も「そんなこと普段からやってるし」っていう反応でした。もしかしたら、ついつい子供を甘やかして自立させず、甘やかすのと甘えさせるのを混同してしまいがちな日本人の親に、とくに響く言葉だったのかもしれません。
娘がまだ赤ちゃんのとき、泣き出すたびに私が抱き上げることを夫の両親に批判されたときは、
「I’m not spoiling her! I’m just… just…」
となかなか言葉が出てこなくて言いたいことが言えなかったのですが、このときも、もしかしたら
「She just needs me right now!」
と、毅然と言っていれば私の気持ちが伝わったのかもしれないな、と後になって思いました。
他に私が今までなかなかうまく伝えられず苦労した日本語をいくつかあげておきます。
- 「やっぱり義理の家族と一緒にいるのは誰だって気疲れするものでしょう」
夫の家族と1ヶ月同居していたとき、私が夫に訴えたことですが、夫は私の家族といても別に「気疲れ」しないので、これを一言で伝えるのは至難の技でした。もちろん、アメリカにも「夫にとって、妻の父親は強敵」という感覚はあるのですが、日本ほど上下関係が強調されないというか、もうちょっと対等な友人同士に近い敵対関係のようです。
こういうことを伝えたいときはまず最初に「This is a traditional Japanese way of thinking, but…」などと前置きして、「今からちょっとあなたの文化では理解しにくいことを言いますからね」と相手のマインドセットを変えてからでないと、何を言っても通じない可能性があります。
そのうえで、「You know, your parents are really nice people. I feel so lucky to marry into this family. But for me, as a Japanese, I can’t help being super sensitive as to how they think about me, and being constantly alert to how they treat me and what they say to me to know if I’m accepted as your wife is really exhausting…」などと長々と説明し、「But it’s not that I don’t want to be with them. I love your parents!!」などとしつこいくらい強調します。
これが日本人同士の夫婦なら、最初のひとことですべてわかってもらえるのだからうらやましいなぁと思います。
- 「もうちょっと私に気を使ってくれてもいいじゃない?!」
こういうときの「気を使う」という言葉にぴったりくる英語をずっと探していたのですが、ある日、あの人気ドラマ「Sex and the City」の中で、主人公のキャリーがロシア人男性の恋人と交わした会話に「まさに、それを言いたかったの」と思える言い回しが出てきました。
あのドラマではよく男女がお互いの気持ちについてああでもない、こうでもないと議論するので、実はかなり参考にしています(笑)。キャリーとロシア人男性もそれぞれの国の文化の違いからこの口論に発展するので、国際カップルの私にも応用しやすいのかもしれません。そのときのキャリーのせりふは
「I just want you to be more considerate to my feelings!」
でした。以降、まるっきりそのまま使わせてもらっています。
なんだか私が夫に文句を言うときの表現ばかりになってしまいました(笑)
みなさんの意見や経験談もぜひ教えてください。
アメリカ生活も数年が過ぎると、これは単なる「英語力」じゃないんだな〜と感じましたね。「日本人の義家族に対する感情」なんて、言語レベルじゃないですもん。笑
私は、自分にとって英語は外国語だからスムーズに行ってる人間関係、っていうのもあるなと感じます。母語だとつい省略しがちなフレーズも、「わざわざ」言うことで円滑になるコミュニケーションってありますね。外国人と結婚するともちろん大変なこともあるけれど、だからこそ一生懸命にコミュニケーションをとろうとするんじゃないでしょうか。
Erinaさん、おっしゃるとおり、言語レベルじゃないってことが多いですね。お互いにわかろうとする気がないとコミュニケーションが成り立たないことが多いから、真剣に話し合いますよね。私も外国人と結婚したからこそ違いを乗りこえようとする努力をするようになって良かったと思います。チャレンジも多いですが・・・
英語のほうがうまくコミュニケーションできることがあるっていうのもよくわかります。仕事ではとくにそうですね。私の場合日本語だと人格も日本人としてなんか遠慮がちになってしまうんですが、英語だと言葉のチョイスも少ないせいか割とストレートになんでも伝えられる気がします。でもよく「英語で話すとすごくきつく聞こえる」って夫に言われるので気をつけなきゃ—と思ってます。夫の影響だと思うんですけど(笑)
義理の家族と一緒にいると気疲れするって説明、Tamamiさんの「わかってよ~」っていう心の叫びが聞こえてくるよう。日本語ぺらぺらのご主人でもやっぱりここまで説明しないといけないんですね。文化の違いって大変。実家に帰るのと違って、やっぱりhard to get to feel totally relaxed..ですよね。あってるのか、この英語。
「Can’t you care more about my feelings!?」って私もちょうど最近夫に向かって言ったとこ。まぁ私の場合は「もうちょっと私がどう感じるか考えてよ、ばかっ!」ってくらいの勢いでしたが。。はは。今度落ち着いて言うときにTamamiさんの言い回しを使ってみます。
国際結婚について、今度書いてください。是非。
義理のお母さん、私もものすごく気を使います。でも逆に、アメリカ人は、日本のような嫁と姑のような関係もない訳だし、気が楽と言えば、楽ですけどね。
生活の中の訳しにくい日本語で、「いただきます」と「ごちそうさま」というのも難しいですよね。「いただきます」は、食事を作ってくれた人と、食材の命を頂くという意味があって、「ごちそうさま」は、作ってくれ人にご苦労様でしたのような意味があるそうですが、英語にはこんな言葉ないですもんね。それに仕事のあとの「お疲れさま」とか、人の家に入るときに「お邪魔します」物をあげるときに、「つまらない物ですが」なども、日本人の心が表れている言葉ですよね。
まきさん、うちの夫は日本語ペラペラなところが余計に曲者なんですよね。よく、日本語わかってもらえていいね、って言われるんだけど、結局こういう日本人独特の文化や考え方に基づいた感情は日本語じゃ理解してもらえないので、がんばって英語で伝えるしかないんですよね・・・。下手な言い方すると「僕の両親が嫌いなのか」とか逆ぎれ?されたりするし・・・。
お互い頑張りましょう 笑
Ayaさん、「いただきます」は敬虔なクリスチャン家庭だったらお祈りするのでそれが似てるかもしれないですね。ユダヤ教徒のうちの場合は、もうそのまま広めてます。「イタダキマース」とみんなにも言ってもらいます(笑)
アメリカ人にも、もちろん、「人の気持ちを思いやって優しく接する」という概念そのものはあるんですよね。でも何が丁寧で何が失礼なのか、という前提が違いすぎるので、私も義母への接し方が最初はすごーーく難しかったんです。
日本だと「いただきます」ってみんなで一斉に食べるのは、一家の主(=父親)とか、お客様より先に食べ始めるのは失礼、という感覚があるから「食べはじめてもよろしいでしょうか」と許可を得るような意味合いもありますよね。
そういう感覚がないアメリカでは、サーブされた人から先にさっさと食べはじめたりするんだけど、私なんかは最初、義理の両親より先に食べ始めないよう気をつけてたりしたんですよ・・・そんなのきっと誰も気づかなかったと思うんですけど(笑)
そういう変な不要なところで気を使ってるのに、なんか嫁がペラペラ喋るのは図々しいんじゃないかと大人しくしていると、「もっと会話に参加しなきゃだめだよ、つまらなそうに見えるじゃないか」って夫に注意されてしまって落ち込んだり・・・。
結婚して5年経った最近は、やっと少しずつアメリカ式の「気遣い」がわかってきたような気がします。まだまだ・・・なんですけどね。
猫が甘えてくるのがかわいいって表現したくてたどり着きましたが、大変勉強になりました。また、いろいろな体験談お聞きしたいです。私は、海外はおろか東京と田舎(ずっと東京に住んで他のですが、親の体調が悪く帰郷)とのいろんな違いがとても辛い日々です。日本人同志でも分かり合えないのはなぜなのでしょうか?イギリス人の彼がいますが、彼はシカゴに住んでおり、住みたい場所でも折り合いがつかず、このまま平行線のような気がします。なんだかいきなりでごめんなさい。よろしかったら、コメントくださいませ