教会でベースを弾く
どの環境にあっても「ドラムが自分の楽器」という認識がある。ただ、音楽的に雑食で複数楽器(鍵盤、弦楽器、篠笛など)を奏でる打楽器奏者の兄とその達者な友人達を見て育った(個人練習、バンド練習・会合をしている彼の部屋の隅っこにチョコンと座っていた)ためか、一応その影響でギター・ベースも弾く。
そんな程度で(兄所有の楽器を)いじり始めたが、高校時代は(とてもよくある話だが)「ベースでしかバンドに入れない」状況も一時経験したため、「やはり便利屋さんはありがたがられる」と今でも常々実感する。
求められるというのは、楽器がなんであれ、嬉しいもの。
さて、ウィチタに引っ越してきて、夏場は、ジャズの演奏が主体で、ドラムを叩くことが多い。
ただ、「一年を通して奏でる」となると、「教会でベースを弾く」ことが実は多い近年(ほぼ毎週日曜朝)。
初めて「ベース弾いてくれないか」と電話を受けたのは、「自分以外は全員黒人」という、所謂ゴスペル系。憧れるジャンルではあるが、もちろん未経験。
「この前、別件で弾いてるタツヤを見て、連絡先をゲットした。大丈夫大丈夫、簡単だから。」
いやいやいやいや。
とは言え、物は試し。
日程を聞いて現地に向かう。
(雑誌で読んだり、噂には聞いていたが)この人達、基本的に楽譜は使わない。「今週やる数曲」をひたすら耳で追う。進行は滅茶苦茶複雑だし、(バンド全体で同じ旋律やリズムを追ったり、止まったりすることをさす)「キメ」が半端なく多い。
「こんな感じで弾いてくれ。」
無理です。
基本的に「練習してもできない」という内容。普段、音源すらも事前に配らないらしいが、特別にCDなどにまとめてもらい、最低限「今ここを演奏している」という場面場面を追えるよう必死にメモを取りながら練習。
初めての練習の日。機材を組み立てながら、または曲間に、色々話をする。
その時、改めて気付いたのだが、(ジェームスブラウンの手のサインが有名だが)実際演奏中に手で様々なサインを出し、転調やテンポの変化の指示を瞬時に行う。各種サイン時の手の形やタイミングを軽く記憶する。
彼ら、大体3-4歳から教会でのバンド練習に顔を出すようになり、11-12歳頃までに少しずつ場数を踏みながら、すべてを叩き込まれる(その教会のバンドメンバーは全員絶対音感の持ち主)。13-15歳頃までに「お金を貰える」と認められて初めて月給制となる、らしい。
教会の多い「バイブル・ベルト」という土地柄。もちろん、経験値が高い人気ミュージシャンとなると他の教会からお金を詰まれ去る、という競争の一面もある。
一度始まると、2-3時間は爆音で押しまくる彼らの教会。ヘロヘロになりながらも踏ん張る。
1-2ヶ月後、「タツヤ、このくらい出すから…」と経験値のない無名な俺ですら声がかかり、別の教会に移る。
今度は、基本的に「白人が大半(黒人、アジア人も少々)」という雰囲気。ガシガシのゴスペル系とは雰囲気が異なり、とても緩い。
事前に伝えられていた曲も極めてポップで簡単。
この曲(というか、この手の曲全般)は基本ギターソロ等が比較的難しいのだが、「日本のバンド・ブーム『イカ天』世代」にとって、この手のベースは極めて易しい。プリプリ、ボーイのコピーより楽。
ここ10年くらいは、「間を埋める」存在も出てきて、以下の彼はその有名な例(ヒスパニック系の血が流れ、ゴスペル系で育ち、現在は「白寄り」の曲・活動が多い)。
また、カフェなどに場所を移して、以下のような小編成で静か目な内容をやることもある(実際に鉄琴やピアニカ、打楽器小物各種、アコギ、歌などもやらされた)。
ウィチタ内では、現在9個目の教会となる。ドラム、ギターなどを「これやってくれないか」というリクエストに対して「イエス」しか言わない日本人を貫きながら、改めて「横の繋がりは大切だな」と強く実感。
この「白黒」という分け方。大きく分け過ぎているし、正確ではない。
実際あまり好ましくないのだが、所謂「演奏の質」で見ると、やはり「黒」は毎日数時間練習するし、その必要有る、濃い内容。最近は(練習に割ける時間や、内容の楽さにあり)ほとんどが「白」のような内容を選んでしまう。「白」い場合、基本「各曲に一度二度目を通す」程度でナァナァ気味。
(実際、彼らも「白黒」で言い分ける。)
アメリカ国内全体が実際そうなのかは不明だが、ブッキングされるようになると、各教会に登録したメアドに以下のようなメッセージを受信するようになる。この「Planning Center Online」、「教会賛美・管理ソフトまたはアプリ」とでも言おうか。
「Accept」を押下し、受け付けると以下に飛ぶ。
カーソルを各曲に持っていくと、動画や音源、コード譜・楽譜などのリンクが表示される。
現在所属する教会については、まず一度個人的に目を通し、基本毎週土曜午後に1時間半-2時間程度の練習に備える。基本的にこの曖昧なコードと小節区割りを確認する感じ。
そして、日曜朝7時半頃に現場入り、9時と11時に演奏する。
まぁこんな世界もあるんだ、という感じの話でした。