TED

TEDをご存知でしょうか。

”TED”はTechnology, Entertainment, Designの略で、「Ideas worth spreading」というキーワードのもと、広める価値のあるアイディア、情報、知識を各分野の第一人者が語る、というカンファレンスです。

テーマは非常に多岐にわたっていて、必ずしもTechnology、Entertainment、Designに直接関係することでなくても、ある一定の分野を極めた人たちの経験談や研究内容、スーパーモデルが語るメディアによる虚像とか著名なマジシャンの実演にいたるまで、思わず身を乗り出して聴き入ってしまうような興味深い話ばかり。

話の長さは基本的に18分と決まっているようです。最先端の技術の話でも短く簡潔にまとめられ、素人にもわかりやすく非常に興味深いです。

過去のTEDトークはすべてTEDのウェブサイトで観ることができ、私は毎日のように通勤ハイウェイで聴いています。

そのなかで特に印象に残った話をいくつか紹介すると・・・

Amy Cuddy: Your body language shapes who you are

 

 

Amyさんは心理学者。彼女の研究によると、たとえば仕事でプレゼンするときや議論をするとき、自分の姿勢、仕草でパーソナリティがかわり、自分の有利な方向に議論を変えていくことができるそうです。

その実験がおもしろくて、女性はワンダーウーマンポーズ(両手を腰にあて、姿勢よく仁王立ち)、男性はスーパーマンポーズ(両手のこぶしを上にあげ、やはり仁王立ち)を3分間したあと、唾液からホルモンの測定をする。

すると、そのポーズをする前と後で、テストストロンというホルモンが有意に増加していたそうです。

テストストロンというのは男性ホルモンの一種で、このホルモンが多いとより好戦的、攻撃的になり、自分に自信がみなぎり、議論に勝ったりプレゼンで好印象を与えることができるそうです。

Amyさんはスピーチの中で「Fake it until you make it」という英語の表現を使っています。最初は本当じゃなくても、自分を演じているうちにそれが本物になる、とか、成功をイメージしていると本当に成功する、という考え方は、ポジティブ・シンキング系の本なんかによく出てくる話ですが、それがこうやってデータで科学的に示される、というのがTEDトークのおもしろさです。

私はポジティブ・シンキング系の話は好きなのですが、引き寄せの法則とかザ・シークレットのようにちょっと神秘的な世界として説明されるより、こうやって科学的な裏づけとともに専門家が説明してくれる話のほうがずっと興味深く感じます。

姿勢とかジェスチャーって本当に大事なんですよね。それは普段の自分の経験からなんとなくはわかっているつもりでも、こうやって本当に「ホルモン値が変わる」なんて言われると、真剣に自分の生活や仕事に取り込もう!という気になります。

 

 

Dean Ornish:Your genes are not your fate

DeanさんはUCSF教授をつとめるドクター、専門は予防医学。「遺伝子で運命が決まるわけではない」というタイトルで、ヘルシーなライフスタイルによって脳細胞が増える、という話をしてくれます。英語ではよく「It’s in my genes」という言葉で、性格や体質などを「もう遺伝だから仕方ない、遺伝子に入ってるから絶対変えられない」ということを表現するのですが、このDeanさんのトークはそんな慣用表現に対する反論でもあります。

こういう、一般常識になっていたり多くの人にとっての先入観になっていることが、「実は違うんだよ」と覆されるのもTEDトークの面白さなのです。最先端の研究成果に触れることで、なんだか将来に希望が見えてきます。

 

 

Eleanor Longden:The voices in my head

 

Eleanorさんは心理学者。大学に入学したころから幻聴が聞こえ始め、統合失調症と診断を受けます。症状はどんどんひどくなって病院にも見放され、普通の人生は送れないと宣告されてしまいます。でも、とても良いドクターとの出会いによって、薬で病気を抑えたり幻聴を無理やり消そうとするのではなく、逆に声に耳を傾ける、という試みを始めます。

幻聴と言ってもそれはやはり自分自身の脳で作られる声。耳を傾け、冷静に対応して会話をするうちに、少しずつ声をコントロールできるようになっていったそうです。

最初、声はEleanorさんを罵ったり、批判するようなことばっかりだったのですが、たとえば勉強中に「どうせお前は勉強なんかしてもだめだ、やめろ」という声が出てきたら、「あら、そうね、そろそろ勉強をストップして休む時間ね」と返して実際に休む。すると声がとまったり攻撃的ではなくなったりする。声と交渉して「夜の8時から1時間だけあなたの声に返答するわ」と取り決めたところ、本当に声が聞こえるのがその時間だけになったりも。驚くべき結果です。

普通の人生は送れないと宣告されたEleanorさんは今、優秀な心理学者として活躍していて著作もたくさんあります。自分自身の体験から学んだことも多くあり、今となっては研究対象でもある自分の幻聴が止まってしまったら寂しいかも、とさえ言います。

こういう話は情報としても貴重なだけでなく、やはり、絶対に乗り越えられないだろうと誰もが思った困難を乗り越えた人の話として、非常に勇気付けられます。

 

 

Diana Nyad: Never, ever give up

 

Dianaさんは遠泳スイマー。なんと64歳という年齢にして、キューバからフロリダまで、サメから守るケージなしで100マイルの遠泳という記録を樹立しました。

そしてこの64歳のときが5回目の挑戦だったそうです。初めて挑戦したのが29歳、2回目、3回目が62歳、4回目が63歳。

20代で挑戦してできなかったことを60代で再挑戦すること自体がもう、本当にすごいですね。

そしてその60代で失敗しても3回もまた挑戦するところが・・・

40代の私は「もうトシだわ~」とか、「20代のころと違うわ」なんてつい言ってしまうのでうが、DianaさんのTEDトークを見たらそんなたわごとは遠くにふっとんでいきそうです。Dianaさんが話す様子は活力にあふれていて、堂々とした話し方、日焼けした健康的な肌、すべてに「バイタリティ」という言葉がぴったり。「64歳の今が、人生最高のときよ!」と宣言し、観客の拍手喝采を浴びています。

 

 

TEDトークにはこのように偉業を成し遂げた人、記録を樹立した人、究極の過酷な環境に行ってきた人(南極、宇宙、深海・・・)の経験談も多く、彼らの話を聞いていると自分の小さな悩みがどうでもよく思えてきたり、「私は何をしてるんだろう・・・」と自分の人生に飽き足らず何かにチャレンジしたくなってきたり、本当にインスパイアされます。

こうやって書いているとまだまだいくらでも紹介したくなるTEDトークが出てくるのですが、今回TEDトークについて書いたのは、TED.comには英語の学習に最適なコンテンツがたくさんあるということを伝えたかったからです。

ほとんどのTEDトークにはSubtitleがついていて、画面下のオプションから選んで表示させることができます。

自分がとくに興味を持った分野のトークを選び、まずは聴いて、聴き取れるところを書き取って、次にSubtitleを表示させてわからなかったところを確認して、また聴く、というのが聴き取りにとても有効な学習方法のひとつです。

私が20年近く前に日本で地味に英語学習をしていたころは、とにかく「音声」と「テキスト」がセットになっている学習材料を見つけるのが大変で、そのような教材は大きな書店で買い求めるしかなくて、あまり選択肢もありませんでした。当時このTED.comのコンテンツのようなものがあったらどんなにありがたかったかと思います。

TEDトークが英語の勉強に適している理由のひとつは、単語や表現、スピーチのテクニックがとても実用的なことです。最先端の技術用語とか、IT用語、環境用語、社会的問題を語るときに使われる単語、明日にでも仕事で使えそうな言い回しがぎっしり詰まっています。

英語の教材としてよくニュースや新聞記事なども使われるのですが、報道記事は独特の文体というものがあってあまり実用的ではないと言う人もいます。18分という短い時間に多くの観客をひきつけ、直接語りかけてメッセージをしっかり伝えようとするTEDトークのほうが、実際の会話やプレゼンには役立つのではないでしょうか。

勉強とともに豊富な知識を得ることができて一石二鳥です! 

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