留学生恋物語

「タツヤ、ちょっと時間ある?」

金曜の朝、色々とバタバタしている中、ドイツ人留学生・パトリックがオフィスに顔を出す。

いつも物凄いニカニカして「へ~い」て手を振ってくるキャラなのに、今日は表情が少し曇っている。

俺「ちょっとなら大丈夫だけど、今、少し立て込んでて。午後とかは?ひょっとして体調悪いんか?」

この時期、一週間程度の「春休み」の旅行やらから戻ってきた生徒達は、だいたい体調不良を訴え始める。パトリックのドイツ人ハウスメート・コンスタンティンもダウン中。

パ「いや、体調は良いし、急用ではないから、午後に顔を出すわ。」

俺「そういや、あのサッカーの書類、リーグに提出した?」

パ「ん、大丈夫。それはやった。別件についてなんだけど、じゃ、二時くらいで大丈夫?」

俺「ガブリエルが何か午後インターンの相談あるとかで、かぶるかも知れないけど…」

パ「そうか…」

俺「ま、あんま気にせず顔出して。じゃ、午後。」

パ「ん、バイ。」

午後1時半。(米国では結構よくある)「work lunch」と呼ばれる昼食会議後、オフィスに戻るとソファにパトリックが座っている。

俺「お、待たせた?悪い悪い。ちょっと入って入って。」

パ「あ、全然気にしないで。ちょっと早く来ちゃったし。」

ガチャっと、オフィスのドアを閉める。

俺「…んで、何かあった?」

パ「タツヤ、俺、本気でマリアを好きになっちゃったかも…」(<要クリック)

——

パトリックと初めて連絡を取り始めたのは、2013年頭。ドイツでスポーツ系米国留学を斡旋する、カーさんからの紹介。

「サッカーで奨学金を貰いながら、ビジネスの勉強したい。」

アメリカへのスポーツ留学は世界的に盛んだが、手続きは意外と複雑で時間がかかる。結局書類が揃うまでに時間がかかり、パトリックの元に「合格」の連絡が届いたのは7月。

コーチから「8月頭に来てコロラドのキャンプに参加できれば良いよ」と言われてたのに、「早くフレンズに行きたい」と学生ビザが許す入国日、学期開始30日前の7月末の夜に一人到着。

夏休みに帰省したその他の生徒がまだあまりキャンパスにいないこの時期。パトリックが到着する夜は大嵐で、ネットで確認すると、シカゴ発ウィチタ行きの飛行機が遅れている。

夜、居残りで送迎待機していると、コーチから電話が入る。

コ「俺が、迎えに行くから、タツヤは気にしないで帰りな。」

俺「あら、そ?ま、自宅から空港まで10分もかからないから、何かあったら携帯に連絡してね。」

コ「はいよ。」

嵐が過ぎカラッとした翌朝、オフィスにコーチがやってくる。

コ「パトリック、無事到着して、少し買い物させて部屋に連れて行ったから。」

俺「あ、はいはい。じゃ、後で軽く顔を出すわ。」

彼が寝ているはずの家に到着。通常、鍵はかかっていない(平和な土地なんです)ので、玄関を軽くノックして、ドアを開ける。

俺「へ~い、パトリック。起きてる?」

何回か声を上げると、奥でゴソゴソ音がする。

パ「…タツヤ?初めまして。」

俺「ウィチタへようこそ。少しは寝れた?」

パ「いや、時差ボケで上手く眠れなくて。昨日到着後、コーチがウォルマートに連れて行ってくれたからシリアルと牛乳買ったんだけど、スプーンとかお椀が見つからなかったから、箱からドサーと口に流し込んだところに牛乳を容器ごと口に持って行き…」

俺「はははは、それ良いね。」

パ「いや、笑わないでって。真っ暗なのに電気のスイッチの場所が分からなかったり、結構修羅場だったんだから。外は猛嵐だったし。」

俺「はははは。」

パトリックとの最初の出会いはこんな感じ。

その後「よく面倒を見てくれているとか。どうもありがとう」と、両親から温かいメールをいただき、11月ウィチタに遊びに来た、「あ、なんだ、やっぱ結構育ちが良いんだ」という印象のご一家とも面会。

本人、やんちゃだが、〆るところは〆てるのか、教授からの評判も上々。コーチも「あいつは真面目だから好き」と一目置かれてる模様。

音楽は(ドイツ人なのに珍しく?)カントリーが好きで、Taylor Swiftがウィチタでやった時も、ちゃっかし行ってた。

基本的にロマンチストなのだろうな。

好きな映画とかも、「chick flick」と呼ばれる恋愛物ばかりだし、少し笑える(若いのにMeg Ryan系を全部知ってたし)。

—–

2013年秋学期、我がフレンズ大学に受け入れた留学生達。

4年制課程では、サッカーその他のスポーツで来ているブラジル、ドイツからの男子生徒が比較的多いが、修士課程では南米、アフリカの女子生徒が多め。

秋学期開始直後の一週間は「Week of Welcome」という、無料で映画館に行けたり、ツアー中のバンドをキャンパス内に招いて野外ダンスだったり、各種企画がある。

その内の一つ、室内娯楽施設「Alley」の無料招待は物凄い好評判で、特に新入生達は年齢差を越えて笑顔が広がる一時だった模様。

その夜、新旧男子生徒の話題になっていたのは(声も人一倍大きく、超お喋りな)当校のMBA課程所属のコロンビア人留学生・マリア。

お隣・ウィチタ州立大学から編入してきた彼女。手続きの時から、本当にお喋りで、一度オフィスに来ると二時間くらいは平気でドワ~と喋り倒して笑い倒して行く強烈なキャラであった。

ただ、この所謂ラテン系の陽気なノリ、「これぞヒスパニック系の美人」という容姿端麗な彼女に、特にヨーロッパ系男子生徒達がメロメロの模様。

当初は、セルビア人留学生・ステファンとチョメチョメしていたと思っていたが、後で噂を耳にしたところ、彼は全然相手にされてなかったという。

—–

秋が深まる頃には、新留学生達からの「これやって、あれやって」「これどうすんの、あれどうすんの」という連絡は少なくなるもの。

パトリックやマリアからの連絡も「最近どうよ?」と気まぐれに来るか、「悪い、ここまで車出せる?」「この書類にサイン貰える?」「大学の正式なレター、書ける?」という最低限のものになる。

「やっと落ち着いてきたか。」

自分のことをある程度こなせるようになったであろう学生達に安心すると同時に、良くも悪くも彼らがウィチタに来た当初の大騒ぎが懐かしくなる。

—–

2月下旬、珍しくパトリックからフェースブックで連絡が来る。

パ「タツヤ、今度さ、Texas Roadhouse一緒に行こうぜ。いつもお世話になってるから、お礼に御馳走したい。」

俺「いやいや、何言ってんの。おごってくんなくて良いって。最近あんま顔合わせることないし、時間合わせて一緒に行くのは良いよ。」

パ「あそこ、パンがめちゃ美味いのよ。」

俺「へぇ、ドイツ人のお前がアメリカのパンを褒めるなんて珍しいね。じゃ日程教えて。都合つけるから。」

パ「オッケーオッケー。」

—–

後日、予算上都合がついたドイツ人・コンスタンティンとパトリックを車に乗せ、近所のTexas Roadhouseに向かう(その他数人は「金欠、無理」と返答)。

コンスタンティンが聞く。

コ「タツヤさ、今日昼間来てた子(当日昼間にネパール出身ポルトガル育ちの可愛い子が見学に来ていた)、秋学期に来るの?」

俺「そんなに気になるなら、フェースブックで自分で聞いてみれば。何でも話のキッカケだべ?てか、ウチに来るようにプッシュをよろしく(苦笑)。」

コ「確かに確かに。でも、俺パトリックみたいにスムーズじゃないから。」

俺「え、パトリック、そうなん?てか、なんだかんだ上手くやってんじゃん。最近は好い人いんの?」

パ「好い人っていうか、ま、仲良くしている子はいる。」

俺「え、いいじゃん、いいじゃん。ん?アメリカ人?この前言ってたバーで会った子?飲み屋での出会いって、あんまピンと来ないが、どうなん?」

コ「タツヤ、それがさ、マリアなのよ。」

俺「え~~、マジで?全然知らんかった。もう結構長いの?」

パ「いやぁ(照)、年末から。」

俺「マジかぁ…ちょっとアンドリア(心理学カウンセラーで一番仲良しの同僚・♀)に報告しなきゃ(苦笑)。」

パ「え、ちょっとあんま広めないでよ、照れるから。」

コ「はははは。」

その後、「今夜デートなのに、バイトの給料日前で現金がない」と言われれば、特例として「Uncle Tat(俺)」が現金を貸し出したり、「寿司を作ってあげたい」と言われれば、日本の白米の炊き方と海苔などの具材調達を手伝い、兄貴役を買って出ていたが…

—–

俺「『本気でマリアを好き』って、どういう『本気』の話よ。」

パ「正式に彼氏彼女になって、将来の話をしてしまう『本気』。」

俺「お~~、すげぇ。おめでたい話…よね?」

パ「いや、でも、マリアはあと一年で大学院終了して、就活が始まって、他の州に引っ越さなきゃいけない可能性もあるから、今これを長引かせて、後でさらに辛いお別れになるなら、今別れたほうが…とか言い出してて。」

俺「マジか?なんか、どっかで聞いたことある理屈だな、それ…」

パ「俺は、とりあえず今の関係を大切に、楽しめる間は楽しんで、その後、何か別の展開があったら、それはその時に心配すれば良いって言ってんだけど…」

俺「お、随分大人な分析。いいよいいよ、パトリック。いいよ、それ。」

パ「でも、マリアはそれはできないって頑固になってて…」

俺「う~ん、難しいね。まだ期間も数ヶ月しか経ってないし、急展開ね。」

パ「そうなの(苦笑)。まさか、こんな短期間でこんなに真面目な話になるとは思ってなくて…」

俺「え、でもそこについては、パトリックも悪い気がしてる訳じゃないんでしょ?」

パ「いや、生まれて初めて本気の彼女って考えてる感じ。自分でもちょっと驚いてる。最近全然寝れてないし。」

俺「はははは。若いって良いねッ」

パ「いやぁ、タツヤ、笑い事じゃなくて、マジ大変なんだから(苦笑)。もう毎晩3時頃まで電話で話して、でも朝6時頃にパッと目覚めれてしまうし…もうずっとマリアのことで頭一杯。」

俺「いやぁ、若いって素敵だねッ」

パ「タツヤ、もう茶化さないでよ。ま、話聞いてもらえるとちょっと楽になるが…」

俺「こんな程度で気が済むなら、いつでもどうぞ。」

パ「で、どうしたほうが良いと思う?」

俺「いや、俺は相談相手としては、あまり相応しくない気がするんだが…単純に短期間で大きく展開してる印象だから、『もうちょっと時間かけたら』て俺は思ってしまうけど、マリアがそれに納得していないとなると、難しいよね。」

パ「いやぁ、そんな謙遜しなくていいって。てか、そうなのよ。時間かけたいのよ。あんなに良い子はドイツでは会ったことないから、俺もちょっと焦っててさ。」

俺「難しいな。(アイルランド人・留学生で同じ悩みを抱える)コルムとかは、アンドリアに相談してるみたいだけど、女性の立場からの意見を聞いてみたら?ま、意見聞いたから解決する話でないけど、会話してると気が済むこととかあんだろうし。」

パ「ちょっと後でアンドリアの携帯にテキストして予定聞いてみるかな。」

俺「あの人、仕事そっちのけで、この手の話大好きだから、キャ~て喜ぶよ(苦笑)。ま、ちょっと落ち着いたら、また今度Texas Roadhouseで話すか?」

パ「全然食欲ないんだって、最近(苦笑)。」

俺「はははは。お~若者よ、気が済むまで悩みなさい(苦笑)。」

—–

その後、夜中に「別れちゃった」とパトリックからフェースブックで連絡を受けた小生。もう、すっかり日本の中学校の保健室の先生状態。

なんか、マリアの雰囲気を知ってるからか、何となく「このまま終わりそうにない」予感がする、あの二人。

とりあえず、近々パトリックとはご飯を一緒する展開になりそう。

肉食うど~。

ちなみにこれ書いてたら、「この選曲は間違いだったわ、ちょっと辛くなってしまった(苦笑)」とパトリックからのメッセージを受信。

いやぁ、若いって素敵。

甘酸っぱい(苦笑)。

—–

留学生の皆様、英語上達の近道は「ハニー」「ダーリン」が外国人であることです(細かく気にしたほうが良い部分も多々ありますが)。

みなさん、ヨーロッパ・南米勢に負けず、肉食系でガツガツ攻めていきましょう。
Photo courtesy of Flickr.com

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2 comments on “留学生恋物語”

  1. たつやさん、この記事、超素敵!!!(←単なるオバサン根性・・・笑)
    いいなぁ~さわやかだなぁ。ポカリスエットみたい。

    恋愛に関しては、女の子のほうが結論を出したがるんでしょうかね。
    私も周りの恋愛相談では、「結論を出したがる彼女vs.出せない彼氏」っていう構図で揺れてるカップルが多いです・・・。

    「まぁ、そう焦りなさんな・・・」と彼氏君が気の毒に思えてしまうこともあるんですが、でもその焦りを受け止められない=今回は縁がなかった!と上手に吹っ切るのも女子の特徴かもしれません・・・。(苦笑)

  2. エリナさん、
    ここは「小さい学校ならでは」で、みんながどちらかを応援してる「男子は」「女子は」という中学校的構図が出来上がってます。

    あんま文化的な差はないようです、この段階では。
    おじちゃんは、ただただ笑顔で見守るばかり。

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