英語にしにくい日本語 通訳編
アメリカに住んでいて「これ、英語で何て言えばいいのかな」と考え込む場面は誰でもよくあることだと思いますが、今日はとくに通訳という私の仕事を通していくつか例を挙げたいと思います。
通訳していて訳しにくい日本語とは、実際にはあまり意味がないんだけど多用される言葉とか、物事を曖昧にするために使われる言葉です。
「よろしくお願いします」などがその一例でしょうか。
通訳者として駆け出しのころは私も、先輩に「よろしくお願いします、って何て訳したらいいでしょうか」などと質問したものですが・・・
一応、通訳歴10年目になった今では、同じ質問を後輩にされたらはっきりと答えることができます。
「それはコンテクストによる。そこだけ抜き出してこれが定訳、とは言えない。そのときにどういう状況で誰が言っているのか、前後の文脈は何か、でそのたびに変わる。」
たとえば、誰かが自己紹介をしていて最後に「これからどうぞよろしくお願いします」と頭を下げたときだったら。
これは、お願いするという言葉の意味よりも、自己紹介の最後の「締めの言葉」という役割のほうが重要なので、「英語で自己紹介するときの締めの言葉ってなんだろう?」と考える。
同時通訳で時間が限られていたら、シンプルに「Thank you!」と言ってしまうことが多いです。長くてもI’m excited to work here, thank you! 程度。文の意味よりとにかく「締め」らしくなっていることが重要です。
これは逆に英語で誰かが挨拶して「Thank you」と締めたとき、つい通訳も「ありがとうございます」と日本語に訳してしまいそうになるのですが、そこを「よろしくお願いします」と訳せばずっと自然です。
他のコンテクストとしては、会議で誰かが「今週はこういう事情で皆さんの協力が必要です。ご迷惑おかけするかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします」などと言った場合。
こういう「よろしく」は、「Thank you for your support in advance」と訳しています。これは割と文章の意味そのものを訳しているパターン。
上司が部下の報告に対して、今回のプロジェクトは良かった。今後もよろしく頼むよ、と言ったときの「よろしく」だったら、Good job! Keep it up! と訳したりします。
他にあいまいで訳しにくい日本語といえば、「対応する」「推進する」といった、具体的には何をするのかよくわからない動詞です。
ここで難しいのが、日本人同士で話している当人たちは何のことかわかっているので主語や目的語がなくても話が通じるのですが、通訳の私にはさっぱりわからず、「それはこちらサイドで対応させていただきますので、迅速に推進するように拠点のほうにも伝えておきますから」などと言われてしまい、こちらサイドってどこ?拠点って何?対応するって、推進するって、伝えるって誰に何を??という状態で会話が進んで行くようなときです。
しかし、通訳歴10年ともなると肝が据わってきて、大抵の状況は切り抜ける術を身につけています(10年なんてまだまだですが・・・)。この程度のことではあまり動揺しません。
「対応する」は、これもコンテクストによって「work on it」「take care of it」「deal with it」とか、ちょっと曖昧にできる言葉をいくつか使い分けたりします。
「推進する」は、辞書をひくと「promote」などといった英語が出てきますが、実際には「move forward with」と言ったほうが自然なことが多いです。
「課題」という言葉も日本人は大好きですが、「ここが技術的課題です」という場合は「technical challenge」だし、「今後の課題としては・・・」という場合は「Issues to be dealt with in the future」と言ったり、文脈によってははっきりと「problems」だったり、持ち帰り課題という意味合いが強ければ「assignments」とか「homework」と言ってしまったりもします。
通訳同士集まって、「こういうときのこういう日本語ってどう訳したらいいかな」という話題になれば、何時間でも議論が続くのではないでしょうか。それくらい、通訳者は毎日が探索、毎日が勉強の連続ですが、言葉というものが大好きな私にはとても楽しい仕事です。
次回は仕事を離れて、普段の生活で訳しにくい言葉を扱ってみたいと思います。
いや~。職人ですね!すばらしい。
勉強になります♪
いえいえ、何か変なこと書いてたら訂正してください(^-^)/
日本語教師の卵としは、かなり勉強になります。「よろしくお願いします」は、生徒からもよく質問されます。勉強になりました。日本語を勉強している人が、初めて勉強する「よろしくお願いします」は、自己紹介の会話で「Nice to meet you.」のように使われています。なので、余計こんがらがるんですよね。応用の日本語に入ったときに、いろんな使い方がある言葉というのが、日本語には多くて、そのニュアンスの違いを説明するのが、本当に難しい。また、いろいろ参考にしたいです。
私がよく聞かれるのは、「お世話になっております」、「お疲れ様です」ですね。これも、時と場合によって訳し方が変わりますよね。難しいです。
Ayaさん、よろしくお願いします → Nice to meet you、いいですね。そういう意味でもあると思います。状況によっていろんな意味になるんだよ、って教えるのがいいのかな。
自己紹介なんかの場合は、逐語的に考えずに「日本語の挨拶って大体こんな構造なんだよ」と丸ごと教えるのがいいかもしれないですよね。たとえば職場に新しい人が来て自己紹介するとき、アメリカ人って「この職場の前はこういう仕事で、その前はこういう仕事で」と時系列的にさかのぼって行くんですが、日本人は逆で「東京のなんとか大学を卒業後、この仕事をして、そのあとこの仕事をして」って順番で話すことが多いんですよね。
そういう構造とか自己紹介で典型的に使う言い回しを丸ごと学ぶのが有効な気がします。
Masaさん、「お世話になっております」かぁ。メールの冒頭の決まり文句だったら、もうHi, how are you?にしちゃっていいような気がしますね。取引先と初対面だったらNice to meet youでいいような。要は挨拶ですものね。意味をちゃんととらえるならI appreciate your business…?でもそれじゃ顔を合わせて口頭一番に言う挨拶としては不自然ですしね。
「お疲れさまです」・・・帰りがけに同僚にかける言葉なら、もう普通に「Bye!」「Good evening!」「Have a nice weekend!」とかになっちゃいますよね。もし会議で部下が何か報告したあと上司が「お疲れさまでした」だったら「Thank you for your hard work」って訳すかな。プレゼンを終えた同僚に「お疲れ〜」だったらGood job!ですねー。
というのは私だったら・・・という単なるアイディアなので、もし何か、状況とその場合の英語の良い例が他にあったらぜひ教えてくださいませ。
Good eveningじゃなくてGood nightでした。
あとhave a good one!って帰る人に声かける人もいますね、いつもoneってなんだ!?って思います 笑