Passover

先週末はアメリカではとても大きな祭日、イースターでした。イースターの週末は金曜日が休みになることが多く、「Good Friday」と呼ばれます。

世の中はGood Fridayでしたが、私たちユダヤ教徒にとっては「Passover」という大切な行事の始まる日でした。

イースターについての情報はたくさんあると思いますので、今日は華やかなイースターの影にかくれがちだけどユダヤ教徒にとってはとても大事なPassoverについて、簡単に紹介したいと思います。

Passoverとは、一言で言うと、遠ーーい昔、エジプトで奴隷になっていたユダヤ人たちが無事にエジプトを脱出した、という歴史を語りつぐための行事です。「出エジプト記」という言葉は聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。

ユダヤ教徒は毎年この時期、自分自身がかつて奴隷であった歴史をふりかえり、子供に語りつぎ、現代でもなお残る労働搾取や児童就労問題と戦っていこう、という決意を新たにします。

具体的にどういうことをするかというと、

  • 1週間続くPassoverの間、パンやパスタなどの炭水化物を食べない ・・・ エジプトを脱出するときにイースト菌でパンをふくらませる時間がなかったという史実を忘れないため
  • Passoverの一日目は、家中を掃除し、あまっている保存食などをチャリティ団体に寄付などする
  • Passoverの一日目の夜は、家族で特別なディナーを囲み、歴史を語りつぐための形式に沿ってお祈りをしながら食事をする
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この「特別なディナー」ですが、実は、日本のお正月の「おせち料理」と共通点がたくさんあるのです。

まず、新春の緑を象徴するパセリ、奴隷時代の涙を忘れないように塩水、奴隷時代の苦い経験を忘れないように苦い味のハーブ、生贄の羊を象徴する焼いた羊の骨・・・など、必ず並べなければいけない象徴的な食べ物がいくつかあります(左の写真)。

このように「食べ物が何かを象徴する」というところが、「まめまめしく働く」ことを象徴して黒豆、「腰が曲がるまで長生き」を象徴してえび、などと食べ物すべてに意味がこめられているおせち料理の考え方と非常に似ていると思うのです。

それに、Passoverはエジプト脱出を語りつぐだけではなくて、春が来て新しい生命が芽生える「新年」を祝う行事でもあります。そのため、一日目にはまず家中を大掃除して、新しい気持ちでPassoverを過ごすのです。これも、大晦日に大掃除をして、すっきりと新年を迎える日本のお正月と似ています。

私は毎年「日本と似てるなぁ」と思いながらパスオーバーを過ごします。厳格なユダヤ教徒は完全にパン・パスタを排除しますが、我が家はなんといっても「トンコツラーメンOK」のゆるーいユダヤ教徒ですから、たとえば娘のデイケアにはとくに何も言わず、他の子たちと同じようにパンやパスタを食べさせます。あくまでも自宅でお料理するときだけ気をつけています。

さて、この特別なディナーの食べ方ですが、ディナーを食べ始めてから食べ終わるまでにひととおりエジプト脱出の物語を語れるようになっていて、とくに子供たちが楽しみながら自然に歴史を学べるようになっています。これは、教室で歴史を学ぶよりもずっと効果的な伝承方法で、世界に離散してしまったユダヤ人がいかに歴史を語り継ぐことができるか、よく考えられた伝統だと思います。

たとえば、パセリを食べるときには塩水にひたし、「先祖の涙を忘れないように」と言いながら口にするなど、食べ物の意味をみんなで確認しながらひとつずつ食べたり、史実の中でもとくに重要なポイントを質問形式にし、会場で一番年下の子供がこの質問を読み上げたりします。この役割を得た子供はとても誇らしげに、みんなの注目を浴びて質問を読み上げるのですが、そんな重要な役割を自分が果たすことで、その後も史実な重要なポイントもしっかり記憶するはずです。

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一週間、パンやパスタを食べないかわりに、「マッツァ」と呼ばれる薄いクラッカーのようなものを主食として食べます(左の写真)。

たとえば朝、トーストを食べていた人は、かわりにこのマッツァにピーナツバターをつけて食べたり、マッツァを細かくくだいたものをシリアルのかわりに食べたりします。

マッツァは正直言ってあまりおいしい食べ物とはいえません。固くて味がなくて、1週間食べ続けるとすっかり飽きてしまいます。

現代のアメリカに住むユダヤ人にとって、普段楽しんでいるパスタやパン、ケーキ、クッキーなどを食べられないのはなかなかつらいことなので、その代わりとなる商品がいろいろと売られています。クッキーのかわりに、卵白で作られるマカロンを食べたり、マッツァを粉状にして焼いたケーキ(一見、普通のケーキに見える)などもあります。

あまりおいしくないマッツァをチョコレートでコーティングした、Chocolate coated matzon なるものさえ売られています。

本来、「エジプトを脱出したときの先祖の大変さを自分たちも味わう」ための習慣なのに、なんだかその目的からどんどん離れているような気もします(笑)

ちなみに食べてはいけない炭水化物の中に「お米」が入るかどうかは、おなじユダヤ人でもルーツによって異なり、我が家の場合は食べてもOKです。普段から私が日本食を作ることが多いので、実はこの1週間、普段とそれほど食生活が変わるわけではありません。

「パスオーバー」で調べれば、インターネットでたくさん情報が見つかり、まるでユダヤ教徒が全員、非常に厳しい戒律を守って生活しているかのような印象を受けると思いますが、実際にはごく基本的な習慣に従いながらもチョコレートマッツァを楽しんだり、外食時にはこだわらなかったりする、我が家のようなユダヤ人家庭がアメリカにはとても多いと思います。

我が家の場合はユダヤ教の教えを軽視しているわけでは決してなくて、形式的なことに細かくこだわらず、パスオーバーの一番大切なメッセージ「かつての私たちのように、現在、不当な仕打ちを受けている人々を救うために何かしよう」という姿勢を、次の世代の子供たちにしっかりと伝えていきたいと思っています。

またこのブログでアメリカのユダヤ人の実際の暮らしはどんなものか、その一例を伝え、広く知られているキリスト教と違ってどこか謎めいた部分の多いユダヤ教の本来のエッセンスを日本の人々にも知っていただけたら嬉しいです。 

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